新型コロナウイルスが、2023年5月から「5類」となり、感染者が増えても緊急事態宣言といった行動制限や自粛要請がなくなって1年近くになる。現在は「アフターコロナ」について様々な媒体で、多くの識者や企業家がビジョンを語っている状況だ。

京都大学大学院教授の藤井聡氏もその一人である。



 しかし藤井教授の提言は信用に値しない。なぜなら彼がこれまでに主張してきた発言の変節ぶりがあまりにも激しいからだ。それはどのようなものだったか? 具体的に取り上げ、藤井教授が信用できない人物であることを明らかにしたい。



 2020年6月4日、藤井教授は「日経クロステック」の「私たちのアフターコロナ」という特集で「国土構造の分散化を」というタイトルでコロナ禍で得た教訓を活かした提言をしている。コロナ禍初期での提言であり、内容は優れたものだ。



 特集では「現在のグローバルな世界では無症状の人が感染を広めてしまうリスクが大きい」という前提のもと、2つのフェーズで対策をするべきだと述べている。



    一つはロックダウン(都市封鎖)のように抑制された状況。つまりわが国でも採用された行動制限をすること。もう一つは、ウイルスが存在することを前提に、社会や経済の構造を変えていくことだという。



 では、藤井教授は、社会や経済の構造をどのように変えるというのか? コロナのような新しいウイルスは、民間事業に打撃を与えるため小さな政府で経済を動かすと国民生活に大打撃を与えてしまう。ゆえに「大きな政府」に転換し、公共事業を拡大すること。

コロナ禍で雇い止めや倒産が起きた場合は、失業者やその予備軍を公務員として大幅に雇い上げるべきだといった提言をしている。



 また、藤井教授は、大都市は「3密(密閉、密集、密接)」の状況が生じやすい。なのでリスクを分散するため地方へ人が移住しやすいように国土構造の分散化をすることを提言している。地震や台風、津波、高潮などの自然災害に加えてウイルス対策として「国土強靭化」を進めていく必要があると述べている。そのために整備新幹線や高速道路の拡充を進めていくべきというのだ。



 同時に「安倍内閣ではそうした提言の実現は望めない」とも語っている。

その理由として、安倍内閣は緊縮財政を行ってきており、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の撤廃をしなかったこと、消費税の税率をアップしたことを挙げている。



 同時に、コロナのような危機で財政規律だとか財政破綻だとか言っている国はないと断言し、当時の安倍内閣を糾弾していた。いずれも真っ当な主張である。



 



◾️「コロナで死ぬのは老人だけ」と態度を180度変える

 



    ところが、藤井教授は発言を一変させる。コロナ感染者が多いのは高齢者というデータを元に「高齢者だけ徹底的に隔離しろ」という現実的に不可能な提言をしたり、「自粛派になってしまっているのは、コロナに壊される『社交』を持たない人々」の集まり「コロナ脳の人々」とレッテル貼りをしてきた。しかもワクチンや治療薬がいつ完成するのかわからないのだから、いつまでも行動制限をしていたら社会活動も経済活動もできなくなり、人が生きていけなくなると断言していた。



 しかしワクチンが開発されて無料で高齢者から接種が始まると、藤井教授は自らの発言を忘れたかのようにワクチンにも否定的な態度を取り始めた。自身の有料メルマガの中では以下のような文章を掲載している。



 「ホントならワクチン打たなくていいのに、ワクチンうたされて、かえって国民が不健康になる」



 つまり藤井教授はコロナワクチンを不要だと意見を変節したのだ。にもかかわらず、コロナワクチンを接種したことをSNSに投稿し、主張の変節ぶりを指摘されるとその投稿を削除。なぜ削除したのか? その理由はいまだに語られていない。



 



◾️反自粛の根拠も薄くて浅かった  「我田引水」を地でいく変節 

 



