「インボイス制度」反対署名54万3114筆 岸田首相へ...の画像はこちら >>





 10月からスタートする「インボイス制度」の中止・延期を求める団体「インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称:STOPインボイス)」が29日に衆議院第一議員会館で緊急記者会見を行った。会見で同団体は岸田文雄首相の秘書に54万筆超のオンライン署名が入ったUSBを手渡したと明かした。



 STOPインボイスは9月25日に首相官邸前で賛同団体や有識者・著名人とともに『インボイス反対50万筆の声を届ける官邸前アクション』の活動で、岸田首相に署名を手渡しできなかったことを公開すると、SNS上の一部から非難されていた。27日に松野博一官房長官は「郵送で届けば適切に対応する」などと発言した。





◾️岸田首相の秘書に署名を手渡しできた経緯



 STOPインボイスが9月28日に公開した声明文によると、インボイス制度を止めるためにはオンライン署名で集まった反対の「声」を自民党国会議員に届けることか “必要た” と考え、鈴木俊一財務大臣をはじめ、さまざまな自民党国会議員に署名の受け渡しの交渉をしてきたという。しかし、どの議員からも断られ、実現はできなかった。



 そうした中で署名が50万を超えるとメディアからの問い合わせか “急増”。制度開始が直前に迫った今こそ岸田首相へ直接手渡しすることが効果的と判断し、岸田事務所と粘り強く交渉を続けた結果、28日に秘書が「手渡しで受け取る」と言ってきたという。そこで29日16時半に衆議院第一議員会館1階ロビーで手渡しすることになったそうだ。STOPインボイス側からは代表の小泉さん、阿部伸さん、声優の甲斐田裕子さんが参加し、岸田事務所の秘書へ署名が記録されたUSBメモリを手渡しした。29日までに集まった署名は54万3114筆で、岸田事務所の秘書は「(署名について)受け止める」と言っていたそうだ。





「インボイス制度」反対署名54万3114筆    岸田首相へ手渡し実現。100万筆達成で中止へ追い込む【篁五郎】
会見に参加したSTOPインボイス代表の小泉なつみさん:筆者撮影



 気になったのは手渡しの署名受け取りを拒否してきた理由が「セキュリティ上の問題」と回答していた点だ。ご存知の方もいると思うが、議員会館の1階ロビーは警備員がいるとはいえ、セキュリティは脆弱である。STOPインボイス側の3名は手荷物検査も特に受けていなかったという。

これでは断ってきた理由と辻褄が合わない。その点について小泉さんは「(署名を)受け取らざるを得なくなってきたのだろう」と述べた。



「インボイス制度」反対署名54万3114筆    岸田首相へ手渡し実現。100万筆達成で中止へ追い込む【篁五郎】
会見で配られた資料:筆者撮影



◾️「インボイス中止・廃止」の署名活動は継続していく



 STOPインボイスは、岸田首相に署名を届けた後も活動を継続する意向を示している。理由として「今なおインボイス制度は業界団体や当事者から反対の声が根強い」「インボイスを巡って現場で混乱が起きている」「すべての事業者にとって負担でしかない」という点を挙げた。また全国367の地方自治体がインボイス反対の採択を取っており、地方からも反対中止の声が出ている点も挙げている。中止が採択された原因はシルバー人材センターで働く高齢者もインボイスによって苦しむからだ。



 実はシルバー人材センターで仕事をしている人は業務請負契約をして仕事をしている場合が多い(※1)。業務請負契約だと事業者になるためインボイスに登録すると消費税の納税義務が生じる。仕事で得られる報酬は年間で45万円程度(※1)。そこから消費税を払うことになる。



 そのため地方自治体で問題視され、115の地方議会でシルバー人材センターに関する意見書の請願・陳情が採択された。そのうち100の自治体が全会一致である。



 インボイスで事業者扱いされる人々は他にもまだいる。近年、太陽光発電で余った分を電力会社に売っている家庭があるが、彼らは事業者になる。もちろん彼らは自分たちが事業者なのは知らないからインボイスに登録しない。そうなると消費税を負担するのは電力会社だ。そのため電力会社はインボイスによる消費税負担分を電気料金の値上げで賄うと明言している(※2)。



