■若手美人女優のテレビ入浴シーンは絶滅寸前



 3月10日放送の「ウチの娘は、彼氏ができない!!」(日本テレビ系)第9話で、菅野美穂と浜辺美波の入浴シーンが見られた。男湯には豊川悦司がいて、壁越しに会話をしたりする。

浜辺は昨年の「アリバイ崩し承ります」(テレビ朝日系)でも毎回入浴シーンを披露。若手美人女優のこういう姿はまさに目の保養だ。



 ただ、最近のテレビからこんな場面はめっきり減った。特にバラエティーにおいて「温泉には美女」というかつてのお約束は滅亡寸前だ。ウサギちゃんと呼ばれるセクシー系の女の子たちがにぎやかにルポする「11PM」(日本テレビ系)のような番組はもう出てこないだろう。



 それでも「王様のブランチ」(TBS系)では女の子の温泉ルポが継続中のようだが、筆者の地元では見られない。また、妙齢の美人タレントが湯につかりつつ、宿のひなびた魅力まで渋く紹介する「秘湯ロマン」(テレビ朝日系)も、今は関東のみの放送らしい。



 ドラマでは、由美かおるの入浴シーンが定番だった時代劇「水戸黄門」(TBS系)のレギュラー放送が2011年に地上波から消えたし、刑事ドラマ「混浴露天風呂連続殺人」(テレビ朝日系)シリーズも07年に終了した。



 そのかわり「サンドのお風呂いただきます」(NHK総合)では、サンドウィッチマンのような中年の男芸人が入浴する。喜ぶマニアもいるだろうが、さすがに少数派だろう。このふたりは「帰れマンデー見っけ隊!!」(テレビ朝日系)の「バスサンド」企画でもちょくちょく入浴する。この旅企画はほかに男のタレントや女のタレントも同行するパターンが多いが、風呂につかるのはもっぱら男のみ。

たまに女が入っても、友近だったりする。



 バスといえば、テレビ東京系の人気番組「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」。レギュラーの男ふたりに、マドンナと呼ばれる女という3人組での旅が基本だ。こちらもマドンナはめったに入浴せず、太川陽介や蛭子能収、田中要次らでお茶(お湯?)をにごすというかたちが定着していった。



 そんななか、今年の正月にちょっと話題になった番組がある。いとうあさことかたせ梨乃のレギュラーコンビがゲストの宇垣美里とともに出演した「あさこ・梨乃・美里の5万円旅」(テレビ東京系)だ。



 入浴シーンがあったにもかかわらず、宇垣だけは参加しなかったことで、ネットでは「どういうことよ」「詐欺か」「せっかく3人で楽しくやってたのに」「仕事がないんだから入ろうよ」といった声が飛び交った。



 もちろん、体調が理由だった可能性もゼロではないが、宇垣の日頃の言動からして、本人が拒否した公算が高い。TBSの女子アナ時代から「ポスト田中みな実」などといわれてきた人だが、最近、同じ局の先輩でも小島慶子のような「フェミかぶれ」を起こしつつあるからだ。







■民放各局が放送していた「芸能人水泳大会」はなぜ消えた?



 じつは「温泉には美女」というお約束がすたれてきた背景にも、ジェンダーをめぐるコンプライアンス的な事情がある。フェミニストたちが何かと「女性的魅力の性的消費は許さない」などと騒ぎ立てるので、テレビ局側も面倒になってきているのである。フェミは少数派にすぎないが、声がでかい。

蚊が一匹でもいると気になるのと同じだ。



 そうこうするうち、美女による入浴シーンは、あの人気番組の二の舞になってしまうのではないか。1970年代から90年代にかけて民放各局が放送していた「芸能人水泳大会」だ。



 山口百恵や松田聖子、男性では西城秀樹や田原俊彦といったトップアイドルが水着姿になり、競泳や騎馬戦を行なう趣向で「紅白歌合戦」のラインダンスなどにも通じるスターの明るいエロスが愉しめた。あからさまなところでは、AV女優などによるおっぱいポロリのハプニングも用意(?)され、もっぱら男性視聴者を歓ばせたものだ。



