【コロナ禍の教育現場】子どもと教員のメンタルケアを放置するな...の画像はこちら >>



■感染対策が学校にもたらしたストレス

 文科省は「学びの保障」を声高に叫び、学校現場では授業時数の確保に追われている。もちろん学びの保障は大事なのだが、教員はむしろ、子どもたちの「心のケア」に神経を擦り減らしている。



 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の感染者数が急激に増えてきている。7月31日には東京都で初めて1日の感染者数が400人を突破して463人を記録し、大阪府では29日の221人に次いで過去2番めとなる216人となった。そのほかにも、福岡県や愛知県でも感染者の増加が確認される状況が続いている。国内全体でも29日に1,261人と1日あたりの感染者数が初めて1,000人を超え、31日には1,315人となっている。感染者数の増加に歯止めがかからない状況なのだ。   



 そうした中、学校も「無風」でいられるわけがない。7月11日と16日には埼玉県の県立学校生徒の感染が確認され、19日には沖縄県内としては初めての小学生の感染を確認、20日には福岡県で男性教員の感染が確認されている。 東京都でも、27日には児童生徒の感染としては5例目が確認されているし、29日は台東区で小学生の感染が報告されている。小平市で市立学校の非常勤講師の感染が確認されたのは、18日のことだった。



 上記はあくまで一部の数字であり、児童生徒・教員といった学校関係者への感染も確実に広まりつつあるのが現状だろう。感染が確認された場合の対応は、もちろん大変だ。ただし、それは感染確認後の対応だけではない。

それ以前の対応も、教員にとっては大きな負担となっている。



 桃山学院教育大学人間教育学部の松久眞実教授は新型コロナ禍の学校現場で聞き取り調査を続けているが、そのなかで「子どもが異物を飲み込んだかもしれないと、大騒ぎになりました」という小学校教員の報告があったという。
 その教員は、「その子は母親から『新型コロナに絶対に感染してはいけない』と、きつく言われていたのがストレスになっていたのかもしれません」と説明している。



 これを特殊な例と片付けることはできないようだ。
「異常に甘えたり、不安がる子が増えている」
「生徒同士のトラブルが増えている」 
 ほかの小学校教員からも、上記にような報告があがってきている。



 また、新型コロナによるストレスは家庭内でも大きくなってきている。感染防止のために慣れないリモートワークを強いられたり、短縮営業や休業で自営業やパートなど経済的にダメージを受けている親たちのストレスは限界に近くなってきているようだ。



 その親のストレスが、知らず知らずのうちに子どもに向けられてしまう。異物を飲み込んだと学校で騒ぎになった子の場合も、親のストレスが子に向けられていると言える。いろいろな形で、子どもたちは親のストレスの影響を受けているのだ。





■心の健康問題は誰が解決すべきなのか

 また、新型コロナ禍のなかでDV(家庭内暴力)が増えているという教員の話も聞いた。親のストレスが暴力という形で子どもに向けられているのだ。

当然それは子どものストレスとなり、騒ぎをひきおこす行動や、異常な甘えや不安、そして子ども同士のトラブルの多発につながっている。



 親のストレスだけが影響しているわけではない。松久教授の調査結果では、「学校行事も次々に中止になり、子どもたちは休校中のモヤモヤを発散させる場所を失っている」という中学校教員の声もあった。「学習の遅れを取り戻そうと取り組んでいるが、そうなると授業進度が早くなり、生徒の理解度が追いついていない」と答えている中学校教員もいる。



 新型コロナ感染に対しては、子どもたちもかなり神経質になっている。「暑くなってきたためか、マスクの着用は子どもにとって大きなストレスのようだ」と松久教授の調査に答えている小学校教員もいる。
 しかし、マスクを外したり、あごマスクにしている子を見たら、教員は注意しないわけにはいかない。それは教員にとっても子どもたちにとってもストレスでしかない。
 子どもたちはストレスに、まさに、まみれている。彼らの「心の健康」を保つには、かなり危険な状況となってきているのだ。



 では、その子どもたちの心のケアは誰の役割なのか。



 押し付けられるのは、教員である。

しかし、忙しい教員の生活は、コロナ禍でいっそう多忙になってしまった。それにも関わらず、深刻さを増す「心の健康」にも気を配らなければならないのだが…充分に配慮する余裕などはなく、それを求めるのは無理難題でしかない。



「放課後は消毒や会議、さらにトイレ掃除と、ゆっくり子どもと話をする時間がとれない」
 ある小学校教員がそう嘆いていた。子どもの心の健康に気を配りたくても、そのための時間が捻出できないのだ。やりたくてもやれない、それがまた教員のプレッシャーとなり、大きなストレスになっていく。



 子どもたちだけではなく、教員の「心の健康」も危機的状況なのだ。松久教授の調査に、ある中学教員がこんな話をしている。



「体調不良を訴える教員が、最近、特に増えてきています。一人の教員が倒れると、その教員の仕事をほかの教員がカバーするしかなく、その教員の仕事がさらに増えることで体調を壊してしまう。まるでドミノ倒しのようです」



 学校現場における「心の健康問題」を解決していかなければ、重大な問題につながっていく可能性が高い。「学びの保障」も大事かもしれないが、それ以上に、子どもたちと教員の「心の健康」に対する対策が必要になってきている。



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