■結局、恥知らずが一番強い



 4月23日、26人が乗った遊覧船「KAZU I」が知床半島西海岸沖のオホーツク海域で消息を絶ち、船内浸水後に沈没した。14人が死亡、12人が行方不明という大惨事になり、当然、運航会社「知床遊覧船」の社長である桂田精一に批判の声が集まった。

「打落水狗」という言葉もあるが、落ちた犬を叩く趣味は私にはない。しかし、その後の桂田のふるまいは常軌を逸していた。確たる裏付けがないまま、事故原因は高波や座礁ではなく「クジラにぶつかった可能性ある」と言い出したり、LINEで「マスコミは面白がり物語を作ります。なるだけテレビを見ないでください」と従業員らにメッセージを送ったり。



 謝罪会見では赤いネクタイで登場し顰蹙を買った。遺族への説明もまともにせず、記者から豊田船長がFacebookに「ブラック企業だ」と書き込んでいたことについて質問されると「ブラック企業。私はわからない」と鼻で笑ったとのこと。「最終責任は私(にある)」と言いながら、責任から逃げ回る姿は、「最終責任はアタクチにある」と言いながら逃げ回る安倍晋三と瓜二つである。



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 安倍はテレビ番組でロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、バイデン米大統領がロシアが軍事侵攻しても米軍を派遣する考えはないと語ったことについて「アプローチ自体がプーチン大統領にやや足元を見られたかもしれない」と発言。どこまでも恥知らず。「ロシアに足元見られた」のはお前だろ!!



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 つい最近まで全力でこびていたプーチンに対しては「自分の力を過信した結果、こういうことになっている」「彼の気にいる情報だけが入る状況になっていたのかも」と発言。すべてがブーメラン。

結局、恥知らずが一番強い。恥を知る人間は、自分が間違えたら少なくとも反省して口をつぐむ。反省しない人間は、さらに嘘やデタラメを拡散することで生き延びようとする。問題は、この類の人間を適切に処罰できない社会になってきたことだ。



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 そんな安倍に一部では再々登板を待望する声もあるそうな。縁起でもない。アメリカがバイデンで日本がデンデンってしゃれにもならない。



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 朝日新聞が森友問題を取り上げていたことについて、ネトウヨ記者がそれを揶揄。安倍は引用ツイートし、「相変わらずの朝日新聞。珊瑚は大切に」などと大昔の朝日新聞の不祥事をほのめかした。珊瑚に関するデマを撒いたのはお前だろう。テレビ番組で、名護市辺野古の埋め立てについて「土砂投入に当たって、あそこの珊瑚(は)移している」と発言したが、これは根も葉もない嘘だった。

土砂が投入された海域「埋め立て区域2―1」から珊瑚は移植されていないし、「砂をさらって絶滅危惧種を別の浜に移した」という説明もデマだった。「琉球新報」は社説で、「一国の首相が自らフェイク(うそ)の発信者となることは許されない」と批判した。



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 安倍が国会で嘘をつくのは常態化しているが、プーチンに「北方領土問題を解決した上で平和条約を締結するのが日本の原則」だと直接反論したとか、米軍のF15戦闘機墜落に関し「飛行中止を申し出た」などと、外交の場でも平気な顔で嘘をつく。わが国にとって安全保障上の一番の問題は、このホラ吹きが野放しになっていることである。







■われらの狂気を生き延びる道を教えよ

 



 岸田文雄がロンドンの金融街シティで講演し、ウクライナ危機や権威主義国家の台頭を暴風に例えた上で、「私は決して風に流されない」と決意を示したとのこと。でも安倍に流されているよね。



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 これはチャーチルの「凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時である。風に流されている時ではない」という言葉を引用した後の発言で、岸田は「民主主義国家の旗手として、暴風に向かって真正面から向き合っていく」「高く舞い上がった凧として、またこの場に戻ってくることを約束する」と続けたが、どちらかという糸の切れた凧である。



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 2019年7月の参院選で、地域政党の減税日本と日本維新の会が公認した岬麻紀(現衆院議員)が、選挙公報に虚偽の経歴を記した公職選挙法違反の疑いがあるとして、東京都の男性から刑事告発された。プロフィール欄には「亜細亜大学非常勤講師」とあったが、同大学で非常勤講師を務めたことはなかったとのこと。昔、「プッツン女優」という言葉があったが、糸が切れた人たちが、国政の場で徘徊するようになった。



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 菅直人が変なツイートをしていた。



《今から47年前、立花隆さんが「日本共産党の研究」を文芸春秋で2年間連載した。共産党は激しく反発し、大きな議論を呼んだ。私もそれに倣って「日本維新の会の研究」の連載をツイッター上で始める。結論を先に述べると「日本維新の会とは中央集権型の右翼ポピュリズム政党」。もちろん反論は自由です》



 「反論は自由」とのことなのでリプを返しておいた。



《かつて大統領制の導入を唱えていた橋下徹がつくった維新を「右翼」と認識するのは現実と乖離しています。結論からして間違っていますので、ムダな連載は中止し、維新の票を少しでも減らすための地道な努力をお願いします》



 そもそも「仁徳天皇陵をイルミネーションで飾る」とか「御陵を観覧車から見下ろそう」とか言い出す「右翼」って存在するのか。参院選大阪選挙区の公認候補予定者を支援する特命担当に就任して張り切っているのかもしれないが、頓珍漢な批判は敵を利することになる。



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 先日、『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)という本を刊行したが、全体主義は近代特有の病であり、根本的な治療法はない。われわれにできるのは対症療法だけである。それは精神の健康の維持と、諦めずに徹底抗戦することだ。



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 とはいえ、あまりにもアホすぎるので私もいい加減疲れてきた。

そこでここのところはぬるい温泉に行って、長時間ぼーっとすることで、精神のバランスを保とうとしている。現実逃避と言えなくもないが。



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 ここのところ、ぬるい温泉に行っているか、ぬるい温泉がある場所を探しているかのどちらかしかやっていない。関東のぬるい温泉にはだいぶ行った。38.3度の源泉掛け流しがある「さいたま清河寺温泉」にも何度も行ったし、小田急相模原には38.6度の源泉掛け流しの黒湯があり、そこもなかなかいい。



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 湯治といっても宿にこだわる必要はないと思う。日帰りの温泉施設でも、泉質がいいのなら、近くにあるビジネスホテルなどに泊まって通えばいい。もちろん、山の中などの僻地の場合はそういうわけにはいかないが。



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 熱海の一駅先にある函南にある「畑毛温泉」にも行った。源泉掛け流しの30度。私の場合、一回に3時間、休憩や食事を挟んで一日トータルで9時間くらい温泉に浸かっていることもある。巷では核シェルターが売れているらしいが、私にとっては温泉がシェルターになっている。

外の世界は怖い。





文:適菜収

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