2016年に上梓された拙著『痩せ姫 生きづらさの果てに』が重版となった。刊行時の表記ミスなどをいくつか修正したものの、基本的には同じ内容だ。
たとえば、第二章「SNSという居場所」の「スレンダー芸能人」という項だ。ここでは桐谷美玲と河北麻友子を「ツートップ」として紹介。当時、桐谷は164センチ39キロ、河北は162センチ38キロ、という、BMIならともに14.5くらいの体型だった。
それゆえ、世の女性の憧れも集めつつ、細すぎるとしてダメ出しもされやすい存在。そんな正負の反応に触れながら、本人やファンのコメントなども引用して、スレンダー芸能人及び細い女性たちの葛藤に焦点を当てたのがこの項だった。
ただ、ふたりはその後、結婚して、ともに1児の母親に。仕事も再開しているが、30代となった今、当時よりふっくらとした印象だ。実際、体重も増えているのではないか。
とはいえ、ふたりの果たした功績は大きい。それまでにも浅丘ルリ子や松本伊代など、30キロ台の体重が注目されたスレンダー芸能人はいたが、このふたりは身長も150センチ台。つまり、日本女性の平均もしくはそれ以下の背の高さだったわけだ。
これに対し、桐谷・河北は平均以上の身長がありながらの30キロ台。そんなふたりが、ドラマや映画、あるいはバラエティーで活躍し、インスタグラムで着こなしを披露するなどしてきた。そして、結婚や出産も経験。これは痩身と健康とが両立できることを示し、細くあることへの憧れをさらに高めただけでなく、美のハードルをますます上げたともいえる。
頑張れば、ふたりのようになれるかもという「希望」と、所詮、ふたりは特別な人なのではという「絶望」の両方をもたらす存在でもあったのだ。
では「ツートップ」が卒業しつつある今、跡を継ぐような存在はいるのだろうか。といいつつ、最近は芸能人の体重が公表されること自体が減ってしまっているが、そんななか、あえて公表して驚かせた人がいる。
AKB48の中心メンバー・千葉恵里だ。今年2月、自身の動画チャンネルで身体測定を公開。身長165センチに対し、41キロだったが「朝計ったときは40.6でした」としたうえで、さらにこう言った。
「ふだんはちゃんと39なんですよ、ふだんは」
じつは彼女、1年前にも同じ企画をやっていて、そのときは42.9キロだった。が、その後「顔」をすっきりとさせたくなったようで、ダイエットをして39キロに到達。
「痩せてからのベストよりかは1キロ増えてます。だけど、まぁいいかなみたいな」
と、測定前に言っていた。思うに、本人的には「痩せすぎ」と言われたのがやや心外というか、増やしたくない気持ちもあったのだろう。それが「ふだんはちゃんと39なんですよ」という表現につながったのではないか。
小6でAKB入りしたときから細いことで注目された彼女。当時最もBMIの低いデータとしては、152センチ29キロというものがある。
その後、身長も伸びて体重も増え、10代なかばには47キロくらいまで太ったというが、そこからまた絞ってきた。その結果、160センチ超え30キロ台という桐谷・河北レベルの細さを実現。ネットでは、アイドル好きの女性から「人間を超えた可愛さ(略)お人形です」と絶賛されてもいる。
かといって、ひ弱なわけではなく、体力もある。昨年12月には「呼び出し先生タナカ」(フジテレビ系)の跳び箱企画で10段をクリアしてみせた。
じつはこのとき、同じ10段をクリアしたのがあのちゃんこと「あの」だ。
ちなみに「昔は15キロくらい太ってた」そうで、だとすれば57キロくらいあったことになる。今の体型はかなり頑張って手に入れたものなのだろう。千葉にせよ、あのにせよ、それなりの努力はしているわけで、そこに親近感を覚える人もいるのではないか。
そういえば最近、元乃木坂46の齋藤飛鳥も、ダイエットについて告白した。冠番組でもある「ハマスカ放送部」(テレビ朝日系)で、
