9月20日、都内で行われた『ありがとう、松ちゃん』(ベストセラーズ)刊行イベントで、医師でジャガー横田さんの夫としても知られる木下博勝氏が自身の文春との戦いを振り返った。木下氏は過去、文春の報道を巡って発行元の文藝春秋社と係争、勝訴した経験を持つ。
■「腹を切るしかない」と覚悟した木下氏
木下:私の経験をお話しします。私は2019年12月、文春にパワハラ・セクハラ疑惑の記事を立て続けに4本も書かれました。文春にスクープされた場合、謝罪してしまえば(第二報、第三報は)出さないんです。でも私には身に覚えがなかった。嘘だと思ったので突っぱねたんです。実は、これは以前の勤め先からの「報復」でした。給与未払いで裁判を起こしたら、その1ヶ月後に文春砲を食らったという経緯です。
対応のために、寝る時間、精神がどんどん削られていきました。
武士の精神で、身の潔白を示すためには「文春の本社に乗り込んで腹を切るしかないな」というところまで追い詰められました。
最もつらかったのは子どもへの影響です。中学1年だった息子は、それまで毎日友達が家に来る明るい子でした。でも記事が出た途端、誰も来なくなった。「セクハラの息子」「パワハラの息子」といじめられ、学校で人権集会が開かれるほどでした。息子は「親父、大丈夫か?僕は大丈夫だから」と私を気遣ってくれましたが、結局中学を卒業するまで友達が我が家に来ることはありませんでした…親としては本当につらかった。
名誉回復のために提訴しましたが、これが難関でした。2年半もかかり、莫大な費用と精神的苦痛を味わいました。
私は勝訴して賠償金を得ることができましたが、たったの110万円でした。お金と時間を使って、精神をすり減らしてこれだけです。結局、名誉毀損の場合、裁判に負けても大したことにならないんですよ。私の知るところで1000万円、清原(和博)さんのケース、これが日本の名誉毀損における最高額です。
今回の松本さんの件、聞くところによれば文春の取材がいい加減だったと認定されつつあるようですね。松本さんには勝訴して名誉を回復し、早く芸能界に戻ってきてほしい。そして「週刊文春をぶっこわす!」と言ってほしいですね(笑)。僕も一緒にやりたいくらいです。
■メディアよ、文春に倣えでいいのか?

村西:木下先生、ありがとうございます。
文春は「真実相当性」という言葉で逃げる。取材は尽くしたと言いますが、客観的証拠はないんです。松本君の件でも、真相は全然違うんです。A子のネタにしても、最初はコアマガジンという出版社に持ち込まれたのですが、私の40年来の友人である同社の社長は「これは金目当てのネタだろう」と判断して、イニシアルと似顔絵で載せていたんです。
それを文春は「これはネタになる。(訴えられて負けても)2~300万円で済むなら大したことない」と飛びついた。そして、たった1回の品川駅での突撃取材だけで、あの記事をデッチ上げて、12週にわたって松本君を叩いた。「死ねよ」とばかりに。
日本のメディアはコタツ記事ばかり書いて、とにかく真実を検証する努力をしない。2002年にあった福岡教師殺人事件でも、文春がでっち上げた記事で先生が10年間苦しんだんです。
文春は芥川賞や直木賞を主催する(編集部注:現在の主催は日本文学振興会に引き継がれている)メディアのドンだから、これに歯向かったら大変なことになると、他のメディアもライターも一切沈黙しているんです。こんな表現の自由、報道の自由を放置してはいけません。皆さんの良識が最後の砦なんです。本当に憤ってほしい。私も最後の最後まで戦っていこうと思っています。皆さん、ぜひご協力をお願いします。
取材・構成:BEST T!MES編集部