今後30年で高い確率で起きると予測される各地の大地震。
とくに首都直下地震は70%。
■臓器損傷のない遺体 胴体に残る白い帯状の跡
なぜ、地震で多くの人が「窒息」で命を絶たれるのか(以下、前掲書から一部引用)。窒息死の遺体にはある共通の特徴があったとされる。
阪神・淡路大震災で、当時200人以上の遺体を検案した監察医・徳島大学医学部教授の西村明儒(にしむらあきよし)氏によると、窒息死の遺体には骨折や臓器損傷など目立った損傷がほぼなく、一方で、遺体の大半に衣服下の肌にある異変──白く変色している部分が胴に帯状にあったという。その変色は何かに強く押された跡だという。
なぜ、それが窒息と結びつくのか。その理由は、人の呼吸の仕組みと密接に関係していた。
通常、人は、肺の下にあって腹と胸の境にある横隔膜が動いたり、胸全体がふくらんだり縮んだりすることで酸素を取り入れ呼吸している。
しかし、その胸や腹の上に重量物、例えば柱や梁、家具などが載れば、横隔膜や肺の動きが止められ窒息するというのだ。これが外傷性窒息(がいしょうせいちっそく)と呼ばれるメカニズムだ。
【外傷性窒息】 通常、横隔膜や胸が動くことで呼吸が行われるが、柱や梁が腹や胸に載ることでその動きが 止められ、呼吸ができなくなる。
鼻や口が塞がれる窒息を気道閉塞性窒息とは別に、胸や腹の上に圧迫が加われば、呼吸はできなくなる。阪神・淡路大震災では、この外傷性窒息が多くの人の命を奪う原因となった。しかも想像以上に重くないものでも、窒息を引き起こし致命的になる危険がある。
また氏は、外傷性窒息が起こるメカニズムには特有の「怖さ」があると指摘する。それは、体の上に落ちてきたもの(柱、梁、家具など)が、足や腕の上に載るか、それとも胸や腹の上に載るか、まさに「当たりどころ」次第で生死の運命が決まるということだ。
そこで窒息に至るまである程度の時間があれば、その間に多くの人を助けられるのではないのか、という考え方は大都市震災の実態を考えると、「現実的ではない」と氏は強調する。
理由は、外傷性窒息で救える命の限界はおよそ1時間以内といわれるが、しかし、多くの大震災では、広範囲で多数起こるため、何千人もの人が家の下敷きになっている中で、同時に救い出すことは不可能だからだ。
かげがえのない命を運命に左右されずに守れるのであれば、建物の耐震化、その備えは急務となる。
■建物の耐震化で守れた命旧耐震基準で倒壊・大破3割
窒息死の要因は建物倒壊によるものである。同震災では、1981(昭和56)年以前の震度5強の旧耐震基準(旧耐震設計法)での建物は約3割が倒壊、大破した。一方、82年以降の新耐震基準の建物は
75%が軽微・無被害だった。
では、こうした建物倒壊から命を守るために耐震化の観点から向き合うとすれば、私たちは何をどのように対策を講じればよいのか──。
生命と資産を守るための耐震化対策。
地震大国から地震耐国へ——私たちが、いま、できる「耐震」への確かな一歩その対策を考えてみよう。
■「地震耐国」への備え——データに基づく「RE・do診断」
建物倒壊による死亡リスクは、圧死よりも窒息死が多いという事実。来たるべき大地震でどのように住居への耐震化対策と準備を社会で進めるべきか。
対策は、建物倒壊を防ぐことにつきるのだが、実際、耐震補強・改修は住宅の建て替え以外で進んでいないのも実情である。理由は、資金面の問題だ。通常、耐震診断でさえも大きな費用がかかると言われる。
では、最も効果的な耐震対策はできないものなのか。その一つの解決策となる耐震診断が民間会社から提案されている。
1993年創業で、阪神・淡路大震災を身をもって経験した建築耐震補強で実績のある株式会社キーマンの「Re・do診断」である。同社の強みは、建築分野(集合住宅・学校、庁舎)と土木分野(橋梁・鉄道)の工事実績が400件以上。この豊富なデータベースに基づきリーズナブルで的確な耐震診断を行なっている。
では、それはどのような方法で、従来の耐震診断との違いは何であるのか。同社営業部長の西山健次氏に同診断の内容をうかがった。
「『Re・do診断』とは建物のオーナー様に建物が現在、安全性の観点からどのような耐震状況にあるのか、正確に迅速に知らせることを目的と診断であり、弊社の耐震工事のデータベースともとに分析、建替か改修の判断をリーズナブル
に行える診断です」(同氏)
同診断は構造図面(設計図)より建物の耐震性を判断するだけでなく、補強する場所から補強に関わる費用や工期まで算出する手法である。老朽化不動産の耐震性の事前チェックや予算の算出に用いられ、通常の耐震診断の価格よりも安価に調査することができる同社独自の技術である。
例えば、2000平米のマンションの場合、通常、耐震診断費用は400万を超える。
それが、「Re・do診断」では8分の1程度(50万~、要設計図)の費用で収まるという。
耐震化を進める上でインセンティブになるのではなかろうか。
■「耐震化の壁」を乗り越える設計図からの耐震構造診断
では、具体的に何を診断するのか。「耐震診断で知らなければならないデータは決まっているのです」(同氏)
同社の診断の骨子は大別すると二つである。通常、コンクリートはアルカリ性で強度を保つが、経年で酸性に変化し、劣化する。そこでコンクリートの①中性化深度②圧縮強度を同社の耐震データベースに照らし、さらに図面(設計図)を用いて建物の構造自体から診断を行う流れである。
「建物の居住者の生命を守ることが第一です。
「耐震化」への最大の壁とは経済的負担である。現状、建物のオーナーに任せきりの現状では、社会の耐震化は非常に難しい。
しかし、この費用問題と前向きに取り組む同社など民間サービスの力で来たるべく大地震対策の確実な一歩になるのではなかろうか。