2022年3月に可決・成立したAV新法。ほぼすべての国会議員が賛成したが、あまりにも拙速に可決をしたため現場の状況とそぐわない部分が露呈した。

AV業界から改正を望む声が上がるも、政治は取り上げなかった。



しかし業界サイドも、署名活動、議員への陳情、国会前デモなどを行い、世間と政治家に対して粘り強く声を上げ続けている。その成果の一つが「AV産業の適正化を考える会」主催によるシンポジウムの開催だ。



今回で3回目となる同会のシンポジウムは、初めて衆議院議員会館で行われた。そこで出てきた提言や参加した現職国会議員の声を中心に紹介をする。(開催日:2024年12月18日)



■新法は「経験者」と「未経験者」を同じ土俵に上げてしまった





 初めに「AV産業の適正化を考える会」の発起人である二村ヒトシ氏からの挨拶でスタート。改めてAV新法の問題点を挙げていった。主な内容は以下になる。



  • AV出演に関する契約書の交付と説明義務(制作者は作品ごとに出演者へ内容の説明と契約を締結する義務を負う)

    ⇛新人など経験が少ない出演者にとっては有り難いが、ベテランにとっては負担になる。地方在住者は交通費の負担も大きい



  • 1ヶ月・4ヶ月ルール(書面での契約締結後、1ヶ月の撮影は禁止。撮影後4ヶ月は作品を公表してはならない)

    ⇛メーカーの売上が落ちてしまい作品数が減ってしまう。そのせいで特定女優に仕事が集中してしまい、業界全体が地盤沈下してしまう。

    出演が減った女優は地下AVや海外売春などに流れる事例が見られたりする



  • 契約の無効、取り消し及び解除に関する特則(上記の1と2に違反した場合は契約が無効。すべての出演契約を結んだ者(男優含む)は、無条件で契約解除可能

    ⇛2と同じ問題が起きる可能性があり、さらに法を悪用して詐欺まがいの手口が横行する可能性もある

  •  つまりAV新法を改正しないままだと、業界そのものが潰れてしまう恐れが出てくると述べている。関係者は女優、男優だけではない。制作会社の社員や監督を筆頭にスタッフ、スタイリストやメイク、スタジオ提供者、販売業者、仕出しの弁当屋……最悪の事態になれば、多くの人が路頭に迷ってしまうことになる。



     賛同人であるテリー伊藤氏(以下:テリー氏)は、AV新法をかつてのアメリカの禁酒法に重ねて、問題意識を語った。禁酒法下では、表向き禁止された酒の酒造販売がマフィアの手に渡ってしまった。AV産業も、このままではアンダーグラウンド化し、女優を含む業界従事者が犯罪に巻き込まれる恐れがあると指摘した。



     テリー氏は是々非々でAV新法の意義も認めて、次のように呼びかけた。



    「全部が悪いわけじゃないんです。特に18歳19歳の右も左もわからない女性達を守るためにはいい法案だと思います。いい部分は残しながら問題点を改正していきたい。皆さん、よろしくお願いします」







     シンポジウムには、今なにかとお騒がせの玉木雄一郎・国民民主党代表(以下:玉木議員)も参加。

    テリー氏から名指しをされ次のように述べた。



    「この法律の最大の問題は、現場の皆さんの意見をしっかりヒアリングせずに始めてしまったこと。そろそろ現実的な回答を、きちんと法律の形で出していく時期に来ている。もちろん保護すべき人は保護しながら、バランスの取れた法律に変えていくべきだ。関係者の皆さんと一緒に頑張りたいと思うので、よろしくお願い申し上げます」



     こう支援を約束し、会場を後にした。





    ■維新の会と国民民主党が提出した改正案の中身とは





     玉木議員の挨拶に続いて、元参議院議員の音喜多駿氏が、今年の6月に日本維新の会と国民民主党が共同で提出した「AV新法改正案」について説明した。



     主な改正点は以下の通りだ。



    • 個別契約ルールに適用除外を制定(契約は1年以内の撮影であればまとめて締結が可能)
    • 撮影開始1ヶ月ルールに特例を設ける(出演者・制作者が互いに合意していたら契約締結後、すぐに撮影が可能)
    • 公表まで4ヶ月ルールの実質緩和(互いの同意があれば撮影して1週間後に公表が可能)

     現場の声を取り入れて、20歳以上の出演経験者には縛りを緩くし、新法施工以前のようなスピード感で撮影に臨めるようにするというもの。



     ただ、この改正案は国会に提出されたものの審議には至っていない。しかし今年10月の総選挙で自民と公明の与党が過半数割れを起こし、道が見えてきた。音喜多氏は「維新の会と国民民主党で連携しながら来年の通常国会での成立を狙っていく」と語った。







