◾️実刑判決を受けるも一貫して無罪を主張。その主張の根拠が明らかに



 「漫画村事件、異例の再審請求へ 元運営者、控訴せず判決確定後」。

9月13日、共同通信がスクープ記事を報じた。 月に1億6000万アクセスに達し(CODA発表)、国家を巻き込み日本メディア史上最大の事件となった「漫画村事件」。



 この巨大サイトの首謀者とされたのが星野路実さん。国際指名手配されフィリピンで拘束。著作権法違反と組織犯罪処罰法違反で懲役3年、罰金1000万円、追徴金約6257万円(求刑懲役4年6ヶ月、罰金1000万円、追徴金約6257万円)の実刑判決を受け、昨年出所。 現在は損害賠償額約19億円の民事裁判が継続中だ



 「漫画村事件」のすべてを初めて詳細に綴った本『漫画村の真相:出過ぎた杭は打たれない』が9月26日に発売されるが、それに先立ち、9月22日に福岡県弁護士会館201号室にて星野路実さんが弁護士木村道也氏とともに漫画村事件の再審請求に関する記者会見を開いた。

9月27日には福岡地裁にて再審請求の申し立てを行う。



 2021年6月20日、漫画村事件の再審請求人・星野路実さんは、福岡地方裁判所から有罪判決を受けました。



 有罪判決の理由は、「漫画村」という海賊版の漫画ビューアWebサイト(一種のリーチサイト)の運営者であり、共犯者が漫画「キングダム」516話をアップロードしたという点で、著作権法違反があるとされたことなどです。



 しかし、キングダム516話はアップロードされたものではなく、他のサイトでアップロードされたファイルを漫画村でも表示できるようにしただけのものです。漫画村は漫画をアップロードして運営される違法漫画サイトと当時は評され、その評価のまま星野さんは逮捕起訴されました。しかし漫画村はリバースプロキシという特別な技術を使い運営されていました。

リバースプロキシとは他のサイトにアップロードされたファイルを漫画村に保存せずに漫画村に訪れたユーザーに表示する技術です。これはリーチサイトであるため検察の起訴であるアップロードにはあたりません。



 また、漫画村事件を受けてリーチサイトが違法になったことを考慮するとリバースプロキシを使ったサイト運営は当時は合法であったと考えています。今回、当時漫画村で用いられていたシステムを専門家に依頼して解析が完了し、アップロードしたと認定した有罪判決の論理を否定する内容の報告書がまとまりました。 そのため、これを新証拠として、2023年9月27日に再審の申立てを行う予定です。



◉9月22日、11時より行った再審記者会見の模様は以下です



https://www.youtube.com/watch?v=O0xnVIXMOTw





◾️なぜ星野ロミは控訴しなかったのか?





  再審請求人・星野路実さんは、日本・イスラエル・ドイツの国籍を有しています

この事件で、2019年7月9日、日本から国際指名手配を受けてフィリピンの入管で身柄を拘束されました。その後、裁判で有罪判決が出されるまで、身柄を拘束され続け、保釈の請求は一切認められませんでした。コンピュータの操作も禁じられたままでした。弁護人に対する証拠の開示もすべて紙で行われました。星野さんは漫画村サイトを構築した技術者です。インターネット上で生じた事件であるにもかかわらず、自らの身の潔白を証明するためにデジタルの証拠にアクセスすることが一切できませんでした。
時の政権を巻き込み、憲法違反にもあたりかねないブロッキング要請にまで発展した事件において、星野さんは「このまま裁判を続けても自らの主張が認められることはないだろう」と深く絶望し、控訴せずに3年4か月服役しました。



 出所後、ほぼ3年半年ぶりにコンピュータに触れることができ、当時の資料を集めて、第三者の技術者に解析を依頼。ようやく、今回の解析結果をまとめることができました。当初検察は漫画村をアップロードによる違法サイトと認識し起訴をしましたが、裁判の進行中にその認識に間違いがあったことが明らかになってきました。すると裁判の終盤で漫画村の仕組み自体は新しい技術を使ったリーチサイトと認めはしましたが、起訴内容について変更することはありませんでした。