「ゆで卵とチーズと……くらいしか食べてなかった時期はありました。ジムの人とかにはもちろん『やめなさい』って言われるけど、もうバグってるんで、頭(笑)」
と、発言。筆者はこの人の細さについて、体質的なものが大きいと思っていたので、意外な気もしたものだ。
しかし、世間では「なるほど」的な反応が優勢。細身のアイドルは何らかの無理をしているはずと考えるのが、多数派のようだ。なお、齋藤の身長は158センチなので、乃木坂時代のいちばん細かった時期は40キロなかったかもしれない。
そこで思い出すのが、献血をめぐる騒動。乃木坂は19年から21年にかけて日本赤十字社の献血促進プロジェクトに借り出され、彼女をリーダー格とした5人がCMなどに出演した。
が、二度目のキャンペーンの際、献血経験を聞かれた5人は全員が無言で首を振り、これをメディアが面白おかしく報道。世間の反応のなかには、体重が足りなくて献血できないメンバーもいるのではという見方もあった。
実際、女性は40キロ以上であることが条件のひとつだったりする。もちろん、彼女たちの役目は献血に行くことではなく、行かせることだ。太った女芸人とかが呼びかけるより、はるかに効果的だろう。
にもかかわらず、これが騒動化したのは、細いことを不健康だとして非難したい感覚が世の中にけっこう潜んでいるからでもある。乃木坂でも有数のスレンダー系だった齋藤がリーダー格というのも、事を大きくしたのではないか。
『痩せ姫 生きづらさの果てに』では、細いことをディスられることへの不満の声もいくつか紹介している。桐谷と河北は芸能界という目立つ世界で、そんな声も浴びせられがちという共通点から、仲良くなったりもした。
一方、今の芸能界にツートップ的な人はいない。千葉やあの、齋藤にしても、集中砲火という感じではなく、スレンダー芸能人をめぐっても多様化みたいなことが進んでいる印象だ。いや、芸能界に限らず、たとえばキャバ嬢はキャバ嬢のなかで、アスリートならアスリートのなかで、好みの細さの人を見つけて憧れるようになってきているのかもしれない。
それこそ、最近は痩せ願望の早期化が指摘されていて、小中学生には小中学生のスレンダー芸能人的な存在がいる。たとえば、その年代向けの雑誌モデルだ。
そのなかで忘れられない子について、書いておこう。ただ、もう引退してしまっているので匿名としたい。
その子は小中学生向け雑誌のモデルとして、高い人気を誇り、将来を有望視されていたが、中2の後半に激痩せをきたした。その途中で行われた、モデルたちの身体測定企画では160.8センチ39キロ。しかし、最も細くなった時期の姿は30キロ近く、あるいは30キロを切っていたようにも見える。
そこまでいくとさすがに「細すぎる」という声が多くなったものの「それでも可愛い」と推し続けるファンもいた。ちなみに、前出の千葉恵里を絶賛しているアイドル好きの女性はこの子についても言及。激痩せした時期の様子やその背景にも触れたうえで「憧れにしちゃいけない」ものだと見なしている。
そこで考えてしまうのは「ちょうどよい細さ」になることや、そういう細さであり続けることの難しさだ。人によっては、千葉の段階ですら、よしとはしないわけで、誰もが共有できる「ちょうどよい細さ」はおそらく存在しない。

筆者が長年見てきたなかでも、デブと呼ばれて痩せたらガイコツと言われた、などと語る人がちょくちょくいて、そのあたりがダイエットの難しさでもある。そもそも、痩せ姫の姿こそが「ちょうどよい細さ」だと感じる人もいることを思えば、正解を決める必要もないのだろう。
大勢の人の視線にさらされ、羨望や嫉妬、快や不快といったさまざまな感情をもたらすスレンダー芸能人。どんな細さも、そして太さも、その人にとってよければよいのだ、ということにはなかなかならないだろうなというもどかしい現実も、彼女たちは教えてくれる。
文:宝泉薫(作家・芸能評論家)