セクシー女優や男優・監督が「AV新法改正」を訴え国会前デモ ...の画像はこちら >>



 2022年6月に施行されたAV出演被害防止・救済法(AV新法)の見直しを前に、セクシー女優や男優といった業界関係者が改正を求めている。連日都内を中心に署名活動を行い、またオンライン署名も求めてSNSでの発信も行っている。

また最上一花さん、吉川蓮民(はすみん)さんなど人気セクシー女優の他、三代目葵マリーさん、板垣あずささん、かさいあみさんといった元セクシー女優、現役男優も街頭に立ち、3月24日まで活動を続けるという。



 



 彼らがそこまでしてAV新法改正を訴える理由は何なのかを取材してきた。





セクシー女優や男優・監督が「AV新法改正」を訴え国会前デモ  「このままではAVがなくなる!」
スタート地点の日比谷公園を出発するデモ参加者の行列:筆者撮影



 



◾️署名活動だけではなくデモ行進でAV新法改正を訴える



 2月23日には、業界関係者だけではなく放送作家のテリー伊藤氏も参加、3月8日にも日比谷公園から国会前までデモ行進が開催された。



 当日は業界関係者やAVメーカーが集まって結成された「AV産業の適正化を考える会」発起人の二村ヒトシ氏を筆頭に、集合場所には100人を超える賛同者がデモに参加した。日比谷公園を出発後、農林水産省、財務省の横を通りながら国会議事堂へ向けて「AV新法を改正しろ!」「AV女優の人権を守れ!」とシュプレヒコールを繰り返す。国会議事堂を横目に参議院議員会館前にたどり着くと、同法の改正を求めた請願書を浜田聡参議院議員へ手渡した。 



 オンライン署名サイト「Change.org」に掲載されている「AV新法を改正」のページには、現役のセクシー女優やAVメーカー、現役の男優、監督はもちろん、書店も賛同人に名を連ねている。他にも亀石倫子弁護士、高橋がなり氏、経営評論家の坂口孝則氏、弘中惇一郎弁護士の名前も賛同人として掲載されている。



 業界関係者のみならず、法曹関係者も改正を望む「AV新法」とは何が問題なのだろうか。





セクシー女優や男優・監督が「AV新法改正」を訴え国会前デモ  「このままではAVがなくなる!」
国会議事堂へ向かうデモに参加した現役のセクシー女優・男優・元女優たち:筆者撮影



 



◾️AV新法によって生じた業界への影響とは?

  



 今回業界関係者が改正を訴えるAV出演被害防止・救済法(AV新法)とは、政府広報オンラインによると「騙されてAVに出演した女性を救済する」という目的の元、無条件で出演契約をなかったことにできる法律だ。主なポイントは以下の通り。



 



・アダルトビデオ出演契約はアダルトビデオごとに締結しなければならず、契約締結時には契約書等を交付し、契約内容について説明する義務があること



・すべての書面の交付を受けた日から1か月は撮影してはいけないこと、撮影時には出演者の安全を確保すること、契約で合意した行為であっても、嫌な行為は断ることができること、公表前に事前に撮影された映像を確認できること、全ての撮影を終了した日から4か月は公表してはいけないこと



・撮影時にアダルトビデオへの出演に同意していても、公表から1年間(法の施行後2年間は「2年間」)は、性別・年齢を問わず、無条件に契約を解除できる



・出演契約に基づくことなくアダルトビデオの制作公表がされた場合や、出演契約の取消・解除をした場合は、公表の停止・予防及びこれに必要な行為を請求することができる



 



 これらが条文に記載されている。

しかしAVメーカーで制作されているアダルトビデオは、AV新法成立前から出演者に事前に許可を取り、お互いに合意を得てから撮影をしてきた。引退したセクシー女優が動画の破棄を求めてきた際は削除をして対応してきたという。 



 新法が制定されてからも、AVメーカーは同法を遵守し、アダルトビデオの制作を続けている。撮影する前には多くの契約書を用意し、女優と男優はすべての書類に目を通してからサインをする。



 撮影日に体調不良になると、代わりの女優や男優を呼ぶことはできない。新たに1ヶ月後に撮影日を決めて、多くの書面を用意しなくてはいけない。出演者はまた書面を全部読んだ上で、サインをしなければ参加ができない。再度撮影となるとスタジオのキャンセル料など多額の費用が発生してしまう。そのため女優も男優も現場スタッフも1ヶ月間、健康管理をして撮影日に穴をあけないようにしている。



 撮影終了後も4ヶ月は宣伝することもできない。現在、発売予約期間を含めれば事実上最短でも6ヶ月の時間を要するようになっている。新法施行以前は撮影から販売まで3ヶ月だったことを見ると明らかに時間的なロスが大きいのは明らかだ。



 そのためAVメーカーは販売収益が下がってしまい、制作本数は施行前より約2割の減少。現場が減るため中堅女優は仕事が激減し、中には個人撮影のAVに出演したり、売春に手を染めたりする女性もいるという。理由は個人撮影AVの場合、出演料を先払いしているからだという。メーカーAVは撮影後に支払うことが多い。しかもAV新法によって販売できるまで時間がかかるためお金回りも悪くなっている。そうなると女優へギャラを支払うのも遅れたり、アップできなかったりしてしまう。そうした負のサイクルによって業界が先細りをしてしまう。



