日頃見えてこない生活金融の現場。『ぼく、街金やってます』の著者であり、現役街金経営者のテツクル氏の実話をもとにバラ色の20代から暗黒の20代後半へと変わるお話しをする。


 多重債務者の現実。それを「見続け、貸し続け、回収する」街金の現実。
 債務者と債権者の壮絶なドラマをお届けします。



■トンデモブローカーさん列伝

【街金は見た!】恥も外聞もない「鋼のメンタル」なおじさんたち...の画像はこちら >>





 ぼくに、面白い案件を持ってきてくれるおじさんがいます。
 解体屋さんなんですが、解体だけでは食べていけないようで、いろいろとアンテナを張っていて、ぼくに案件を紹介してくれます。
 儲けが大きいんだけど、大元につながっていない案件とか。
 人が何人も介在していて、途中で話が変わってしまっている案件とか。
 暇つぶしには最高ですが、信用して取引先に紹介してしまったりするとぼくが恥をかきます。



「テツクルさん、新宿のど真ん中で表面利回り3%の物件買う人いませんか、500億なんですけど」
「おまえいまから来いよ。ゲンコツくれてやるから」
「いやいや! こんどは本当なんですよ! タイの王族の末裔の人に紹介してもらったんですから!」
「どうでもいいけど、遅れてる利息2万持ってすぐ来いよ」
「すいません、いま5000円しか持ってなくて……」
「てかおまえ、なんでタイの王族と知り合いなんだよ」
「ぼくの友だちがAKBの関係者で、その知り合いがタイから衣料品輸入してて、そのつながりです」
「なんで不動産屋がひとりもいないんだよ……」
「で、資金証明が必要なんですけど」
「500億の?」
「500億の」
「Photoshopでつくればいい?」
「最悪、それで」
 タイの王族の末裔の紹介で新宿の不動産の売り情報を得て、知り合いにAKB関係者が登場して、Photoshopで偽造した資金証明書ではじまる商談。
 もう、なんなの。



 この手のおじさんたちが持ってくる案件をツイートすると、多くの不動産クラスの方々の共感を得られます。

「でたwww」「それ知ってるwww」って感じで。
 また、おじさんたちは有名物件(事件がらみとか、権利関係が複雑で誰もまとめられない物件とか)も、「おれならまとめられる。おれしかまとめられない」と言います。本人はまとめられると思ってるから余計タチが悪いんです。





 ◼︎鋼のメンタルのツワモノたち

 この手の愉快なおじさんはたくさんいます。
 頼まれてもいないのに、勝手に他人の家の査定を依頼してくるおじさんもいます。
「テツクルさん、この物件査定してほしいんですけど」
「現地見ないと正確に言えないけど、このくらいかな」
 査定額を聞いたおじさんは、おもむろにその家を訪ねます。
 その家の所有者とおじさんは、一面識もありません。まったくもって赤の他人です。
 ピンポーン。
「はい? どちらさま?」
「この家を担保に、ウン百万円貸してくれるところがあります。借りませんか?」
「……えっと??」
「いま、ノンバンクから借りてますよね? 借り換えしても少しお手元に残りますよ、すぐ紹介しますから!」
 ブチッ!
 おじさんたちの鋼のメンタル、ハンパじゃありません。



 おじさんたちは、前面に出たがります。商談を仕切りたがります。この案件はおれがまとめた、と言いたいからなんでしょうか。
 不動産の所有者とぼくを会わせてくれればすぐに終わる話を、介在してる何人ものおじさんを経由して伝言ゲームをするので、一向に進まないし、内容が変わってしまったりします。船頭が多いと船が山に登ってしまうように、仕切りたがるおじさんが多いと案件は簡単に座礁します。



 そんなおじさんたちですが、奇跡的に難易度の高い案件をまとめてくることがあります。いくつもの権利が複雑にこんがらがった不動産の案件をまとめる奇跡が生まれたりするんです。
 まとまらない不動産はない、ということでしょうか。



 ぼくも若いころは、こういうおじさんたちを迷わず粉砕していました。イライラしてました。
 でも、多くのブローカーおじさんたちと出会い、数度の奇跡を目の当たりにしてきて、いまではおじさんたちの多頭飼いにあこがれています。
 話を聞くだけなら、何もリスクないですし、がんばるおじさんたちがかわいらしく見えてくるようになるんです。

おじさんたちの適当な話を笑ってきいてあげられる余裕が生まれるんです。
 これからも、おじさんたちが送ってくるFAXを愛でながら、いつか運んでくる奇跡を待ちたいと思います。

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