コラムと漫画、しかもプロの姉妹が一つのテーマで決闘する異種格闘表現バトル。今回のお題は【月要痛と書いて腰痛(ようつう)】。

 
 年を重ねると、体の痛みがより生活の中で「自己主張」をしはじめてくる。そんなカラダのパーツを「上」と「下」に分けたコラムです。
 日常生活に慣習化された言葉への違和感をコラムニスト・吉田潮(妹)が、その素朴な感情を綴り、イラストレーター・地獄カレー(姉)が「漫画」で思いの丈で表現してみました(図1~6を順に見てからコラムをお読みください)。



◾️姉・地獄カレーは【月要痛】をどうマンガに描いたのか⁉️

月要痛と書いて「腰痛(ようつう)」。このテーマで地獄カレーは・・・。
【註】(マンガは全6コマになります)







◼︎妹・吉田潮は【月要痛】をどうコラムに書いたのか⁉️



 2019年末から腰痛に悩まされている。痛みというよりは、ぎっくり腰が起こりそうな不安感が24時間、腰にまとわりついている状況。上半身と下半身のジョイントがうまくいっていない感覚。上半身と下半身が不仲、みたいな。そんな不穏な状態を表現するべく、腰という字の部首を別居させて「月要痛」としてみた。



 この10年、毎週マッサージとひどいときは鍼も受けている。そもそも背骨の自然なS字湾曲が少なくて、「平背(へいはい)気味だから、腰痛は必至」と言われていた。

ええ、心は歪んでいても、背骨だけはまっすぐの一本気なのよ。



 念のため、整形外科でレントゲンも撮ってもらったが、医者からも同様に「平背の弊害」と言われた。腰椎すべり症とか腰椎ヘルニアといった病気ではなく、まっすぐすぎて多少の負担がかかっているだけらしい。医者は「背骨はさておき、腸にずいぶんとガスがたまってますねぇ。便秘ですか? え、逆に出すぎる?…へえ…」とのこと。いやいや、さておくな、私の背骨を。腰痛自体が日常生活に支障をきたすほど深刻ではないため、筋肉の緊張を緩和する薬と消炎鎮痛剤をもらって診察終了。このまっすぐな背骨とどう付き合うべきか。



 腰痛との付き合いを振り返ってみる。10代のころは背骨とは関係のない腰痛として、生理痛が君臨していた。あの、重くてだるくて鉛のベルトを巻いているような腰の痛み。腹部は思いっきり殴られたような鈍痛。

「毎月毎月あの痛みでよく生きてきたな、10代の俺」とほめてやりたいくらいだ。



 しかも、部活の試合や大会と重なることも多かった。月の肝心要のときに生理。まさに月要痛だ。試合のときはアドレナリンが出ちゃってるから、痛みを忘れていたけれど。25歳のときに低用量ピルに出会い、生理痛は撲滅できた。月の要の時期に重ならないよう、ずらすこともできたし、腰の重だるさとは無縁になった。
 
 30代に入って、初めてぎっくり腰を経験した。あれ、本当に動けないのね。ミリ単位の動きで激痛が襲う。テレビドラマでもぎっくり腰になるシーンを俳優が演じているけれど、リアリティのあるぎっくり腰を演じた若手は見たことがない。50代の俳優はさすがにリアルね。

この人は経験者、とわかるようになった。



 ぎっくり腰を何度か経験するうちに、急性期は冷やして、慢性期は温めて、などの豆知識を会得。マジックテープで体幹を固定するコルセットも、いくつか持っている。くしゃみしてぎっくり腰、朝起きたらぎっくり腰、振りむけばぎっくり腰。そう、ぎっくり腰は何気ない日常の無意識な瞬間を狙って容赦なく襲ってくるのだ。 



 そのうち、いくら馬鹿でも脳みそはぎっくり腰防御策を自然と行うようになる。くしゃみが出そうになると、ぐっと腹筋に力を入れて、腰が不意打ちをくらわぬよう意識が働く。瞬発力を控え、ゆったりと緩慢な動作を心がけるようになる。加齢に伴う知識と経験の勝利だ。おかげで、ぎっくり腰は起こらなくなった。 
 
 数々の腰痛を克服・撲滅してきた百戦錬磨の私だが、今迎えている月要痛はなかなかに手ごわい。まっすぐな背骨というナチュラルボーンな要因は、知識や薬でどうにかなるものでもない。

さらにいうと、ちょっと調子がよくなって上半身と下半身が仲直りしかけると、違和感がなぜか股関節や膝関節にうつる。股関節がキシキシときしんだり、膝関節がはずれそうな痛みと恐怖に襲われる。



 特に膝関節は厄介で、この発作を「膝カックン」と名付けている。膝の中で何が起きているのかはわからないが、一時的に腱が骨にひっかかったような感覚で激痛が起こる。骨付きの鶏のから揚げを思い出してほしい。骨頭部に腱がひっついていて、歯を立ててこそげるよね。いつもあのビジュアルを思い出すのだが、結構痛い。激痛。でも何かの拍子にカックンと戻ると、痛みは消える。膝にイヤな余韻が残る。膝カックンがまた来たらと不安もよぎる。腰・股関節・膝で変な連係が起きている。



 結局すべては背骨がまっすぐすぎるから。君が素敵すぎるから、ではなく、背骨がまっすぐすぎるから。



 骨はどうしようもないが、補強はできる。そう、筋肉である。週に1回の筋トレをはじめて3年近くになった。以前は元相撲部、現在は元自衛隊のトレーナーにしごかれている。彼いわく、「僕は腰痛を経験したことがないです。腰痛もちの人はもれなく背が高いですよね。背が低くてよかったと思えるようになりましたよ」。自分より15センチ背が高い私を、ちょっと見下ろして優越感に浸っていやがる。



 確かにパーツ(椎骨)の数や大きさはそんなに変わらなくても、背が高いと距離が長くなり、負担も大きくなる。背骨がまっすぐすぎるし、背が高いから。

もうこれは、前世に何か悪いことをした報いと思うしかない。



 さらにもうひとつ、私の腰痛には法則がある。冬に起こりやすい。気温が下がると筋肉が収縮するせいと思っていたけれど、違った。猫である。



 2000年からずっと猫と暮らしている。寒くなってくると、キャツらは布団の上で寝る。19年生きたキクラゲは、なぜか私の股間で寝ることが多かった。アクリル毛布と羽毛布団の間に侵入し、股間でこっぽりと暖をとる。おかげで私は寝返りが打てない。仰向けで大股開いたままを維持するというのは、腰にかなりの負担である。



  今、我が家にいるダー(7㎏)とメー(4㎏)も、気づくと私の脚に添って丸まっている。計11㎏のおもりで動きを封印され、朝起きると腰も肩もガチガチだ。しかし、心優しい下僕の私は猫を優先。邪険に扱うことなど、どうしてできようか。



 背骨がまっすぐすぎるから、背が高いから、猫の下僕だから。この3つは変えようがない。もうそういう運命だもの。ゆえに腰痛とは一生付き合う覚悟である。



 でも、いつかどこかで何かの拍子に、私の上半身と下半身がカチッと合体する瞬間がくると期待もしている。すごく気持ちがいいだろうなぁ。世界が変わるだろうなぁ。無事に合体したら、ダンスでもならおうかしら。リズム感皆無の私が急に踊り狂い始めたら、「あ、やっと腰になったんだな…」と思ってほしい。



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 (連載コラム&漫画「期待しないでいいですか?」次回は来月中頃です)

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