 言論において意見の修正は悪いことではない。

自らの意見を振り返り、おかしな点があれば変えるのは建設的な議論において大切である。しかし藤井教授の場合、主張が矛盾する上にデータの解釈が間違っていることが多い。2022年にはコメンテーターとして出演しているABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」や文化放送「おはよう寺ちゃん」で「コロナの問題は、欧州は終わってる」と述べ、日本だけが未だに対策をしていると断言して政府を批判した。



 しかし藤井教授の発言とは真逆に2022年から死者は増え始め、同年の国内の死者数は158万2033人で前年よりも12万9744人も増えている。藤井教授の発言がいかに的外れで、いい加減な内容かがわかるであろう。 



 「コロナは風邪」「反自粛」の言論人として藤井教授は様々な場に顔を出してきた。

コロナ特別措置法に基づいて、東京都が営業時間短縮命令を出したのは違法だとする飲食店経営のグローバルダイニングが起こした民事裁判でも、証人として出廷し証言をしている。この裁判は、原告の主張を一部認め、「命令は特に必要と認められず、違法」したものの、「都知事に過失があるとまでは言えない」として原告側請求を棄却していた。



 司法は、「緊急事態宣言が残り4日で解除されるのに、東京都はきちんと説明しないで20時以降の営業を止める命令を出すのは違法」だと判決文で述べている。つまり原告の「特措法が違憲」という主張は退けていた。



 しかし藤井教授はこの点を無視して自身のTwitter(現・X)に以下のような投稿をしたのだ。



 



《この判決は膨大にある不当コロナ行政の氷山の一角です。だからこそ2年以上も不当に自由を奪った行政/社会のコロナ対応を絶対に忘れてはなりません.》



 



 司法は、行政のコロナ対策を不当とは述べていない。国の緊急事態宣言が解除されるのに都が説明なしで、20時以降の自粛要請をした点を違法としているのだ。



  自分に都合のよい点だけを取り上げて、自説の正しさを訴えるのが藤井教授である。言論人としてあるまじき行為である。藤井聡は学者としても言論人としてもまるで信用できない人物である。



 



◾️反自粛から反医療へデタラメを拡大

 



 こうしたデタラメ発言を繰り返してきた藤井教授だが、反自粛をこじらせたのか、医療に対して宣戦布告をするような言動が目立ってきた。「昔は赤ひげ先生みたいに風邪をひいても、お腹が痛くても、骨が折れても、まずその医者に診てもらっていた。専門医は自分の専門とする部分の治療にだけ全力を注ぎ、それ以外のリスクについては門外漢。専門に分けたからいかんのです」とも主張。



 的外れもいいところだろう。開業医でも自分の専門外の診療をしている医師もいる。開業医同士で連携をしている地域もある。大きな病院では、専門医同士がカンファレンスで連携しながら患者の病態を診ている。藤井教授はどこの世界の医療の話をしているのだろうか。要するに、根拠なく威勢のよい発言をして、ドヤ顔しているにすぎない。



  また、藤井教授は公的病院が少なく民間病院が多い現状が、過剰医療を生み出す構造になっていると主張。同時に民間病院は「金もうけ主義」だと一方的に批判。医師は患者を騙し放題の状況に置くことができるとも断言。医師の公務員化を提言している。医療従事者を十把一絡げに侮辱していた。



 また、公務員化の理由として6割の病院が赤字であること、分野ごとの医師の数や割合を調整するというメカニズムが崩壊したことを挙げている。さらに過剰医療対策として「無駄に感じられる部分の延命治療はやめよう」という判断に至った。そして、健康寿命を最大化するために「寝たきり老人をなくそう」という目標を立てたスウェーデンを真似るようにと述べている。姥捨山の発想が藤井教授にあるのは明白だ。



 藤井教授の過剰医療批判は的はずれである。今の日本は「患者を早く退院させてベッドのサイクルを早くする」という方向に進んでいる。「90日ルール」が象徴といえるだろう。「90日ルール」とは、入院生活を送っていた患者が「治療済み」を理由として90日以内に退院を促されるもの。症状が改善していなくても半ば強制的に退院させられる事例も数多くある。



