2023年10月から、アイドルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」が放送開始された。2016年に韓国で始まった「PRODUCE 101」シリーズの派生番組で、2019年と2021年に男性版の「PRODUCE 101 JAPAN」が制作され、今回が日本初の女性版オーディションとなった。
K-POP式のオーディション番組では、歌、ラップ、ダンスなどのスキルが厳しく問われる。通常韓国の事務所では練習生として何年もレッスンを積んでデビューするところを、素人からたった数ヶ月の放送期間で同じスタートラインにまで行くのだから当然だ。
K-POPが世界的に流行り出してからというもの、「日本のアイドルは歌もダンスも韓国より下手」と評価されることが多い。実際、「PRODUCE 101」シリーズとAKB48グループがコラボして2018年に放送された「PRODUCE 48」では、韓国人候補生と比べてAKB48メンバーのスキルが大きく劣っているとトレーナーが指摘する場面も少なくなかった。
「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」には、元ハロー!プロジェクトの笠原桃奈、元LDHの石井蘭など、日本の事務所でスキルを磨いた候補生も参加している。本番組は参加者全員日本人、トレーナーも韓国人1人以外は全員日本人、デビュー後の活動拠点もおそらく日本だが、ハロプロやLDHの実力を韓国に問う機会がどこかであればと思う。
さて、本番組の視聴者の間で、加藤神楽という候補生が小さな物議を醸している。彼女はA~Fクラスのパフォーマンスレベル分けテストで最低のFクラスであった上に、底抜けに自己肯定感が高い性格のせいで、向上心がないように見える言動もしてしまう。しかし、抜群のスタイルと整った顔立ちで人気を集めているのだ。
スキル重視の視聴者層は「顔だけ良い子が実力者よりも票を集めるのはありえない」という評価をしている。しかし反対に、歌唱力のある候補生でも、「一芸特化でビジュアルは微妙。アイドルなら容姿が良いのが大前提」と視聴者に言われている人もいる。
「顔だけ」の加藤神楽が日本らしいアイドル像なのかと言われれば、半分はそうだと言えるし、半分はそうでないと言える。確かに秋元康プロデュースグループを中心として、歌やダンスが素人レベルのアイドルが多く世に出てきたことは事実だ。しかし、ビジュアルを重視しているのは日本よりも韓国なのではという所感がある。
韓国が整形大国なのは周知の通りだ。韓国の大手事務所SMエンターテインメントなどでは、まず現状の顔立ちは十分でないが骨格などが優れている練習生を採り、グループのコンセプトに合うように整形させてからデビューさせるという話もある。
K-POPアイドル市場を見る限り、歌・ラップ・ダンスと並んで、ビジュアルも立派な評価基準の一つだ。「このグループのビジュアル担当といえば誰?」といった質問が、ファン同士はおろか、本人たちにも尋ねられることがある。「ビジュアル」はK-POPアイドルたちの口に非常によく上る言葉だ。
一方、特に秋元康のプロデュースでは、全体を見ると端正な顔が揃っているのに、「センターがこの子?」という場合がままある。お世辞にもとびきり美人とは言えない、しかしなんだか心掴まれる……という顔立ちのアイドルを、秋元康は前に押し出すのだ。
考えてみれば確かに、アイドルはモデルでも女優でもなく、愛着を持ってくれるファンを増やす職業なのだから、特徴のない美人よりも、少し欠点があっても覚えやすく親しみやすい顔であったほうが有利だ。日本的発想に立場を変えれば、韓国のアイドルの作り方のほうが邪道ということになる(ちなみに少女時代ユナ、Red Velvetアイリーンなど、SMエンタのセンターはいつも「とびきり美人」だ)。
秋元グループのオーディションでも、歌唱審査とダンス審査がおこなわれる。しかし、秋元康が見ているのはおそらくスキルの完成度ではない。元乃木坂46大園桃子が、オーディション中ずっと泣いていたというエピソードはよく知られている。彼女のように、何か「他と違う」と思わせるものを見て採用しているに違いない。秋元康本人も、「完成されている子は落とす」と語っている。
ちなみに旧ジャニーズ事務所のオーディションは、ダンスと自己PRだけで歌唱審査がない。しかも、「たまたま話しかけたおじさんがジャニーさんだった」というだけで受かったアイドルが少なくない。日本の敏腕プロデューサーは、こうした、数値化しづらい「持ってる」原石を探して、国民的アイドルを作ってきた。
K-POPに視点を戻そう。大手事務所のプロデューサーなら「持ってる」感も加味しているだろうが、それでもやはり、歌・ラップ・ダンス・ビジュアルといった数値化しやすい評価軸が第一に来ているように感じる。
キレキレのシンクロダンスを指す「カル群舞」は、K-POPグループのスキルフルさの大きな基準の一つだ。歌うなら「ホイッスルボイス」の使い手などがもてはやされる。
これらを見ていると、K-POPアイドルは、完璧な容姿・完璧なパフォーマンススキル・完璧な人柄を持った「理想の人間」を目指しているように思える。そしてファンたちは、限りなく完璧に近づくアイドルたちに対して、下から尊敬しつつ上から評価するという、ねじれた応援をしている。
数値化できる評価基準を設けたことで、ある基準はダメダメだがある基準は抜群という、加藤神楽のような存在への評価が宙ぶらりんになってしまう。彼女が秋元プロデュースグループにいれば、容姿はもちろんのこと、底抜けにポジティブなマインドも目立って評価されたことだろう。これがK-POP式オーディションの中だと、スキルにばかり論点が行ってしまう。
もちろん舞台はあくまで「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」なので、スキルは重視されるべきだろう。でも、それだけでは面白くない。韓国にその力を問える存在として、本番組の候補生たちは、スキル評価におさまらない自分の色を出して、ぜひどんどん目立っていってほしい。
文:梁木みのり