50代からの賢いお片付けは、不要なものを必要とする人へ「つなぐ」視点で新たな家財整理の方法を前2回において議論してきた。
 今回は、「家」を中心にみなさんとともに考えていく。

日本人の「家」に対する価値観をちょっと変えるだけで、お財布にも人生にも優しいライフサポートになることを提案します。



【50代からの「家」のあり方】空き家からリノベーションへ「生...の画像はこちら >>
◼空き家問題の解決とは、持続可能な「住み替え」文化への転換

 第1位は東京都世田谷区4万9070戸、第二位は東京都大田区4万8080戸。3位は鹿児島県鹿児島市、4位は大阪府東大阪市と続くこのランキングはいったい何か? 



 答えは空き家戸数。『日本経済新聞』2020年1月12日付朝刊記事からの抜粋(ソースは2018年総務省「住宅・土地統計調査」より)である。また同調査によれば、日本の総住宅数6242万戸に対し、空き家数849万戸。なんと、13.6%。約7戸に1戸が空き家なのである! 野村総研の調べ(「2040年の住宅市場と課題 - Nomura Research Institute」2020年)によれば、2038年には空き家率は30.5%(シナリオ①:08-12年度の水準に戻る場合)にもなると予想されている。





【50代からの「家」のあり方】空き家からリノベーションへ「生きるための家」つなぐ価値への転換点《人生のつなぎ方③》



 2020年7月以降、東京都の人口流入はコロナ禍で減少傾向にある(総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」)が、しかし、依然として都市の過密、地方の過疎の図式は変わっていない。



 にもかかわらず、東京、大阪の大都市部での「空き家戸数」は群を抜いて大きくなり、全国主要都市でも「空き家問題」は深刻化しているのである。



 深刻化することの本質とはなんであろうか。



 その一つには「家」が世代にわたって上手に「つながらない」ことを意味している。今回は、「つながらない」家を「リノベーション」という方法で、親族の相続、あるいは他人への売却によってより最適な人生のつなぎ方を考えていく。



 そもそも空き家問題が深刻化する状態とは何か? ざっとおさらいする。それは、「2025年問題」といわれる人口動態と深く関係している。



 現在から4年後、つまり25年に日本の人口の4人に1人、75歳以上の「後期高齢者」になるという超高齢社会の到来だ。1947年~49年に生まれた「団塊世代(=第1次ベビーブーム)」の約2200万人がそれにあたる。



 その彼らの子ども「団塊ジュニア(1971~74年うまれ=第2次ベビーブーム)」たちに資産としての「家」がうまく継承されない可能性が想定されている。



 現在の空き家問題が「深刻化する」のは、人口ボーナス期である両世代の「住まい」への考え方、経済状況および人生観が異なっていることも暗示する。すなわち、団塊の世代の好んだ、大都市近郊の上質な戸建て住宅街が一気に空き家化することが懸念されている



 そうした社会問題化する空き家問題に対して、市場を通して解決すべく取り組む会社がある。遺品・生前整理から思い出の詰まった家などの不動産を最大に活かすべく「ライフサポート」を企業理念に、顧客の「ライフ(生命・命・人生)」と向き合いながら事業を展開する竹本泰志(株式会社「クオーレ」代表取締役)氏に話を聞いた。



【50代からの「家」のあり方】空き家からリノベーションへ「生きるための家」つなぐ価値への転換点《人生のつなぎ方③》



「空き家問題は、親子間の相続、税制の問題もあり、それぞれのご家族の間に事情があります。さらに、日本の住宅環境として、中古市場が未発達である環境の問題もあります。一般論として言えませんが、それでもご家族に何度もお話をうかがうと、最適な解決策がみえてきます。その一つがリノベーションなのです」(竹本氏)





