ワーキングメモリ不足で仕事や勉強に集中できない人に。「パズル...の画像はこちら >>



ドーパミンの放出量が多い人ほど、新しい刺激を求めやすい——。では、なぜパチンコやゲームには没頭できるのに、大事な仕事は集中できないのか。

脳科学者・中野信子氏の著書『脳はどこまでコントロールできるか?』(ベスト新書)では、パズルを使った意外な「脳の切り替え方」を提案する。超お手軽、読者のみなさんもレッツトライ。



■パチンコは時間を忘れ熱中するが…

 ギャンブル好き……とまではいかなくても、人間というのは脳からして、新しいものや刺激が好きで、どうしても落ち着いてひとつのことに取り組んだり、集中したりするのが苦手。個人差はありますが、やはり人間の脳は生まれつき、そうできているので、これは仕方のないことでもあるのです。



 でも、ゲームなら何時間でも続けられるのに、試験勉強はぜんぜん続かない。あるいは、パチンコなら何時間でも集中できるのに、仕事はなんだか身が入らない。どうでもいいことはやれるのに、やらないといけないことが続かない。そういう経験は、誰しもが持っているものではないでしょうか。



 私の周囲の人たちを見てみると、やっぱり学者としてすごいなと感じる人は、論文を読んだり新しい知識を自分のなかに取り込むことが大好き。そのことで大きな喜びを得られるから、何時間でも勉強できるのだな、と思います。



 こういう人たちにとっては、研究や勉強のなかに、ゲームやギャンブルと同じか、あるいはそれ以上の喜びがあるのです。



 たとえば、受験勉強だって、ゲームとほとんど同じことをやっているとも言えるのです。

ハイスコアを獲得してランキングを上げるという構造を考えてみたら、まったく変わらないと言えるのではないでしょうか。



 しかし、ギャンブルやゲームと勉強が一緒、と理屈ではわかっても、なかなか自分に言い聞かせるのは難しいもの。そう簡単には、上手くいかないですよね。



 何かに集中したくても、どうしてもほかの誘惑に目がいってしまう……。そんなときは、次の方法を応用してみるとよいかもしれません。





■「アナグラム」で頭スッキリ

 ウェスタン・ワシントン大学のハイマンという心理学者が提唱している、ワーキングメモリ(作業記憶領域)を仕事に振り分けるための、おまじないのようなものです。



 ハイマンが唱えたのは、



「頭のなかに音楽が鳴り続けて消えなくて落ち着かない場合は、適度な難易度のパズルをやるとよい」



 という提案です。



 こうすると脳の作業領域をパズルに使うため、音楽の鳴る余地を圧迫するので、音楽が消えてくれる、という理屈です。



 物事に集中するには、頭のなかの作業領域(ワーキングメモリ)」をそのタスクのために確保しなければなりません。すると、ハイマンの方法を使うと、頭になんだかもやもやと残ってしまうゲームのことや、食べ物のこと、集中を乱す誘惑を追いやってくれるのです。



 ハイマンは、パズルとしては、適切な難易度のアナグラム(ある単語の文字の順番を入れ替えて別の単語をつくる遊び)がよいとしています。



 日本語だと、たとえばタジャレを考えたり、さんずいのつく漢字を1分間にどれだけ思いつくか、のようなトライアルも有効でしょう。

数独を1題やってみる、というのもいいかもしれません。



 ただし、問題には条件があって、易しすぎても難しすぎてもダメなのです。易しすぎるとパズルに使う領域が小さすぎて、誘惑を追いやってくれるほどのパワーが足りない。難しすぎると、そもそものパズルに集中できません。その人の適度な難易度でやることが重要です。



 これは、何か作業を始める前に、机の上をきれいに片付けるように、脳の作業領域を片付ける、というイメージです。



「勉強を始める前の儀式」「何か作業を始める前のおまじない」として、自分の好みに合った、簡単なパズルやゲームを「頭のウォーミングアップ体操」として数問やってから、作業を始めるというのは、とても有効な方法になるでしょう。タスクに集中するための作業記憶領域を空けておくためにとても便利な方法です。



文:中野信子



『脳はどこまでコントロールできる?』より構成〉

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