■中国が感染を抑え込めた要因とは
2020年に世界中を震撼させた新型コロナウイルス。年が明けてもまだまだ世界中で猛威を振るっていると言いたいところだろうが、実は一部の国では終わったものとして「コロナ以前」の生活に戻っている。
昨年の今頃もてはやされたスウェーデン型の対策もすぐにボロが出てしまい、北欧モデルのコロナ対策は失敗しつつある。一方で、台湾のように昨年12月22日に257日ぶりに新規感染者を一名出しただけで、感染が確定した日から14日前までの足取りを調査して公開するほどの対策をしてきた国もある。
現在、新型コロナウイルス感染拡大が抑えられている国と抑え込みができていない国をピックアップして紹介をする。どの点が共通しているのかチェックしてこれから国内での感染拡大を防ぐために必要な対策は何かを知ってもらえたら有り難い。
新型コロナウイルスが世界で最初に感染拡大して国内がパニックに陥った中国だが、今ではすっかりと落ち着きを取り戻しつつある。5月2日現在、中国本土の感染者数は325人で、うち重症者が4人となっており、輸入症例患者は現在287人で、うち重症者が4人。感染の疑いがある患者は11人とかなり被害は収まっているといえる。
同日からメーデー5連休に入った中国は連休中に延べ2億人が国内を旅行などで移動する見通しとなっている。経済も新型コロナウイルス感染拡大前の一昨年の水準にまで戻る見通しだ。国民を徹底して行動制限させて、どこへも行けないように管理監視を行うといった対応でパンデミックを乗り越えてきた。人権が他国よりも弱く、一党独裁の強みであるスピーディな対応が生きてきたといえる。
ワクチンも国内で開発できて、すぐに接種できるほど思い切った方法できたのも中国の強みだろう。
中国が感染を抑え込めた要因の一つが中医学(中国の漢方)だという。感染症、呼吸器の専門家と中医(中国漢方の専門家)が共同して「三方三薬」という中医薬を開発し、コロナ感染者の91・5% にあたる7万4187人に用いられ、90%以上の患者に有効だったと報告されている。
現在は、危険度もレベル2まで下がってきており、発症を食い止めてきている中国は間違いなく勝ち組の一つといえるだろう。
■イギリスとニュージーランドはいかにコロナを抑え込んだのか?
続いての勝ち組はイギリスである。
イギリスは昨年の今頃はジョンソン首相が「コロナなど大したことない」と高をくくる発言をしてロクな対策をしておらず、医療現場で感染を防ぐための防御セット(マスク、メガネ、ケープ、手袋など)も大幅に不足した。「ロックダウン(都市封鎖)」の導入も遅れ、3月23日の最初のロックダウンまでに大量の感染者を出した。第1派では死者の大半が高齢者施設にいた高齢者や職員が亡くなるという悲劇的な展開へと向かっていった。
夏には一時的に感染が収まったかのように見えるが、日本でいう「 GO TO EAT」のような外食奨励政策が再び感染を拡大させ、変異種も発症させてしまいロックダウンへと入った。
しかし、ワクチン接種が国民全体へと広がり、徐々に感染者は減っていき、4月12日以降はすべての小売店の営業が許されたほか、美容院、理髪店、レストラン、パブも久しぶりにオープンできるまで回復してきている。
変異種まで発症させた国の中ではかなりの回復傾向にあり、副作用の問題はあるものの自国のアストラゼネカ社製ワクチンが完成したのが功を奏している。
ジョンソン首相は自身がコロナに羅漢をして退院をした際のビデオメッセージで「Thank」を8回も使い、医療従事者へ感謝の言葉を発して賞賛を浴びたが、現在は昨年11月に「再びロックダウンするくらいならば数千の遺体が積み上がったほうがマシ」と発言したと報道され、与野党、マスコミ各社から猛批判を浴びている。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこのことかもしれない。
第三の勝ち組として挙げたいのがニュージーランドだ。元々感染の中心地であるユーラシア大陸から離れており、感染者数自体も5月4日現在、2622人と少なかった。
ところが、世界的に初期のパンデミックが起きて国内の感染者が数十人出たときにいち早くロックダウンを実行。国境を封鎖し、渡航者全員を強制隔離し徹底的に接触者追跡を実施した。その成果もあって2020年5月2日から「102日間連続」で、国内の新規感染者数ゼロを記録し、6月8日にはアーダーン首相が国内から新型コロナウイルスを一掃したと宣言した。
それでも手を緩めることなく、手洗いなどの基本的な行動のほか、国境封鎖、公共交通機関でのマスク着用の義務、自分がどこに行ったかを記録するための追跡アプリ「NZコーヴィッド・トレーサー・アプリ」利用の奨励し、8月上旬まで新規感染者は国外からの入国者のみに抑えてきた。
現在は、ソーシャルディスタンスどころかマスクの着用義務さえない。
いわゆる「コロナ前」と同じ風景だが、店のウインドーや、一歩店内に入ったところにQRコードが貼られ、除菌用ジェル入りボトルと、名前と連絡先を書く紙とペンが置かれているところが違っている。
今年の4月下旬には国内人気アーティストのコンサートが、最大都市オークランドの野外競技場で行われ、観客5万人を動員しており、完全なる勝ち組と言える。
■コロナウイルス感染拡大の勝ち組と負け組、それぞれの共通点
コロナウイルス感染拡大を食い止めた国に共通している点は徹底した対策を取った点である。感染経路を克服するためにPCR検査を徹底し、ロックダウンも躊躇せずに実行してリモートワークへの移行を促した。