◼30年かけて建物の価値がゼロになる矛盾

 一国一城の主となる。

結婚を機にマイホーム(戸建)を所有することは、夫婦の夢であること、その家計の夢が原動力となり国家の夢と重なり、高度経済成長を「個人消費」の面から支えたことも事実だろう。
 しかし、それは終身雇用制(無期限雇用)の会社員である信用がベースにあったこと。さらに、その信用が、例えば、35年住宅ローンを成立させ、住居(土地含む)の所有が可能となり、その完済と同時に、退職金と厚生年金で老後に備えることができる「ライフサイクル」が前提にあったからこそ可能となった「からくり」であった。
 土地価格(公価)も下がらない「神話」も当時の人びとの意識にあったのかもしれない。ゆえにマイホームの夢は、高度経済成長期の「歴史的」なものであって現在の視点から言えば、「奇跡」とも呼べる夢だったのかもしれない。



 しかし、30年以上の住宅を売却した経験のある人(相続物件含む)なら実感できるだろうが、「上物=建造物」はほぼ価値はゼロになり、土地のみの価格しか残らないのである(特に81年施行[新耐震基準」以前の上物)。
 例えば、4000万円で新築物件(土地2500万円、上物1500万円)を購入したときから30年後、売却した場合、土地価格が上がらなくなった状況では、2500万円以下に価値が減数する可能性が高い。現に、コロナ禍による土地需要の減退は国交省の公示地価でリーマンショック後の2009年以来の下落幅を記録した(本年、1月1日時点)。
 さらに、家の住宅寿命における国際比較では、著しく低い日本の住宅寿命を示している。



《住宅寿命の国際比較》
日本30年
米国55年
英国77年
(「住宅長寿命化に向けた研究の取り組み」2011年国土技術政策総合研究所 大竹亮より)



 果たして「一国一城の主の家」は、もちろん、家を持つことで、人生に張りができるメリットもあることは確かなのだが、資産運用の観点からは、ドアに鍵を挿して入居した瞬間に「家」の価値は目減りするという「残念な」ものとなることも事実である(1969年~2011年まで、900兆円弱の住宅投資=国民の資産が334兆円。正味500万以上まで失われる)。
 これは、明らかに国民の資産形成を阻害していることにもならないだろうか。



 また、容易に居住の移転の自由を阻害するため、家族の成長にともなう変化——例えば高齢化への方策、例えば、高齢化にともない自宅売却しての駅近の「サービス付き高齢者向け」物件(高サ住)や老人ホームに移りたくても建物価格がゼロになるため容易には移れない状況になる、



 さらに、そうしたマイホームの思想、愛情が、子供たちに「つながった」かといえば、概ね理解されてはいるものの、現状、空き家問題が社会課題となっていることからもおぼつかない状況であることは否めない。
 団塊ジュニア世代は、バブル崩壊後の「就職氷河期世代」でもあり、親の世代との経済的格差もある。さらに、核家族化と個人主義の傾向は親世代よりも「常態」化している。さらに「育った家には帰らない」という自立心も強い傾向がある。と同時に、彼らも親同様、住まいの購入には新築物件を購入する傾向もある(また1968年以降、住宅は供給過剰であることも事実である)。



「私たちは人生のライフサポートを、SDGs(持続可能性)として位置付けています。不動産もそのように捉えるべきだと考えております。つまり、人と人をつなぐことは、人生観をつなぐことだとも思うのです。具体的には住み慣れた家の素晴らしさを、新しい世代に活かしながらつなぐことだとも思うのです。さらに、日本には住み替えの文化が成熟していません。中古住宅が資産として適切に管理されない傾向があります。それを私は変えていきたいと考えています」(前出・竹本氏)





◼「住み替え」人生のリノベーションの発想——レモンの原理を超えて

 ここで中古住宅市場の流通シェアを見てみよう。


 日本が、新築住宅文化であり、住まいが一生に一度の買い物として購入されていることがはっきりとわかるデータである。ゆえに、日本では、不動産は文字通り「一生もの」とされてしまう。



《既存住宅の流通シェア国際比較》
日本13.1%
米国77.6%
英国88.8%
仏国66.4%
(国交相「平成15(2003)年資料より」)



 しかし、人生は年とともに変化する。その需要の変化に応じた住宅を選択でき、最適化するための情報が極めて少ないのが、問題なのかもしれない。
 つまり、私たちは、資産を人生の中でどう運用すべきか、とくに人生を賭けて目減りする新築住宅に投資するも、老後でお金が入用のときに「ない」状態になっているのだ。
 人生100年時代とも言われるなかで、これは明らかに不利な買い物ではないのか。



