今年4月に高血圧での受診勧奨と判定する基準(mmHg)が、「収縮期140/拡張期90」から「収縮期160/拡張期100」へと変更された。「受診勧奨される人が10分の1になった」という衝撃のニュースが駆け巡ったものの大新聞やテレビではほとんど報道されていない。

さらに6月からは「高血圧医療」が大きく変わる!「高血圧/高脂血症/糖尿病」の生活習慣管理料を実質半額になるのだ。なぜ今こんなことになったのか?  その真相を追及してきた第一人者の著書『長生きしたければ高血圧のウソに気づきなさい【増補新版】』(KKベストセラーズ)が話題になり、Amazon(高血圧)売れ筋ランキング第1位に(2024.5.31現在)。果たして、「降圧剤は飲むべきなのか否か?」 東海大学医学部名誉教授・大櫛陽一氏の最新寄稿。



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 日本では国の財政不足が深刻化しています。アベノミクスで、日本銀行が国債を大量に購入するという禁じ手で、景気回復と株式上昇を演出してきましたが、日本銀行自体の身動きが取れない状態になっています。高齢化に伴う医療費増加を抑えるという目的で2008年から特定健診を始めましたが、過剰診断と無駄かつ危険な医療により、年間6,000億円ずつ増えていた医療費が1兆円ずつ増加するという悪い結果となっています。



 財務省は、今まで厚労省の政策に対して問題意識を持ちながらも静観していたのですが、財政制度等審議会・財政制度分科会で具体的な対策を建議しました。実質賃金が伸びない中で、開業医の所得が飛び抜けている、その原因として無駄な生活習慣病治療を取り上げています。



 2024年6月から高血圧/高脂血症/糖尿病の生活習慣管理料を実質半額にします。すでに、厚労省は4月から健診での医療機関への勧奨基準を大きく変更しました。血圧では140/90 mmHg以上を受診勧奨としていましたが、「すぐに医療機関の受診」としては160/100 mmHg以上と明記しました。これに従うと、健診で高血圧での受診勧奨が出される率が今までの50%から5%と10分の1になるのです。



 小林製薬の紅麹事件で有名なLDLコレステロールも、140 mg/dL以上で受診勧奨を出していましたが、180 mg/dL以上で「すぐに医療機関の受診」としました。これに従うと、受診勧奨が26%から4%に減少します。これでも、米国の190 mg/dLに比べると低すぎるので、再度変更して2%にする必要があります。



 日本では、血圧やコレステロールで外来受診をすると、必ずといっていいほど薬が出されます。患者も、受診して薬を処方されることに慣らされています。薬を避けても不安なので、サプリに頼ることになります。紅麹事件の真犯人は厚労省の健診なのです。なお、欧米では健診制度は皆無なのです。英国、デンマーク、オランダ、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イスラエル、ニュージーランド、ノルウエー、南アフリカなどが健診の評価をして、個人の健康と国の医療費のどちらにも効果が認められなかったのです。なお、がん検診については効果が認められて実施されており、日本より受診率が倍くらいあります。



6月から高血圧医療が大きく変わる!「高血圧/高脂血症/糖尿病」の生活習慣管理料を実質半額へ【大櫛陽一】
イメージ:PIXTA



 2005年に日本肥満学会を中心として日本版メタボが発表されましたが、その直後から欧米から名指しで批判されて、論文や声明が出されています。「メタボは生活習慣の改善指標で、薬を使うのはとんでもない」「日本のメタボ基準は奇妙だ」と。



 2019年にはOECDから勧告が出されました。



 「日本の健康診断は、疾病と医療費の削減効果に疑問がある」「重複している検査のリスク、医療資源の浪費、過剰診断、エックス線被爆などを無視してはいけない」「がん検診は、年齢や頻度、方法が自治体や職場の間で不統一である。国の指針に従い一律に実施、登録して検査の質を向上させるべき」「日本では、高齢者のフレイル、男性の喫煙率が高いこと、女性の飲酒量増加が問題である」「健診に偏ることなく病気予防のための包括的な政策を取るべきだ」と多くの指摘が行われました。



 保健と医療に関して、政策立案が非科学的で、いまだに後進国なのです。今年からの変革に注目しましょう。





文:大櫛陽一(東海大学名誉教授)



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