中国に至ってはワクチンだけではなく漢方を使ってまで抑えてきたのだから何を使ってでも抑え込むという意思を強く感じる。イギリスも初期対応は悪かったものの思い切ったロックダウンを実行し、2020年3月から行っている休業補償を行っている。しかも今年の9月まで延長が決まっており、昨年新たに仕事を始めるなど税務当局への登録の関係で補償を受けられなかった60万人も補償の対象となるという。
ロックダウンをしても元に戻れるという安心感を与えたのがコロナを抑え込めた要因といえるだろう。
一方、負け組も出てきているがこちらははっきりいって悲惨そのものとしかいえない。
その筆頭がご存じのようにインドである。
インドは、5月3日現在新規感染者が12日連続で30万人超え、累計2000万人に迫るほど。現在の世界でトップの負け組と見ていいだろう。国内11の州・直轄領が感染抑制に向けて何らかの制限措置を導入しているが、モディ政権は経済への影響を巡る懸念から全土のロックダウン(都市封鎖)に消極的な立場を取っている。
国外にいるインド人も渡航が制限されており、アメリカではインド訪問の外国人の入国を停止するくらい警戒態勢を敷いている。
変異株の拡大も止まらず、1週間で約2600人が死亡。病院のベッドが埋まり、入院できない大勢の患者が路上で酸素吸入を受けている状態が続いており、世界最高齢の射撃競技選手として有名なチャンドロ・トマル氏が新型コロナウイルス感染により死亡するといった状況だ。
しかも、変異種の感染力は英国株を上回るという報告もあり、先の展望は目を覆うばかり。
ここまで感染が広がったのは、どうやらインドの政策担当者・メディア・科学者が誤った科学と不正確な統計データに基づいて、インドはもう集団免疫を獲得している、子供のころのワクチンで守られている、「インド人は特別だ」という幻想を広めていたからだという。
それを信じてしまうのもどうかと思うが、今からでも大規模な手を打つしか策はないだろう。
二つ目の負け組として名前が挙がるのがブラジルだ。感染者数は世界第3位の1480万人でインドに抜かれるまで2位をキープしており、今でも一日当たりの感染者数が3万人を超えているほどコロナに苦しめられている。
感染が拡大した理由は、ボルソナロ大統領が新型コロナを軽視してきたツケがのしかかってきた格好だ。感染拡大に苦しむ国民に対し「泣き言を言うのをやめろ」と言い放ち、専門家の提言に耳を貸さない姿勢は変わっていない。
累計で40万人が亡くなり、墓が足りず道路に遺体を埋葬するほど状況は悪化している。国境なき医師団から「危機の深刻さを認識し、避けられる死をこれ以上増やさないために、科学的根拠に基づいた新型コロナへの一元化した対応や調整を行う体制を緊急に立ち上げるよう求める」と提言されているが、ボルソナロ大統領がいる限り混乱は続くだろう。来年の大統領選挙まで待てなければ内乱が起きるかもしれない。
■インドに次ぐ、ロシアの知られざる悲惨な状況とは?
3つ目の負け組はロシアである。
自国内でワクチンを開発して接種させているロシアが負け組なのは意外な気がするが、平均で1日8,624人の新規感染者が報告されている。ピーク時から比べると約30%にまで落ち込んでいるので一見すると勝ち組のように見える。
ところが、「公式」とされてきたのは政府のコロナ対策本部が出す数値で、昨年のコロナ関連の死者は約5万6000人。一方、連邦統計局は2月、死者は約16万2000人だったと公表されており、明らかに数値が異なっているのだ。対策本部の速報値に対し、統計局は確定的な死因診断書を基に集計したからと見られている。
しかし、独立系メディア「メドゥーザ」は、モスクワ保健当局が昨年12月、市内の超過死者の98%がコロナによるものと根拠にし、全土で昨年中の超過死亡に当てはめるとコロナの死者数は30万人規模になると主張している。現在ロシア国内では、コロナが原因の死者は三つの説が混在している状況となっている。
ロシア政府は医師に新型コロナウイルスの医療現場の情報を公にすることを医師らに禁じており、正確な情報が掴めていないメディアもあるようだ。
そんな状況の中でプーチン政権は、国産の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の売り込みをしており、4月14日にセルビア、20日にはアルゼンチンでの生産開始が発表されている。8月には韓国、中国、インド、アルジェリアなどの製薬会社と現地生産を開始するが、肝心のプーチン大統領がワクチン接種を済ませていない。
正確な情報が届けられないのならば、いつパンデミックが起きてもおかしくはない。
ここまでコロナの勝ち組と負け組についてピックアップして紹介してきたが、我が国日本は残念ながら負け組の一つといっていいだろう。昨年、ダイアモンドプリンセス号で新型コロナウイルス感染が発覚して以降、対応はすべて後手後手に回ってきたといっても過言ではない。
すばやく水際作戦として海外からの渡航客受け入れ拒否もしくは制限をかけなければいけないところを当時の安倍首相はコロナウイルス感染中の中国の春節を祝福し、連休中と夏のオリンピック・パラリンピック開催中の日本へ訪日をお願いし、「多くの中国の皆さまが訪日されることを楽しみにしています」と呼びかけた。
しかも感染経路を把握するためにPCR検査を増やさないといけない時期に検査を抑制し、経路不明になるという情けなさ。負け組の国がやってきた中途半端な対応、情報の隠避と正確性の低さ、水際作戦の失敗とダメのお手本をこれでもかとやってきている。
変異種のイギリス型、インド型も発見されて第四波が起きている日本でこのままオリンピックを迎えられるのだろうか? はっきりいって世界中に恥をさらして終わることになるだろう。
文:篁五郎(たかむら・ごろう)
〈著者プロフィール〉
篁五郎(たかむら・ごろう)
1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。