 さらに新人女優との契約も、出演者による権利行使により公表停止されてしまうリスクがあるため控えるようになってしまった。人気のあるセクシー女優も、制作前の契約書の確認で事務作業が大幅に増えてしまい、しかも出演本数が減ってしまったという。



 つまりAV新法はメーカーAV関係者すべてに悪影響を与えたと言っていいだろう。





セクシー女優や男優・監督が「AV新法改正」を訴え国会前デモ  「このままではAVがなくなる!」
請願書を渡す「AV産業の適正化を考える会」発起人の二村ヒトシ氏と浜田聡参議院議員:筆者撮影



◾️業界関係者を無視して作られた「AV新法」

 



 AV新法が始まって以降、AVメーカー業界は同法に振り回されて徐々に弱体化している。こうした状況になったのは、AV新法が業界や現場の声を聞かずに作られたからだ。

この点は、元経済産業省の官僚で作家の宇佐美典也氏は成立時点から指摘をしてきた。



 宇佐美氏によると新しく法律を作る時、必ず業界関係者を呼んでヒアリングをするという。関係者から話を聞くのは、業界へのダメージを軽減できるようにするためだそうだ。しかしAV新法は第三者であるAV人権倫理機構へ形式的に話を聞くだけで作られてしまい、審議もわずかで成立してしまった。これは問題点を完全に無視した法律だと言っていい。しかもAV新法成立前から出演者がAV人権倫理機構に訴えれば、AVの販売差し止めや削除は可能な状態だったのだ。つまりAV新法がなくても過去の出演者は保護されていた。違法行為をしてきた個人撮影の業者が捕まってきたのが現状である。



 同法設立者の一人である立憲民主党の塩村あやか参議院議員は、X(旧Twitter)で個人撮影AVによる契約トラブルの事件を取り上げ、「AV被害者救済法は、こうした被害を未然に防ぐ働きもあります」とコメント。



 しかも「実態に即していない」「不当に仕事の機会を奪われている」という意見を無視していると現役セクシー女優が訴えた際、塩村議員は「AV人権倫理機構を業界団体だと思って話を聞きました」と返し、「倫理機構と話し合ってまとまったから、この法律で上手くやってください。しばらく仕事がなくなるかもしれませんが仕方ありません」と答えたという。



 つまりAVメーカーがどうなろうと知ったことではないと言ったも同然である。

 



 宇佐美氏によると、AV新法改正案は「本番禁止」といったメーカーAV業界をさらに締め付ける内容になっているという。





セクシー女優や男優・監督が「AV新法改正」を訴え国会前デモ  「このままではAVがなくなる!」
デモに参加したタレントの範田紗々さんと三代目葵マリーさん:筆者撮影



◾️業界関係者が訴える「このままではAVがなくなる」という切実な声

 



 セクシー女優・筋肉インフルエンサー・プロレスラーと3つの顔を持つちゃんよたさんは、3月8日のデモ行進で初めて活動に参加した。デモ行進終了後に「私もAVで、今の自分があると思ってるので、今後夢とか覚悟を持ってAV業界に入ってくる子たちが、夢を途中であきらめるっていう形にならないようにAV新法を改正してほしい」と訴えた。 



 改正については「AV新法で良かった面とかもあると思うんですけど、やっぱり内部の関係者の声をしっかり聞いた上で、良いものにしていければいいのかなと思います」と希望を語った。



  また、元セクシー女優で、タレントの範田紗々さんもデモに参加して声を上げた。



  「私、2006年から2010年までAV女優として活動していてとっくに引退した身ではあるんですけれども、毎日SNSでこういう女優さん、監督、男優さんたちが声を上げているのを見て、何か力になれたらいいなと思って参加しました。本当に今後AV業界の方のためになるような、お仕事しやすいような環境になる法律にしていただきたいと思います」



  「AV産業の適正化を考える会」発起人の二村ヒトシ氏は当サイトの取材に答えてくれた。



  「今日、渡した請願の中には「我々のことを調べてください」というのがあります。業界の実態を調査して、理解してほしい。AVの中にはいいものも悪いものもあります。だから我々も悪いことをしている人を野放しにするのではなく、本当に法律を守ってる人と法律を守る気がない人たちがごっちゃになってニュースになってしまうのは本当に困ります」



 このように話し、「ちゃんとしたコンテンツ産業にこのタイミングでならないと」と語った。 



 AV新法を改正するためには賛同する議員の数を増やす必要がある。

請願を受け取った浜田聡参議院議員は「(改正に好意的な)日本維新の会や国民民主党の玉木代表、自民党の山田太郎参議院議員、赤松健参議院議員へ呼びかけはしたい」と展望を語った。 



 AV新法は、2年以内の法律の見直しが条文内に明記されており、順当に行けば2024年6月までの法律の改正が予定されている。署名が多く集まれば業界の実態に即した条文に変更も可能だ。オンライン上でも署名ができるので賛同する人は署名をしてほしい。





文:篁五郎



 

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