元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏が、れいわ新選組の大石あきこ代議士と日刊ゲンダイによって名誉を傷つけられたとして、大石氏と同紙に300万円の損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が、3月11日に大阪地裁で開かれた。大石代議士は9時46分に正面玄関から入廷。
大石代議士側は弘中惇一郎弁護士を団長に6人の弁護団を構成し、徹底的に争う構えを見せている。大石代議士は裁判に際し、意見陳述書を提出した。
記者会見で記者に配られたので転載しておく。
《被告の大石晃子です。3年前まで大阪府庁で公務員をしていました。いわば元上司の橋下徹元知事が、元部下である大石晃子を、口封じのため訴えてきた。そういう裁判だと思っております。
改めて自己紹介をしますと14年前に橋下徹元知事に朝礼でかみついた女性職員が私です。橋下徹・大阪府知事が就任最初の朝礼で、
「本当は始業前に朝礼をしたかったが、超過勤務になると言われてできなかった」
「民間では始業前に準備や朝礼をするのが普通。そんなことを言ってくるなら、勤務時間中のたばこも私語も一切認めない、給料カット!」
と声を荒げました。そんな知事として、そして維新の創設者として橋下徹さんは人気を保ち、今なお毎日のようにテレビのコメンテーターとして維新を絶対評価し、政治的に社会的影響力を誇っておられます。
さて裁判の話ですが、原告である橋下徹さんは、訴状において、自らには「社会一般から肯定的な評価を得るイメージが備わっており、それが大石の発言によって傷つけられた」と主張しています。それはおかしいと思いますけれども、ご本人はそう主張されています。
橋下徹さんは、大石の発言が自身のそのようなイメージを傷つけるから本件の訴えを提起したといいます。こうした橋下徹さんの行動は、まさに、私が発言を問題にされた記事の取材において言及した、自らに批判的なメディアに対する抑圧的な態度と一緒です。
今回、橋下徹さんが抑圧したのがメディアではなく、元部下の大石だったという構図です。
かつ、この裁判は、社会的影響力の大きいものが、小さいものに対して行うスラップ訴訟の要素が大いにあると私は思っています。
私は現職の国会議員ですので、社会的影響力が小さいとは申しません。しかし、今回の裁判は、社会的に大きな影響力を行使する原告・橋下徹氏が、自ら楯突く弱小政党の新人国会議員の発言をやり玉に挙げることによって、被告大石だけではなく社会一般に対して、自分を批判することはどのような結果を生むことになるかを見せつける。そのような意味合いを持った訴訟であると思います。
だからこそ、私の口を封じても無駄ですよ、と言わねばなりません。
私は今回やり玉にあげられた取材の記事のように、現在の大阪維新府政・市政の問題について徹底批判を続け、また橋下徹さんの元知事・元市長としての責任を問うていきたい、世の中の多くの方に、維新や橋下徹さんの問題を訴えていきたいと考えております》
■橋下徹は「一介の市民」といえるか?
