新型コロナウイルス感染拡大防止を受けた緊急事態宣言が解除され、6月より営業を再開した「カーブス」戸越教室を訪れた。壁には会員に向けた「おかえりなさい」のメッセージ。
高齢者が健康でいられること。これは超高齢社会を迎える日本にとって、極めて重要な課題である。そのためには「健康」を保つこと、つまり正しい運動習慣を継続していくことが必須となる。
フィットネスジムという概念を越えた、スポーツコミュニティーとも言える「カーブスジャパン」の増本岳会長と、健康政策とスポーツ医学の専門家である筑波大学の久野譜也教授に、運動の重要性と運動不足がもたらす「二次健康被害」について、そして、二人が共鳴する健幸長寿社会の実現について語ってもらった。
■顕在化した「二次健康被害」を防ぐための運動習慣
────まずは、お二人の関係について教えていただけますか?
●久野教授(以下「久野」と表記)─今回のコロナウイルスで、みなさんが運動不足に陥るであろう状況に危機感を覚え、正しい運動を習慣化してもらうための動画を制作する時に、会長に協力していただきました。
●増本会長(以下「増本」と表記)─私たちも久野先生と想いは同じでした。スタジオをお休みにしなければいけない状況で、会員様たちにせっかく根付いた運動習慣がなくなってしまうことをどうしたら避けられるかと考えていました。
●久野)─「運動は楽しくないと続かない」んですよね。データによれば1人で黙々と運動ができる人の割合は15%くらい。つまり85%は指導者との関わりや仲間といったコミュニティがないと運動が継続できない。
●増本)─おっしゃる通りですね。私たちも休会中の会員様に電話をかけて運動を勧めていましたが、ご自宅で、ましてやお一人で、となると運動を継続するのはなかなか難しいという現実を突きつけられました。それに、その期間に健康状態が悪化することが心配でした。
●久野)─休会中の会員さんからは具体的にどのようなリスクをお感じになられたのですか?
●増本)─会員様で最も多かったのは「太った(コロナ太り)」でしたね。運動不足と外出自粛によるストレス増加、それと…関節痛などの持病が悪化したという方も多かったです。この2ヶ月間で重い病気になったというより、すでにお持ちの症状が少し悪化しているという感じでした。
●久野)─まさに「二次健康被害」と言えますね。
─────二次健康被害とは何でしょうか?
●久野)─今回で言えば「コロナウイルスに感染すること」が一次被害にあたります。でも、これを防ぐための外出自粛などによって起こる健康被害があります。それを二次健康被害と呼んでいます。外出できず、カーブスにも通えず…たかが運動不足と思われるかもしれませんが、基礎疾患をお持ちの方や、御高齢の方にとっては、運動不足によって引き起こされる二次健康被害の方が深刻な場合もあります。
●増本)─そうですね。心の健康と言えば…外出自粛の期間中、一時的に休会していただいていた会員様から「早くスタジオを再開してほしい」というお声を多く頂戴したのですが、そこには恐らく「漠然とした不安」があったんだと思います。
●久野)─この問題はカーブスの会員さんに限りません。例えばリモートワークが増えたことにより、会社員の方々も運動不足になり、体重の増加や腰痛が増えたというデータもあります。
●増本)─運動の大切さとともに、こういった二次健康被害という概念を広く知ってもらうことも、私どもの使命だと思います。久野先生が発起人となった「SWC(スマート・ウェルネス・コミュニティ)協議会」と一緒に、一般市民に健康を広めるボランティアをやってもらい、正しい健康情報を伝える「健幸アンバサダー制度」などにも積極的に取り組ませて頂いています。
■運動を続けるにはコミュニティ化が急務
●久野)─大学で「死ぬまで参加していただく健康教室」というのを行っているのですが、筋トレやエアロバイクをするだけなのに(笑)ずっと続いている。「生きがいや趣味ができると人生が楽しくなる」ことを理解できた人は続くんですよね。運動は汗をかく気持ちよさも楽しみの一つですが、そういうことも大きなポイントだと感じています。
●増本)─カーブスでも入会時は時間をかけてカウンセリングを行うのですが、そこでは身体のことだけでなく、健康になったらどうなりたいか。
●久野)─いまは運動を習慣化するきっかけや環境が少ないですよね。流行の24時間フィットネスも都市部やオフィス街には多いが、地方や住宅地には少ない。仕事の合間にちょっと運動ができるような、地域の中にスポーツができるインフラがないと、リモートワークを進めてもますます健康被害が起こる、ということを今回知ることができました。カーブスは住宅街にあるのがメリットだと思うので、自治体と連携して30~50代の有職女性を受け入れることなども検討して頂きたいです。
●増本)─自治体との連携で言いますと、鳥取県大山町から「町の健康作りのために」と依頼されて出店したことがあります。人口等を考えれば、出店の可能性は高くないエリアなのですが…地域の健康課題解決に役立てるのであれば、今後も前向きに取り組みたいと考えています。

●久野)─場所は民間が提供し、人を集めるのは自治体が行う形は良いと思います。
────今後予定しているお取り組みや抱負などをお聞かせ下さい。
●増本)─私どものメソッドをより広くの方に波及させたいと考えています。10年以上研究を続けてきた「メンズカーブス(男性会員のみ)」がようやく4店舗になりました。一度始めると男性は通勤のようにルーティン化する人が多い印象があります。
●久野)─女性にはカーブスのようなコミュニティがありますが、男性にはまだ無いというのは課題だと思っていましたので、大変期待しています。ちなみに、カーブスさんはオンラインの活用はどのような感じですか?
●増本)─タブレット端末を支給し、家で運動してもらうトライアルを行っていますが…、お孫さんとのやり取りなど、個人的な用途にも使われていたりしますね(笑)。カーブスにしばらく来れない人もしっかりサポートしていくことはもちろん、ゆくゆくは会員同士での「オンラインお茶会」など、コミュニティ的な活用についても検討しています。
●久野)─実は今日、営業中の教室にはじめて伺ったのですが、カーブスさんは完全にスポーツコミュニティーですよね。無関心層に運動を継続してもらうためには、このような場所が極めて重要だと改めて感じました。
●増本)─もっと通いたくなる。
●久野)─これまでは積極的に健康情報を得ようとしなかった人々の関心が高まっている今は、様々な施策を進めやすいとも考えられます。「健幸長寿社会」の実現を目指して、これからもよろしくお願いします。
●増本)─こちらこそ、よろしくお願いします。
────本日はありがとうございました。
運動をすることや健康になることが目的ではない。二人を中心にこれからつくられていくであろう健“幸”長寿社会の主役は私たちなのだ。だからこそ、自分の「幸せ」のために、正しい運動習慣を持ってほしい。