10月から企業や個人事業主が納める消費税のルールが大きく変わる。「インボイス制度」によって、企業や個人事業主が仕入れで支払った消費税額の控除を受けるためには、必要な項目が書かれた請求書(インボイス)の発行が必要になるのだ。
これまでは売り上げ1000万円以下の事業者は消費税の納税は免税されていたが、登録をすると消費税を納めないといけない。しかも登録しないと、商品などを仕入れた時に支払った分を差し引くことができる「仕入れ税額控除」が受けられなくなる。
つまり実質消費税が増税となってしまう。負担増になるのは一人親方や建設会社、漫画家、出版社、農家と道の駅などの消費税分を価格転嫁できない中小零細企業やフリーランスが中心。声優や俳優、ミュージシャン、演出家、舞台設計の裏方なども対象だ。
消費税を支払ってしまうと大幅な収入減となるためすでに廃業をした人も出ている。
対象となる人々が集まってできた団体が「STOPインボイス」だ。この団体は、昨年10月から政治家への陳情や記者会見などの活動を通してインボイスの危険性を訴えてきた。しかし政府や財務省は「インボイスは予定通り実行する」という回答を繰り返すだけ。業を煮やした当事者たちが国会前に集まって窮状を訴える行動に出たのである。
◾️なぜ岸田文雄は聞く耳を持たないのか
6月14日国会議事堂前に「インボイス反対」を訴える人々が約1500人(主催者発表)も集まり、歩道を埋めた。街宣の司会をしたのは、アニメ「機動戦士Zガンダム」でエマ・シーン役を務めた声優の岡本麻弥さんとSTOPインボイスの阿部伸さん。
また彼らの訴えに賛同した国会議員も訪れてマイクを握った。参加したのは立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党から約20名の野党議員。今、国会では街宣を訪問した野党を中心に「インボイス制度を考える超党派議員連盟」という議連が発足しており、約90名の国会議員が参加をしている。今回STOPインボイスの街宣へやってきたのは議連の参加議員が中心だ。
議連には参加していないが、共産党の志位和夫も訪れてマイクを握った。まずフリーランスや俳優・声優からは声が上げにくいといった陳情があったことを明かた。
「このインボイスは地獄の二者択一と言われています。課税事業者になったらとんでもない増税が待っています。年間300万円売上のアニメーターの場合、月収が手取りで14万6千円。この方が課税事業者になったら年間13万6千円の消費税を納付しないといけない。一ヶ月分の収入が吹っ飛んでしまうんです」
大幅な収入減となることは明らか。
「消費税の免税事業者への特例措置が廃止された状態でインボイス導入すると、下請けがダメージを受けるから特例法を作るかインボイス廃止を訴えたんです」
と話した。そしてれいわ新選組の多ケ谷亮からも「インボイスは増税に当たるのか?」という質問にで岸田が答弁できなかったことを紹介し「政府の中にも知らない人がいるんです」と訴えた。
立憲民主党の泉健太、国民民主党玉木雄一郎からはビデオ、れいわ新選組山本太郎からは文書でメッセージが届いた。泉・玉木のメッセージは機材トラブルで紹介できず、イベント終了後にYouTubeにアップされた。
◾️タレント中田敦彦のデマゴーグに郷原信郎が激怒
弁護士の郷原信郎氏もインボイス導入反対を訴えてマイクを握った。
「私が言いたいことは一つです。消費税は預り金だという大嘘をついたままインボイスを導入するというのを絶対にやめて欲しい」
このように述べ、最近の著書でも同様のことを記したという。さらにお笑いタレントの中田敦彦がYouTubeで「インボイス制度は免税事業者が預かっている消費税を納めないずるいことを止めさせる制度」と述べた動画に対して、郷原が反論をしたところ中田は該当動画を削除したというエピソードを紹介し、世間の消費税の認識がおかしいとも訴えた。
ミュージシャンの和(元・橘いずみ)さんも、「日本は中小企業が支えている。そして音楽、映画、声優たち、みなさんの心に潤いを与えるような人たちが仕事を辞めなければならないのは由々しき事態だと思っている。政治などを勉強したわけではないので、声を上げるなど大それたことではないかと思っていたが、思ったことを言うのは大事だ」と語り、自ら作詞作曲した歌で会場を盛り上げた。
その後は、会場に来られなかった声優や俳優、作家からのメッセージが読み上げられ、作家の鈴木傾城さん、ラッパーのダースレイダーさん、スタンダップコメディアンの清水宏さんもマイクを握った。
インボイスをめぐっては、説明もないまま「インボイス登録しなければ仕事は回せない」「登録しなければ10月から10%減額する」「契約を更新しない」といった話がなされており、泣き寝入りを強いられているのが現状といえる。物流業界では、2024年問題による人手不足が懸念されており、インボイス導入でさらなる打撃を受けると予想されている。
税の専門家である税理士からは「財務省はインボイス制度導入で2480億円の増収を見込んでいるが、これは一者当り15万4000円の増税を見込んだものであり、この金額を500万といわれる免税事業者数で換算すると7700億円になる。政府がインボイス登録を呼びかけたチラシを1300万枚配布したことを鑑みると、2兆円規模の大増税になる」と指摘をした。

◾️インボイス反対集会に男が乱入、事件が勃発
実はイベントの最中に揉め事が起きた。日が暮れかけた頃、会場に現れた一人の中年男性が参加者に向けて傘の先を突き刺す行為をしたのだ。被害者はれいわ新選組の支持者である。男性は通りすがりを装って暴行を働き、女性ひとりが軽いけがを負った。男性はすぐさま取り押さえられ警官から事情を聞かれることになった。
司会者からも注意事項として報告され、参加者にも伝わったせいか、その後は特に大きなトラブルはなく街宣はつつがなく進行していった。

◾️全国各地で同時にイベントを開催し約2000人集合
国会前以外でも京都、名古屋、大阪、埼玉など全国20箇所で有志による同趣旨のイベントが開催されており、国会前と同時に中継をする予定であった。
最後にSTOPインボイスを立ち上げた小泉なつみさんが挨拶をし、「10月から制度が始まりますが、政治とメディアに声を届けられるのは私達しかいません」と訴えた。
国会前のイベントが終了してから1週間後(6月20日)には、「インボイス制度について考えるフリー編集(者)と漫画家の会」が衆院第2議員会館前でその場でペンをふるい、絵やコメントでインボイス反対を訴える活動を行った。
しかしこれだけの声が集まっても、政府与党はインボイス制度を予定通りに実施するという。フリーランスや中小零細企業が極めて追い詰められた状況であるのは変わらない。果たしてこのままでいいのか疑問ばかりが浮かんでくる。岸田文雄の「聞く声」とやらはどこへいったのだろうか。
文:篁五郎