 他にもヤフーオークションやメルカリ、Amazonに出品している人、自宅前に自販機を設置している人も事業者となるし、Amazonの配送業者、Uber Eatsの配達員もインボイスの対象になる。副業をしているサラリーマンもインボイスの登録対象であるし、配送業者も対象となるのだ。



 STOPインボイスは「署名数が9月になって急増したのは、インボイス開始前に登録しない事業者とは取り引きできないという通告が受けたフリーランスや値引きを強要された零細企業が増えたからだろう」と見解を述べた。





※1 全公共HPを参照:https://koueki.jp/online/shibuyasyo_1/



※2 電気代がインボイス制度導入で10月に値上がり…電力会社の負担が消費者にしわ寄せ(東京新聞):https://www.tokyo-np.co.jp/article/270876



「インボイス制度」反対署名54万3114筆    岸田首相へ手渡し実現。100万筆達成で中止へ追い込む【篁五郎】
記者会見に参加した佐々木税理士:筆者撮影



◾️激変緩和措置で現場は大混乱



 インボイスに賛成している人の中に「激変緩和措置があるから問題ない」という声がある。激変緩和措置とは、簡易課税業者になれば6年間は消費税の納税が2割で済むという制度(※3)だ。しかし、簡易課税では、いかなる場合でも預かり消費税額で納税額が計算されるため、消費税の納付義務が必ず起きる。そのため、例えば簡易課税制度の適用を受ける年度に設備投資などを行い経費負担が大きくなった場合、消費税の「払い損」になることが出てくる(※4)。

しかも激変緩和措置は6年で終了するため措置後の税負担が大きくなる。



 しかし現時点で激変緩和措置どころか、インボイスの中身自体も周知されていない。報道ステーションが9月23・24日に行った世論調査によると、29%の人が「わからない」と回答している。会見に参加した佐々木税理士によると「今、知った」という事業者もいれば、すでに「インボイス登録していない事業者とは取り引きしない」と内部規定を作っている会社もあるという。



 岸田首相はインボイスについて「何年にもわたって対応を考え、説明を続けてきた」と話したが、STOPインボイスの記者会見と同日にインボイス閣僚会議の初会合を開催している時点で嘘なのは明白。制度がスタートする10月以降はさらなる混乱が起きるだろう。しかも混乱を収めるだけのマンパワーも足りていない。何せ財務省の職員が落語家もインボイスの対象となるのを知らなかったくらいだ。税理士や国税庁職員がすべてを把握しているとは思えない。



 おまけに間違えた情報を流布する人も出ている。インボイスの目的を「税の捕捉率を上げて、脱税やマネーロンダリングを抑制して摘発すること」と述べ、メリットとして「脱税や犯罪資金を止めることで税収が増え、安全が確保されて納税者の利益になる」と断言した経済評論家がいた。これは明確な間違いである。

インボイスの目的は「取引の正確な消費税額と消費税率を把握すること」であり、導入理由は消費税が複数税率になったからである。法人税や所得税などは対象外だ。仮にそういった目的があれば、別の制度でやればいいだけだと佐々木税理士も述べている。こうしたデタラメが横行している現状だと混乱するのは間違いないだろう。





※3 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要(国税庁HP):https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm



※4 インボイス制度が簡易課税事業者に与える影響とは?必要な対策と注意点をわかりやすく解説:https://www.obc.co.jp/360/list/post276



「インボイス制度」反対署名54万3114筆    岸田首相へ手渡し実現。100万筆達成で中止へ追い込む【篁五郎】
会見に参加した声優の甲斐田裕子さん:筆者撮影



◾️まずは「100万筆」を目標にしてインボイス中止へ持ち込む



 会見の質疑応答で署名数の新たな目標を問われたSTOPインボイス代表の小泉さんは「50万人を達成した途端にchange.orgの目標数が100万に切り替わったので、先ずは100万筆でいい」と答えた。100万も達成できると語り、中曽根内閣が売上税導入で反対署名が100万集まって退陣に追い込まれた例を挙げ、今後も署名活動を続けていくと述べた。



 またマスメディアのインボイスについての報道について、岸田首相が署名受け取り拒否したという時節ネタのような扱いではなく、きちんとインボイスの中身を報道してほしいと語った。





文:篁五郎

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