2023年11月に、政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に記載していなかった疑いがあると告発状が提出され、発覚した自民党裏金事件。その中心にいたのは旧安倍派(清和政策研究会)であった。



特に、2022年7月の安倍晋三の死後、森喜朗が後継者として取り上げたことで派閥の中枢幹部と目されるようになった松野博一、西村康稔、萩生田光一、高木毅、世耕弘成は『安倍派五人衆』と呼ばれ、全容解明へのキーとなると言われてきた。しかし、彼らは政治倫理審査会に出席はするものの、肝心なところは「記憶がない」と答えるのみ。いつ、どこで、誰が、政治資金パーティーの売上を政治資金収支報告書へ不記載でいいと決めたのか未だにわからないままだ。



そんな彼らの態度に業を煮やした人達がいる。それが『安倍派五人衆』の一人だった世耕弘成が理事長を務める近畿大学の教職員組合だ。組合は世耕に対して理事長辞任を突きつけ、さらに組合員の一部は署名活動を続けている。



教職員組合が辞任要求をした理由及び、世耕の学内での影響力や振る舞いについて、近畿大学教職員組合書記長であり、文芸学部教授の藤巻和宏氏に話を聞いてきた。





■裏金事件発覚後、教職員組合が辞任を要求

ーー本日はよろしくお願いします。



藤巻和宏近畿大学教職員組合書記長(以下:藤巻):こちらこそよろしくお願いします。



——早速ですが、世耕理事長へ辞任要求をしたのは例の裏金事件が原因ですか。



藤巻 はい。我々教職員組合が辞任を要求したのは事件が発覚してすぐです。

あの時、世耕さんは裏金問題に自身がどう関わっていたのかについて、「けじめがついて節目があれば説明責任を果たしたい」と述べるのみでした。



 しかし不起訴になったら、責任は全部秘書に押し付けて「私は起訴の対象にならなかった。法的な責任については一つの区切りがついたと思う。政治的、道義的責任は痛感している」なんて言い出す。



 世耕さんは、全容解明をする立場です。それを他人事みたいに言うなんて、政治家としてだけではなく、大学理事長としても相応しくないと判断して辞任を求めました。



——経営側の反応はどうだったのでしょうか。



藤巻 完全に無視です。2023年12月に辞任要求をしたのですが、「経営マターであり、労働条件に関わるものではない」と言って交渉を拒否されました。だったらと、翌年1月に「労働条件にも関わる」という理由を詳しく書いて再提出をしたんです。それでも同じ理由をこじつけて、交渉になりませんでした。



 なぜかと言いますと、経営側はみな世耕さんを殿様のように扱っているからです。

世耕さんを怒らせるような要求は跳ねつけてしまうのが現状です。



 個人が何かを訴えても理事会からは相手にされませんが、労働組合が団体交渉を申し入れれば、本来は無視できないはずなんです。でも、この件についてはまともに取り合ってもらえない。では、広く社会に訴えようということで、組合のXでこの問題をポストしたところ、いくつものTV局や新聞、ネットメディアから反応があったんです。



 それでニュース記事にしてもらいましたけど、経営側の対応は変わりませんでした。



——経営側はなんて言っていたのでしょうか。



藤巻 無視です。世耕さんにとっては屁でもなかったのか、組合としてできることはやったけど全く動かない。それで、オンライン署名をやってみようと考えました。



 ただ、オンライン署名は労働組合の目的とも違うし、難色を示す組合員もいました。一方で、非組合員の中にも辞任を求める声もあった。そこで、私ともう一人の組合員有志代表として名前を出して、署名をスタートしました。



——オンラインで辞任要求の署名の反響はありましたでしょうか。



藤巻 ありました。昨年の3月末にはじめて、5月末までに5万3851筆も集まったんです。でも、経営側は受け取り拒否です。マスコミの取材に対してもコメント拒否なので、触れられたくないのでしょう。





■世耕一族の大学支配と横行する「コネ人事」





——世耕理事長は学内での影響力は大きいのでしょうか。



藤巻 創設者の孫ですから絶大です。私は2011年に近畿大学へ移ってきたのですが、当時は世耕さんの父親が理事長だったんです。その頃も今も世耕一族が、大学経営の中枢にいるので、逆らうなんてとんでもないって空気がありますね。