 では、中古住宅市場——なぜ「住み替え文化」が、日本では根付かないのだろうか。



「今までは、たしかに住宅は新築(戸建)が中心であったことは確かです。それは、中古住宅に関する情報が少なかったことに関係しているのではないでしょうか。とくに売り手と買い手の間に建物の情報に関する格差があったと思うのです。私の考えるリノベーションは、まず買い手である顧客が納得できるまで話し合い、顧客の人生における希望と向き合い、寄り添った上で、中古住宅の可能性が生まれ、大きく変わると考えているのです」(前出・竹本氏)



 竹本氏の話は、学術的には「アカロフのレモン市場(1970年)」と言われる原理である。
 レモンの品質は、厚い皮に覆われて、外からは鮮度や品質がわからない、という喩えから購入後、はじめて品質や本当の価値がわかる商品が取り引きされる市場のことを言う。

すなわち、買い手は売り手よりも情報が圧倒的に少ない「非対称」の関係にあること。これが、日本の中古住宅市場を活性化できていなかったかもしれない。



「ライフプランとしてお客様の人生を考えた場合、例えば、夫婦ともに若く結婚をなされて子どもを育てる場合は、郊外の大きい戸建などでのびのび暮らしたりでいいかもしれませんが、子どもが自立され、老夫婦になったときには、建物への管理の負担が少なく、駅に近い利便性のある物件などがよくなるケースもあります。そうしたライフサポートをお客様の人生の節目と向き合いながら誠実に考えていくべきだと思うのです。その意味で経済的負担を少なくしながら快適に暮らせる住み替えの文化を築いていく時期にきていると思うのです」(前出・竹本氏)



 では、具体的に「住み替え」は、どのように行われるべきなのだろうか。
 リノベーションが行われている現場を取材した。





◼いま、「家」に住むこととは——つないでいくこと

 都内23区内の中古分譲マンションは、築39年、その外装に比して、内装は完全に変化を遂げていた。同社取締役の本田啓夫氏に話をうかがった。



「このマンションは、お子様のおられないご夫婦(ともに50代後半)が一昨年12月のコロナ禍をきっかけに、リモートワークが日常化されたため、20年3月に売却されたものです。ご購入されたのは共働きの若いご夫婦(30代前半)でしたが、当初は、新築分譲を探されておりましたが、ライフプランのご相談を受けた時から、中古マンション物件をお探しになるようになりました。お話を進めると、お子様ができれば、小学生になるまでは職住近接にしたいとの意向をもっておられました。希望は、日々の食生活を楽しみたい意向があり、ダイニングをしっかりと設計し直し、リビングはできるだけ広くくつろげる仕様にして欲しいとのことでした。

やはり、リノベーションは、住む方のライフスタイルに即していくべきだと思うのです」(本田氏)





 売り手のご夫婦は、自分たちの家が、若い世代の夫婦につながれていくことをとても喜んでいたという。新耐震基準後の建物であるものの、内装は当時の分譲仕様。デベロッパーの設計で作られたものであった。



「3DKを2LDKに改装し、居心地のよさを求めるご家族の希望を実現しています。ダイニングでのひとときをご夫婦ともにお料理をつくることが趣味であったため、シンクのスペースをしっかりと取り、バーカウンターでもちょっとしたお食事を楽しめるようにしています。お客様も新築分譲よりお安く買われ、将来の住み替えにも備えての設計にしたいとの希望でした。私たちも、お客様に正確な情報を伝えながら、ご納得した上でご購入いただけるようにしております」(前出・本田氏)







 終の棲み家としての「新築文化」から人生のイベントに合わせた「住み替え文化」へ。
 家というモノ自体の所有から、人生を楽しむための機能的な住居へ。



 それは、資産の減退を抑制しながらライフステージに応じた最適な投資になる可能性をはらんでいる。中古住宅市場はマンションでは活性化されており、高度成長期以降に生まれた世代の住居観の変容も期待できるものとなるだろう。



 なぜなら、欧米に比して「資産としての家」=「人生の最適化」という一個人としての選択肢が市場規模でいまだ、5~6倍の成長できる「伸びしろ」があるからだ。

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