オンライン授業の導入、それに伴う端末普及が急がれており、すでにデジタル教科書も存在している。このような変革期を迎えている今、教育のデジタル化について、政府・文科省はどのように捉えているのだろうか。

今後、デジタル庁の創設によってあらゆる議論が加速していくと推測されるが、肝心要である「目的」についてはどうなのか。その現状を分析する。



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■「1人1台端末」普及の前倒しは良いのだが…

 全閣僚によるデジタル改革関係閣僚会議の初会合が9月23日に開かれ、菅義偉首相はデジタル庁の創設について「年末には基本方針を定め、(来年1月招集の)次の通常国会に必要な法案を提出したい」と表明した。



 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)でリモートワークやオンライン授業が一気に注目されることになり、首相としては政権の目玉政策にしやすかったといえる。
 「デジタル改革」を目指すとなれば、教育も例外ではなくなる。むしろ、政権の取り組みが国民に分かりやすいということで、デジタル化のメインにされる分野だともいえる。
 先の閣僚会議で菅首相は、「デジタル教育などの規制緩和の推進」を指示した。それを受けて会議では、臨時措置として取り入れたオンライン化を後退させることなく定着・拡大していくことが確認されている。



 公立小中学校では、2022年度末までに実現する予定だった「1人1台端末」を今年度末に前倒しして実現することになっている。新型コロナによって長期休校した学校で、オンライン授業が一気に注目されたからだ。
 しかし、文科省の調査では休校中にオンライン授業を行っていた公立学校は、わずか5%にすぎない。オンライン授業をやろうにも、端末などICT環境が整っていなかったことが大きい。

だから、1人1台端末の前倒しという流れになったのだ。



■オンライン授業の普及で教室が無くなる?

 だが、一斉休校から学校は再開しているので、オンライン授業のための環境を急いで整える必要はなくなっている。それでも前倒しするのは、新型コロナの第2波、第3波に備えるためなのだろうか。それでは、経済的には「心配ない」と強調する一方で、教育分野では「次に備えろ」と危機感を煽っているようなものである。



 文科省として、オンライン授業を本格的に学校に導入しようとしているのだろうか。そこが、はっきりしない。
 オンライン授業が主体になれば、物理的な学校の存在そのものを問い直す必要がある。授業はオンラインで行われ、子どもたちは自宅で授業を受けるとなれば、学校の教室は基本的に不要になる。文科省・政府は、そういう方向にシフトしたいのか。そこが明確にされていないのだ。
 先のデジタル改革関係閣僚会議の初会合でも「デジタル教育に必要な基盤」とともに「ノウハウの不足」を指摘する声があった。それ以前に「何をやったらいいのか」かが分かっていない。

分かっていないのだからノウハウを積み重ねていくのも難しく、「不足」の状態は長く続くことになるだろう。





■デジタル教科書についての指針

 一方で、「デジタル化」の動きは加速している。今年7月7日に開催した有識者による「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」の初会合で、文科省はデジタル教科書導入に向けたスケジュール案を示している。
 それによれば、2024年度の小学校の改定教科書の使用開始に合わせて本格導入する方針を固めている。
 そのデジタル教科書は、必ずしもオンライン授業が前提にされているわけではない。教員が教室前面に置かれたディスプレイなどに表示して使用する指導者用と、子どもたちが自分のパソコンやタブレットなどの端末で使用する学習者用の2種類があるという。
 子どもたちにしてみれば、これまでの紙の教科書が端末に表示される教科書になっただけ、と言えなくもない。



 ちなみに、現在もデジタル教科書は存在している。
 文科省の調査によれば小学校の学習者用デジタル教科書は、2019年度で紙の教科書の20%、2020年度には94%が利用可能な状況になっているという。デジタル教科書を使おうと思えば、使える状況にあるのだ。
 しかし、公立小学校で学習者用デジタル教科書を導入している自治体は2019年度で6.1%、2020年度でも14.7%にとどまっている。利用できるにもかかわらず、利用されていないのが実態なのだ。



 デジタル教科書を使うための1人1台端末が整っていなかったことが理由ともいえる。紙の教科書は無償だが、デジタル教科書は無償給付の対象外で、1教科につき200~2000円の費用が必要だったことも大きい。
 それでもデジタル教科書が紙の教科書よりも「優れている」としたら、導入する自治体は急速に増えたのではないだろうか。デジタル教科書を使うために、1人1台端末の導入に積極的に取り組む自治体が増えてもおかしくなかったはずである。
 デジタル教科書の導入が進んでいないのは、まだ紙の教科書に比べてのメリットがはっきりしていないからではないのだろうか。



■教員への無茶ぶりだけでは状況は好転しない

 教科書をはじめ、デジタルを教育に導入する必要性とメリットが明らかにされ、それからデジタル教科書の導入が促進され、それを使うために1人1台端末も必要になる。そういう流れが自然である。



 しかし現状は、1人1台端末をはじめとする環境整備が最初にあり、それに見合うデジタル教科書の論議が始まり、どんなデジタル化が必要なのかは先送りになってしまっている。
 それにもかかわらず、デジタル改革関係閣僚会議の初会合では「ノウハウ不足」が指摘されているのだ。これでは、目的や目標が明確に示されない中で、ノウハウだけが求められていることになる。



 それに応えなければならないのは、学校現場だ。これを「無茶振り」と言わず、なんと表現すればいいのだろうか。

「いつものことだ」という声が学校現場からは上がってきそうだが、それが子どもたちのための教育デジタル化になるのだろうか。それとも、ただ政権の点数稼ぎの手段にされてしまうだけのことなのだろうか。

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