 特に長く勤務している人ほど、世耕一族には逆らえないと思っているところがあります。



——世耕弘成さんが学内で自分の影響力を誇示するようなことはありましたでしょうか。



藤巻 2012年の新年会で、当時は民主党政権でしたが、世耕さんが「政権奪還のために今年こそ自民党は頑張りますよ」みたいなことを言ったんです。

大学の新年会って学内の行事なので、政治的中立性を守らないとダメじゃないですか。それを平気で破る。世耕派の教職員たちは拍手喝采ですよ。



「とんでもないところにきたなあ」って思いましたね。



——他にもそうした出来事はありますか。



藤巻 あります。2014年の9月に当時の文芸学部長から、「文芸学部である人を特別枠で採用しなければならない。これは『世耕人事』だから、断ることはできない」と言われたんです。



 その方は研究者ではあるのですが、過去5年間で論文ゼロと業績が芳しくありません。また、その人の専門分野も学部で必要とされていなかったので、最初に受け入れを求められたA学科は拒否しました。困った学部長は、B学科、C学科と打診しましたが、結局、どの学科も難色を示しました。それでも学部長はこのコネ人事を強引に進めようとしているので、私は組合に相談しました。



 すると、学部長が会議で組合批判を始めたんです。しかも彼は、この人事に反対した教員に対して恫喝までしています。



 結局、ここまで騒ぎが大きくなったからには文芸学部では受け入れられないということで、学内の某研究所に無理やりポストを作り、そこで受け入れが決定したのですが、その時も私は学部長から脅されましたよ。



——どうしてそんなひどい目にあったのでしょうか。



藤巻 私が、「研究所で採用してから、すぐに文芸学部に異動させるのではないか」「異動させないことを法人に約束してくれ」と会議で求めたりして、目障りだったのでしょう。学部長は世耕派でしたからね。



 恫喝された件は、大阪府労働委員会に不当労働行為救済申立をして、2018年に不当労働行為として認定されています(※1)。



——世耕理事長肝入りの研究者は、これだけ揉めたのに近畿大学へ入ったのですか。



藤巻 2015年4月に、学内の某研究所に着任しています。今もそこにいますね。



——よく残っていますね。



藤巻 世耕案件だからでしょうね。

理事長に近ければ良い待遇を受けられます。



 文芸学部には、ある俳優が客員教授で在籍しているのですが、これも理事長人事だと思います。その俳優は世耕さんの高校の先輩だったそうですから。



 ところが、その人のいるA学科のカリキュラムには彼は必要ではなかったんです



 なので、学科の教員たちは困り果てて、経営側と交渉して、ようやく文芸学部のどの学科にも属さない客員教授という形で落ち着いてもらいました。



——いくら有名な俳優さんでも、いらない人が来られたら困りますね。



藤巻 おっしゃる通りです。こうしたお友達人事は他の学部でもあるみたいです。



——他にはどんな人がいるのですか。



藤巻 かつては経済学部に高市早苗さんがいましたが、現在在籍しているある国会議員も、おそらくお友達人事ではないかなと思います。その人はずっと経済学部で客員教授をしていますけど、いつまで経っても定年退職しないんです。



 近畿大学は、定年規程で、教員の定年を66歳と定めています。でも、その議員は72歳ですよ。それなのにまだ客員教授なんです。



——それは大学の規程違反ではないのですか。



藤巻 違反ですね。定年規程では、専任教員の場合、一定の条件で定年を延長することが可能となっています。でも、客員教員規程には定年延長の定めがないんですよ。なので、その国会議員が今でも客員教授を続けることは、ルール上できないはずなんですけどね。



——学内で問題視する人はいないのですか。



藤巻 こういうことを放置すればガバナンスが崩壊してしまうので、本当は強く反対するべきだと思います。でも、この種の「特別待遇」は他にも多々あるので、全部を取り上げていたらキリがないんです。その客員教授について言えば、年に1~2回講演しに来るだけなので、それほど問題視しなくてもいいかなと(笑)。