 



◾️成田悠輔氏への批判が自身のブーメランに



 先日、経済学者・成田悠輔氏がキリンビールの缶チューハイ「氷結」のウェブ広告に起用されて、キリン不買運動が起きる騒ぎになった。理由は、成田氏が過去に少子高齢化に対して「解決策は高齢者の集団自決しかない」と発言したことが問題視されたためだ。



 抗議を受けてキリンは成田氏の広告を直ちに削除。その理由について「さまざまなご意見を頂戴したため、総合的に判断」と成田氏の過去の発言を考慮したことを認めた。成田氏は財務省広報誌にも登場していたため、騒動は国会でも取り上げられた。



 そんな中、成田氏を舌鋒鋭く批判したのが藤井教授だ。藤井教授はXで成田氏の発言を取り上げ、下記の投稿をしている。



 



《“高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい”という趣旨の成田悠輔氏の「老人集団自決論」がダメなのは…



 「老人はシケイなのだ」



というバカボンのパパみたいな事を言ってるに等しいから。



それは赤塚不二夫ギャグ級に「論外」である。》



 



 このように強い言葉で攻撃。成田氏を擁護するリプライが来ると「『常識』の重要性を今こそ思い起こすべきです」と反論し、無料メルマガで成田氏の発言を糾弾した。



 残念ながら藤井教授に成田氏の批判をする資格はない。なぜなら彼もコロナ禍に置いて、高齢者を蔑ろにするような発言をしていたからだ。



 藤井教授は、コロナ禍初期に対策として「高齢者等の社会活動からの『隔離』をはじめとした、高齢者対策を徹底せよ」と提言していた。理由して、死者の大半が高齢者であると自身がトップを務めるユニットで示したデータを開陳しながら、「高齢者や基礎疾患をお持ちの方々さえコロナ感染を徹底的に回避する取り組み『さえ』行っておけば、基礎疾患の無い健康な若年層については、過剰な自粛は必ずしも必要ではない」と断言。高齢者と同居している家庭は部屋で隔離をすればいいと述べていた。



 藤井教授は成田氏を糾弾したメルマガでこう述べている



「お前の愛する祖父母、あるいはお前の愛する人が祖父母を愛していたとしても、自決しろとその言葉を投げかけて、心の痛みや違和感を微塵も感じないのか?」



 これまでの藤井教授の高齢者に対する発言はなんだったのか?



 藤井教授の「高齢者は徹底隔離」というコロナ対策は、成田氏の「高齢者は集団自決するしかない」と本質的には同じである。それは、ある問題を解決するために一部の人が犠牲になればいいという優生思想的な発想だ。この思想は旧ナチス・ドイツが戦時下で障害のある人に対し「断種法」に基づく強制的な不妊手術や、「T4作戦」と呼ばれる計画的な大量殺りくが行われていた危険な考えである。



 つまり藤井教授と成田氏の根底に流れているのは同じ思想である。同じ穴のムジナだ。



 



◾️敵への過剰攻撃とポジショントークを繰り返す煽動家

 



 これだけデタラメを繰り返し、変節漢ぶりを見せた藤井教授。自民党の裏金疑惑で岸田首相を猛批判しているが、裏金議員の一人である萩生田光一や西田昌司の名前は出していない。その理由は「彼らは積極財政派だから」だそうだ。5億もの裏金を作っていた二階俊博元自民党幹事長も批判していない。それは二階氏が国土強靭化を推進してきたからだという。



 それならば裏金問題は黙っていればいいが、岸田首相だけは大きく取り上げて批判をしている。犬並みに主人にだけは忠実な男だが、信用できない人間としか言い様がない。



 内閣官房元参与という権威をまとって、都合よく発言を変節させる藤井聡という人間の正体に国民は気づいた方がいい。敵認定した相手を都合のよく責め、お互いの儲け話になれば、味方につく。恥さらしもいいところだが、「裸の王様」にはその声は聞こえないらしい。



 



文:篁五郎