 とはいえ、それだけではない。ライバル同士が本業以外でもバチバチの火花を散らすのがまた面白かったのだ。



 たとえば、近藤真彦はデビュー当時カナヅチだったため、飛び込み台からどれだけ遠くへ飛べるかという競争に登場。5メートルだったか10メートルだったか、とにかく他の人よりも高い台から飛んで優勝した。それでもやはり、泳げないのが恥ずかしかったのだろう。その後、練習に励み、最終的にはトライアスロンまでやるようになって、海で人命救助もした。その原点が、この水泳大会だったわけだ。



 また、この飛び込み競争はミョーに気持ちを高ぶらせるようで、現場取材をした際、CoCoをはじめとする女性アイドルたちが異様なテンションで競い合う場面を目撃した。場所は大磯ロングビーチ。90年前後の「アイドル冬の時代」のことだ。歌番組が減って思うように活躍できず、みんなストレスをくすぶらせていたというのも影響したのだろう。



 なお、こうした番組にはアイドルのほか、演歌やニューミュージックの人も参加した。意外と張り切る人もいれば、明らかに恥ずかしそうにしている人もいたものだ。今ならYOASOBIのikura(幾田りら)ちゃんあたりの貴重な水着姿を見ることができたかもしれない。そう考えると、水泳大会の衰退は痛い。運動会やかくし芸大会などもそうだが、なんでもやって楽しませるという、芸能の業がうすまってきている気もして残念だ。







■芸能人水泳大会や美女の温泉入浴ルポの衰退は、何を意味するのか?



 ちなみに、水泳大会の衰退には芸能人が水着になりたがらなくなったことも関係している。たとえグラドルなどでも、売れると水着の仕事はしなくなるものだ。とはいえ、水着の需要が消えたわけではなく、そこをうまく利用したのがAKB48だ。

何十人もの女子が水着で踊るというPVなどでのパフォーマンスは、エロスはもとより、それを超えた生命力を感じさせた。国民的グループの勢いをあれほど体現していたものはない。



 ただ、彼女たちが大活躍していた時代から10年ほどで、アイドルのエロスは様変わりした。同じ秋元康プロデュースのグループでも、坂道系は肌の露出も目立たない。ジャニーズ事務所のグループにしても、上半身スケスケの衣裳でデビューした嵐のようなケースはなくなっている。



 やはり、ここ十年くらいでいろいろと変わったのだろうか。



 そういえば、入浴シーンにおいて印象的だったことがある。2015年の「有吉ゼミ」(日本テレビ系)で元フィギュア選手の安藤美姫が旅をしたときのことだ。そのロケの目玉が温泉だったのに、露天風呂に入ったのはおぎやはぎの矢作で、彼女は着衣のまま見守るだけ。あまりにも斬新な構図に、ネットでは「刺青原因説」までささやかれた。



 それでもまぁ、アスリート系だし、海外生活も経験しているし、夫を明らかにしないままシングルマザーにもなっちゃうしで、彼女ならこれもわかる気がしたが――。いまや、男が入浴して女はしないという構図は当たり前である。



 若手の女性タレントでちょくちょく入浴しているのは、りんご娘の王林くらいだ。それを見ながら出川哲朗が「王林ちゃん、オッケーなんだ温泉ロケ」とつぶやいたりしていたが、それほど貴重なものと化している。なかにはお色気に自信があり、入浴や水着の仕事でエロスをアピールしたい子もいるだろうに、そういう子には向かない時代かもしれない。



 もっとも、この状況が男性側の心身の変化のせいでもあるとしたら由々しき問題だ。つまり、性的好奇心や精力が減退して、世の男たちが生身の女のエロスをあまり求めなくなったからとも考えられる。



 実際、筆者にも入浴シーンは「ゆるキャン△」のようなアニメでも見られるからいいや、みたいなところがなくもない。が、三次元には三次元のよさがあり、見たいものは見たいと言い続けないと、水泳大会のように消滅してしまう。男が女に性的魅力を求めるのは、種の存続のためにはよいことなのである。



 なにせ、男が女に、女が男にエロスを感じない傾向は、少子化に直結するのだ。芸能人水泳大会や美女による温泉入浴ルポの衰退は、亡国の兆しにほかならない。



(宝泉薫 作家・芸能評論家)



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