     また、「AV産業の適正化を考える会」顧問で政策アナリストの宇佐美典也氏からは、「勉強会を作り、超党派の議連を立ち上げたい」という計画があることも明かされた。





    ■出演者に渡るのは雀の涙…「二次使用問題」も議論を





     今回のシンポジウムでは、「フリー女優連盟」共同発起人で元AV女優のかさいあみ氏からAV業界が長く抱えている問題も提起された。



     それは「二次使用問題」である。



     AVにはいわゆる「オムニバス作品」が数多く存在している。AV新法が制定された2023年6月以降はオムニバス作品についても個別に契約を結び、使用料の支払いが義務化された。それ以前は女優の許可を得ずに販売をしたり、そもそも二次使用料の支払いがされていない例も多かった。この点についてはAV新法のおかげで女優の権利が保護される仕組みになったと言えるだろう



     しかし、二次使用料の金額はとても低い。現行はAVANというAV人権倫理機構の外局団体がその金額を1作品(120分)あたり3万円と設定しており、その3万円から出演者に等分される仕組みだ。そうすると一人に回ってくるのは、2000円から3000円程度となっているという。



     しかもAV新法の制定前の作品については義務規定がないため、野放しになっている。8年も前の作品を使ってオムニバスを作っているメーカーもあるという。



     また、AV新法で規定されている「出演者」には男優も含まれるが、彼らには二次使用料は支払われないそうだ。



     AV新法の附則の第二条には、法律施行前に締結された契約については新法は適用されないとの記載がある。

    この第二条は書き方が曖昧なため、各メーカーに都合の良いように解釈されてしまう。かさい氏は、結果的にこの第二条の存在が、出演者の権利侵害につながる恐れがあると指摘した。



     こうした法解釈にしてもそうだが、今の業界ではなかなか女優や男優から自分で情報を取りに行くのは難しい環境だ。メーカーとAV事務所に縛られ、移籍や独立も簡単ではない。時にやりたくない仕事も呑まねばならず、弱い存在だ。



     現場で起きていることを踏まえ、女優、男優に関わらず出演者の権利を保護するため仕組みづくりや、法改正も含めた議論が必要だと訴えた。



     また、前回のシンポジウムでも指摘された憲法で保障されている「職業の自由」「職業選択の自由」「営業の自由」「表現の自由」の侵害についても指摘があった。





    ■シンポジウムに参加した国会議員と現役AV女優の声

     今回のシンポジウムに参加した現職の国会議員は先に登壇した玉木議員を入れて6名。



     表現の自由を守る活動を積極的に行っている、立憲民主党・川田龍平参議院議員は、「AV新法は見直す必要がある」「放置するのではなく、改善するべく頑張る」と訴えた。







     日本維新の会の伊東信久議員は、「法律の目的が素晴らしくても、現場に即していなければ意味がない。今後も現場の方々と議論を重ねていきたい」と語った。







     
      れいわ新選組の八幡愛議員は、「何かを決めるときというのは、やはり現場の声を一番聞くことがいいと思っております。

    私自身、グラビアアイドルをやっていました。そういった立場から表現の自由をしっかりと守っていきたいと思っています」と語った。







     今回も現役のAV女優が参加。自らの思いを語ってくれた。



     佐々木咲和(ささきさわ)氏のコメントは以下の通り。







    「2012年にデビューしました。でも、新法の影響で仕事がなくなってしまい、AV女優でいるために他の仕事を頑張っています。ぜひ改善してください。よろしくお願いします」



     水谷理明日(みずたにりあす)氏のコメント。







    「このシンポジウムは、AV新法の問題について包括的に色んな観点から説明してくれると聞いて、今日ここに来ました。演者個人としてAV新法の問題はわかっていましたが、違う視点からの問題点はすごく勉強になりました」



     さらに急遽参加した元AV女優・金苗希実氏もコメントをしてくれた。



    「現在は写真集メインで、女優は引退しています。

    (女優を)辞めようと思ったのはAV新法も関係しています。この法律は出演者を守る点はいいのですが、契約関係など改善してほしい部分がある」







     最後に主催者である二村ヒトシ氏が「今回、立憲民主党の川田龍平議員とれいわ新選組の八幡愛議員が参加してくれた意義は大きい」とコメント。改正に向け、党派やイデオロギーを越えた結集に期待を寄せていた。



     「AV産業の適正化を考える会」は水面下で様々な議員に陳情を続けてきた。当初から協力的だったのは日本維新の会と国民民主党である。今回、議員会館でシンポジウムが開けたのも彼らの尽力が大きい。それに加えて他の党からも協力する議員が出たことで、超党派の議連を結成する下準備が整いつつある。



     音喜多氏によると、2025年には勉強会を発足する予定となっているそうだ。その会が大きくなって、国会を動かす力になれば改正ができるだろう。



    取材・文:篁五郎

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