コラムと漫画、しかもプロの姉妹が一つのテーマで決闘する異種格闘表現バトル。今回のお題は【別居婚(べっきょこん)】。
夫婦は、絶対に「一つ屋根の下」で生活する必要があるのだろうか。恋愛結婚だってその歴史はたかだか50年程度。日本の長い2000年の歴史からいえば、同性婚や夫婦別姓婚とさして変わらない「短い」常識だ。今回は、別居婚を実践する妹・吉田潮に、姉・地獄カレーが「辛口」のマンガで応酬する。
日常生活に慣習化された言葉への違和感をコラムニスト・吉田潮(妹)が、その素朴な感情を綴り、イラストレーター・地獄カレー(姉)が「漫画」で思いの丈で表現してみました(図1~8を順に見てからコラムをお読みください)。
◾️姉・地獄カレーは【別居婚】をどうマンガに描いたのか⁉️
別居婚(べっきょこん)。このテーマで地獄カレーは「辛口」でどう描いたのか。
【註】(マンガは全8コマになります)
◼︎妹・吉田潮は【別居婚】をどうコラムに書いたのか⁉️
2011年に3度目の結婚をして、約10年になる。静岡と東京で別居婚だ。夫は家業を継いで、静岡に両親と同居。私は東京で猫と暮らしている。仕事を減らして静岡の家業を手伝う選択肢もあったが、商売が順調ではないこともあって却下。
初めの頃、別居婚というと「なんで結婚したの?」と聞かれた。「好きだから」と答えると、「一緒に住まないなら結婚する意味、なくね?」と言われた。確かに結婚しなくても恋人のままでよかったのではないかとも思う。それでも婚姻関係を結んだのは、お互い相手に対して責任をもつ覚悟でもある。経済的に、または精神的に疲弊したときは助けあえるよう、共助の関係だ。
ま、ぶっちゃけ入籍したのは不妊治療のため、でもある。体外受精を受けるには配偶者であることが必須だったため、急遽、速攻、入籍。結婚式も披露宴もパーティーもやっていない。そして私は生まれて初めて名字が変わった。
結婚直後は「ひとりで寂しくないの?」と聞かれることが多かったが、この10年で驚くほど反応が変わった。
ときどき、面倒くさいおっさんが「民法第752条に反している」みたいなことを言ってくるときがある。
【同居・協力・扶養義務】夫婦は同居し、互に協力し扶助しなければならない。
ということらしいが、私たちはお互いが望んでそうしているので、違反ではない。つうか、うっせーうっせーうっせーわ。
昭和初期生まれの親たちはいろいろと思うところがあるかもしれないが、親の願いや気持ちや体裁よりも、私たち夫婦がうまくいく関係性のほうが大事。周囲や外野の人間が何を言おうと気にしないし、実際、親も私たちのスタイルを尊重してくれている。あ、私の父だけは認知症になってから「あいつは嫁いだのに静岡に行かず、家業も継がないで、遊んでばかりいて!」と密かに怒っていたらしいが、認知症で翌日には忘れているから気にしない。
別居婚のメリットはなんといっても「個の尊重」。
デメリットを考えたのだが、「ムラムラしたときに気軽に解消できない」くらいで、他が出てこない。もうこの年になれば、ムラムラの頻度も著しく低下したし、自己処理も得意だから。パソコン接続だ、家具移動だ、DIYだのも自分でできるし、夫に頼らなければいけないことが実はない。夫も同様、自分でなんでもできるので、私を必要とするシーンはほぼないと思う。
そうそう、災害時は心配だ。遠方だと安否確認も難しい。そこは宿命と割り切るしかない。東京の私はともかく、夫が住むのは静岡の海っぺりなので、とにかく「岡へ逃げろ」とだけ伝えている。
SkypeにLINEがあれば遠くにいても顔を見ながら話もできるし、買い物も作業代行もポチッと頼めるこの令和の時代、別居婚がスタンダードになってもおかしくはない。こうなったら「別居婚推進委員会」でも作ろうかと思うのだが、別居婚がうまくいくためには3つの条件がある(と思う)。
まずひとつめ。「健康」だ。お互いが健康であることは必須。健康な人間の傲慢かもしれないが、やはり心身に不安のある人は同居して助け合うほうがいい。
ふたつめ。「小さい子供がいない」こと。これは「子供は父と母が一緒に育てるべき」という説教臭い意味ではない。子育てはたぶん共闘体制で、父とか母とか男とか女とか関係なく、人手は多いほどいい。単純な数の問題だ。手のかかる子供がいるうちは同居して徒党を組んだほうがよかろう。
そして、3つめ。「相手が二番手」であること。実は「お互いに好きだが、それ以上に自分が好き」な人のほうが別居婚に向いている気がする。夫も私も、相手より自分が好き。確か90年代には「二番目に好きな人と結婚するくらいがちょうどいい」なんて言われていた。文言としては正解だが、意味がちょっと違う。
というのも、相手を好きになりすぎて自分を捨てたり、個性を殺してしまう人が結構いる。仕事のキャリアも趣味も感性もセンスも、結婚するために捨てたり、我慢したり。いつか必ずその後悔が、むっくりと目を覚ます。「こんなに自分は我慢したのに」「こんなに好きなのに相手は応えてくれない」という恨み節になるからな。
不向きも確実にある。「配偶者がいないと何もできない依存傾向の強い人」あるいは「配偶者を支配・束縛したい人」は別居婚に向かない。配偶者の行動や予定をいちいち把握しないと気が済まない人は、そもそも別居婚に興味がないだろうけれど。
お互いに別居婚が向いているが、老後というか近い将来、一緒に暮らすことを楽しみにしている。現在、夫55歳、私49歳。今後の仕事と健康状態次第だ。どちらかが倒れても生活が成り立つよう、今は頑張って稼ぐ。「急いで何かを捨てて同居しなくても、老後に新婚生活を送るという手もあるよ」とふんわりお勧めしておこう。
(連載コラム&漫画「期待しないでいいですか?」次回は来月中頃です)