「GIGAスクール元年」である本年9月に発足するデジタル庁。それに先駆け、教育分野ではいわゆるビッグデータを含む、様々なデータの収集、利活用が計画されている。
■教育現場におけるビッグデータ利活用がはじまる
2021年4月からの新年度は、小中学校における1人1台端末の配備が進み「GIGAスクール元年」と呼ばれている。すぐにICTを活用した授業が実現できるわけではないだろうが、授業で端末を使わなければいけないというプレッシャーはどんどん大きくなってきている。
しかし、配備された1人1台端末をどう使っていけばいいのか、迷っているのが学校現場の現状ではないだろうか。
そうした中、各省庁のデジタル化を推進する司令塔としての「デジタル庁」を、9月1日に発足させるスケジュールが決まっている。それに先駆けて6月18日、「デジタル社会実現に向けた重点計画」(以下、計画)が閣議決定された。そこには、教育分野でのデジタル化も盛り込まれている。学校現場は、否応なしにデジタル化の波に飲み込まれようとしている。
「計画」には、「教育現場における学習者や教育者の日々の学習や実践の改善に資する教育データの利活用と、教育政策の立案・実行の改善に資する教育ビッグデータの利活用を、『データ駆動型の教育』の車の両輪として推進することが必要である」と述べられている。
ここで使われている「データ駆動型の教育」とは、内閣総理大臣に教育改革を提言する政府の組織(内閣総理大臣の私的諮問機関)が今年6月3日に発表して第12次提言に盛り込んだ言葉である。そこには次のように書かれてある。
「これからの教育は、ICT を活用してデータ駆動型の教育へと転換する必要があります。
そして、収集すべきデータについては、次のように示されている。
(1)児童生徒に関するデータ 学習履歴(スタディ・ログ)や生活・健康に関するデータ(ライフ・ログ)
(2)教師の指導・支援等に関するデータ(アシスト・ログ)
(3)学校・自治体に関する行政データ等
ありとあらゆることをデータ化して、収集することが求められている。ということは、逆に言えばデータ化できないことは軽視されることになるのだろうか。
■子ども、そして教員に対するメリットとリスク
たとえば学習履歴では、テストでの点数が重視されることにつながりかねない。点数や順位はデータ化しやすいからだ。逆に、子どもが興味を持ったかどうかといったことはデータ化しにくいことなので、軽視されることになりかねない。
そうした傾向は、既にある。「TIMSS」(IEAの国際数学・理科教育動向調査)の2019年調査で日本は、小学算数で5位、中学数学でも4位という好成績をあげている。
一方で、算数や数学は「嫌い」という回答が多いのも日本の傾向となっている。問題の解き方は教えるけれども、ほんとうの算数・数学の面白さを伝える授業になっていないからだと言われている。
データ化が重視されていけば、この傾向が強まる可能性は高い。
教員についても同じことが言えそうだ。
そうしたデータを利活用しようとなると、教員の評価に利用されるのだろう。子どもたちと同様に、子どももデータ化される数値を気にして指導や支援にあたらなければならなくなる。
先ほどの「計画」には、「児童生徒一人一人のIDについては、マイナンバーカードの活用を含め、ユニバーサルIDや認証基盤の在り方を検討する」ともある。
マイナンバーカードに限らなくても、特定のIDに個人データが関連付けられ、すぐに引き出されることが想定されているのだ。つまり、学校での成績が一生ついてまわることになるわけだ。
さらに「計画」は、「学校内外のデータの将来的な連携も見据えた教育データの蓄積・流通の仕組みの構築に向けて、関係府省庁間で検討し、目指すべき姿やその実現に向けて必要な措置を盛り込んだロードマップを提示する」ともある。
何のために利用するのかではなく、利用することが前提になっているようにも読める。生徒の1人1台端末も実現したのだから、それを使えばデータ化はしやすくなる。せっかくデータ化するのだから何かに使わなければならない、というわけだ。
教育の内容というよりも、デジタル化を推進するために利用する方法を考えようとしているように思えなくもない。データ化が優先されて、学びの本質そのものが、ますます疎かにされてしまう危険性をはらんでいるともいえる。
ともかくデジタル化を進めようという政府方針に従って、「データ駆動型の教育」に走り出せば、学校現場は混乱するでだけのことになるかもしれない。