裁判終了後、大石代議士側はYouTubeで生配信をしながら記者会見を開いた。会見で弘中弁護士が橋下氏側は自らを一介の市民であるかのように主張したことを含め、裁判の概要を説明した。
その上で弘中弁護士は「訴状がブラックユーモア過ぎる。報道の自由は保障されるべきものだから、それを妨げたというなら最大の名誉棄損というのが彼の主張。橋下さんの挑発に乗って、いかに報道に対して問題ある態度を取ったかということを主張、立証していきたい」と語った。
その後は記者との質疑応答に入った。今回質問したのは当サイト「BEST TIMES」と共同通信、毎日放送、関西テレビ、フリー記者、大阪日日新聞である。
当サイトからは、橋下氏は過去にもフリージャーナリストの岩上安身さんにスラップ訴訟を起こした件について質問した。橋下氏は公判中にも岩上氏を挑発し、相手の怒りを誘って裁判に勝ったのである。それは自らの仮装の不利益を強調して、相手を脅し、丸め込む、という橋下の手口を知っているのかということを質問をした。今回も同じ手口を使ってくると予想されるからであるため知りたかった。
すると、大石代議士側は橋下氏の手口を知らなかったと回答。その上で「自分も挑発するタイプ」と語り、橋下氏と挑発合戦になることを想定し、向こうが悪質ならば対処するとのこと。弘中弁護士は「(法廷外の)場外戦の対応は難しいけど、しかるべき対応が必要になったときは、(大石代議士と)一緒になって考えたい」と答えてくれた。
筆者がこの質問をしたのは橋下氏は自らの仮装の不利益を強調して、相手を脅し、丸め込む、というやり方が常套手段だからだ。2005年に発売された『心理戦で絶対負けない交渉術』(日本文芸社)にも記載されている。橋下氏が裁判を有利に進めるためにやってくるだろうと考えたので慎重に対応してほしいものだ。
他のマスメディアの質問も色々な内容が出てくる。毎日放送からはこんなやり取りが飛び出した。
「橋下氏の社会的評価が低下したという意見については、どう考えるのか?」という質問が出た。
弘中弁護士は「名誉毀損は事実でもウソでも自分の評判が下がれば名誉毀損にあたる。それに対して内容が真実かどうかであるか、公共の利害に関係あれば名誉毀損は成立するので珍しくはない」と回答した。
「今後の裁判で橋下氏がマスコミを操作しようとした事実についてあるのか」と問われると「作戦上言えません」とした上で、具体的な事実を提示すると自信を見せた。

■橋下徹は吉村・松井の援護射撃のために訴訟を起こしたのか?
他にも「橋下氏が吉村・松井の援護射撃のために訴訟を起こしたのでは?」と聞かれると、大石代議士は「このようなやり方はおかしい。健全な民主主義を保つために批判は必要」と弁護士に言われたことが自分の力になったと語り、「批判の中身に異議があるなら議論をするのが民主主義」と述べた。その上でマスメディアが橋下氏に萎縮していると指摘した。
また、橋下氏のマスメディアへのアメとムチのアメの部分について聞かれると、弘中弁護士は「ムチの部分は証拠を出すのは難しくない。アメの部分は立証するのは難しい」と述べ、「向こうはアメの部分を利用してこちらを罠にかけようとしているのだろう」と読み、「(アメとムチの)二段構えで提示されたので作戦を練りたい」と語った。
関西テレビからは「裁判で「言論には言論で反論すればいいのに裁判を起こされたのをどう感じるか? 今回の裁判で最も訴えたいことは?」という質問。これに対する回答が筆者は非常に印象深かった。
大石代議士は「今回の裁判は、自分よりも社会的に大きな影響力を持つ人が小さい立場の自分を口封じのように訴えるのは不当だ」と断言し、「問題は橋下氏のように影響力が強い人が、一市民に『いらないことをいうな』と黙らせること、マスコミに対しても余計なことを聞くなと言わんばかりの行動を取るのは許せない。だから自分も最大限慎重にやって、裁判に負けないように、橋下氏に『こんなことをやるなよ』と伝わるようにしたい」と述べた。
今回の裁判について大石代議士の思いが聞けるやり取りであった。司会を務めた中井弁護士も日刊ゲンダイの記事で「名誉毀損」とやるのは明らかにおかしいと述べている。
前述したように橋下氏は岩上安身氏の他、有田芳生参議院議員、マスメディア相手にスラップ訴訟を起こした経験を持つ。
橋下氏は口では「言論の自由」「報道の自由」を守るべきと言っているが、それは自分に対して好意的な報道だけである。批判に対して権利を行使するのは許されないというのは、これまでの行動で明白になっている。5月27日に第二回の口頭弁論が開かれるが、そこでどんな証言や証拠が飛び出すのか注目したい。
文:篁五郎