 起訴内容に抜本的な間違いがあったにもかかわらず、その内容を変更せずに根拠の薄い証拠をもとに求刑を行い、裁判所は有罪を宣告しました。

もし、保釈請求がなされて、サイトシステムの詳細な物的証拠を当時裁判所に提出できていれば、このような有罪判決が下されることはあり得なかったのではないでしょうか。





◾️星野ロミが再審請求に対する意義とは





 漫画村事件は、薄い証拠に基づく捜査不足のまま、また検察官が漫画村の仕組みを理解しないまま、裁判シナリオに則って起訴してしまった事件です。その後、検察は漫画村の仕組み自体はリーチサイトであると起訴内容を一部変更もしましたが、星野さんを首謀者とした事件として彼に有罪を求めるために、起訴事実であるワンピースとキングダム一話についてはアップロードとの主張は変えることはありませんでした。



 漫画村の仕組みを知らずに起訴した以上、ワンピースとキングダムのファイルがアップロードされたもので無い可能性が非常に高かったにもかかわらず、保釈を認めることなく、星野さんは無罪である証拠の調査が出来ぬまま有罪が宣告されたということになります。しかし身柄の拘束が解かれた後にサイトシステムの専門家に依頼した結果、有罪の根拠となった検察が提出した証拠が間違いであるとの調査結果が明らかになったのです。



 このため再審請求には以下の意義があります



  • 裁判所は早期保釈を認めない、いわゆる人質司法体質に対する抗議
  • 物的な証拠も自白証拠も有罪を決定づける根拠が不足していた。
    ワードプレスというソースが公開されているシステム上に構築された漫画村の事件なので有罪に対する疑惑があれば当然、専門家に依頼を求めることも可能だったはず。にもかかわらずそれがなされず、被告人を有罪と決めつけて裁判は進行し有罪宣告をした。裁判内容に対する抗議
  • 漫画家に対する民事の責任は別として司法が証拠ベースの公平な判断がされていないことに対する抗議

  インターネット時代の今日、現在の著作権法は現状のネットにそぐわないものになっています。



 常に現実のインターネット世界は、現行法の世界を飛び越えていく時代です。



 漫画村は現行法の隙間を縫う形で作られたシステムでした。つまり当時は合法であったと言えるのです。その漫画村が法律上認められないというのであれば、法律を拡大解釈して逮捕起訴するのではなく、まずは法律を整備した上で違法とするべきだったのではないでしょうか。これは法治国家に反する措置です。そうであれば漫画村は存在しませんでした。法律を拡大解釈して逮捕起訴する姿勢はかつてのWinny事件で起こった悲劇と同じです。



 AIなど、ますます新しい技術が出現する一方で、今日の法律が追いつかないものを国が恣意的に摘発するのならば、それは新しいビジネスの目をつむことになりかねません。日本からイノベーションが生まれない事情もここに起因しているのではないかとも思われます。



 漫画村事件は、政府による違法行為であるブロッキング要請があり、法律に関する議論が巻き起こった事件でもありました。それは日本という法治国家の根幹に関わる問題でもありました。今回の再審請求は、星野さんの事案のみならず日本の司法制度に関わる重大な問題提起があると考えております。





<再審請求までの予定>



◉9月13日  Yahoo!ニュース(共同通信)で「漫画村星野路実 異例の再審請求」と報道



https://news.yahoo.co.jp/articles/35d97e48bded0cb272767293413064fafe33d791



◉9月22日 福岡県弁護士会館201号室にて星野路実さんと弁護士木村道也氏による再審請求における記者会見



https://www.youtube.com/watch?v=O0xnVIXMOTw



◉9月26日 『漫画村の真相:出過ぎた杭は打たれない』(星野ロミ著/KKベストセラーズ)が発売





◉9月27日 福岡地裁にて再審請求の申し立て





取材・文:BEST T!MES編集部