※1:近畿大学は、藤巻和宏教授への恫喝が大阪府労働委員会に不当労働行為認定されたことを皮切りに2024年まで6件も不当労働行為の認定が続いている。
(1)2016年2月23日申立 学部長による支配介入 府労委で救済命令(2018年1月29日)、中労委で和解(2019年1月29日)
(2)2017年6月12日申立 団交拒否・組合間差別 府労委で救済命令(2020年6月30日)
(3)2017年10月25日申立 分会交渉拒否・掲示板撤去 府労委で救済命令(2019年11月30日)
(4)2019年7月9日申立 団交拒否・夏期手当不支給通告 (5)と併合し府労委で救済命令(2022年5月16日)
(5)2019年9月17日申立 入試手当不支給通告・組合ニュース廃棄 (4)と併合し府労委で救済命令(同上)
(6)2021年9月14日申立 過半数代表者選挙への介入・和解条項違反・団交拒否 府労委で救済命令(2024年1月12日)





■形骸化した公益通報窓口の実態

——世耕理事長の横槍人事は現場の職員さん達にとってハラスメントにならないのですか。



藤巻 私もそう思います。しかし、情けないことに、この大学は公益通報窓口が機能していないんです。



——どういうことですか。



藤巻 近畿大学には監査室法人倫理推進課という、ハラスメント申し立てや、研究不正の調査、公益通報の窓口となる部署があるのですが、そこが経営側や管理職の味方ばかりして、まともに調査をしないので、申し立てた人たちは泣き寝入りするしかない状況なんです。







 監査室には、世耕さんと近い職員が結構いるのか、経営側に配慮しているなんて言われていますよ。



 どれくらいひどいかというと、例えば、ハラスメント調査に際し、本来、調査員以外が知るはずのない情報が相手方に漏れたり、調査結果に対する不服申立書を、勝手に相手方に手渡したり。さらに、ある学部で行われていた組織的な著作権侵害を通報したところ、侵害は認定されたものの、誰も処分を受けず、その事実も公開されずに隠蔽されています。その上、通報者は嫌がらせを受けました。



——それはひどい……



藤巻 まだあります。2024年の総選挙で、世耕さんが理事長職にありながら近大を自身の政治活動に利用することを繰り返してきたとして、組合が公益通報したんです。



 彼は、10月14日に出馬表明した時、Xで【表明】と題してこう投稿したんです。



〈安倍さんは生前最後の大学でのスピーチでこう述べていました。「私は第1次安倍政権を途中で放り出して安倍晋三は政治家として終わったと言われていた。でもそこから5年かけて総理大臣の座に返り咲くことができた。それは、自分が特別に優れた人間だったからではない。特別に強い人間だったからでもない。ただ一つ諦めなかったからです。」(中略)私も決して諦めていません。今回の選挙は、私は退路を断っての選挙ですが全力で頑張ってまいります〉



 しかも、近大卒業式で故・安倍晋三氏がスピーチしたことなどを写真つきで投稿したんですよ。明らかに大学の私物化であり政治利用です。だから「教育の政治的中立」を定めた教育基本法14条2項の〈法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない〉に反する疑いがあるとして公益通報したんです。



 教育基本法は、公益通報者保護法の対象ではありませんが、学内の公益通報規程はそれよりも範囲が広いので、調査くらいはしてくれるだろうと期待して。しかし完全に無視されました。不受理として、調査すらしていません。



——世耕理事長のやりたい放題を学生は知っているのでしょうか。



藤巻 こうした実態を知る以前に、世耕さんが理事長だというのを知らない学生の方が多いかもしれないですね。昨年世耕さんが自民党を離党したのが4月4日。その2日後に近畿大学で入学式があったんですが、マスコミが詰め掛けまして、その時にインタビューに答え、「世耕さんが理事長だと初めて知った」という学生もいました。一方で、世耕独裁体制を批判する学生もいますが、大部分は無関心だと思います。



 そういう状況ですから、安倍(晋三)さんを大学の卒業式に呼ぶことや、それを選挙に利用することは不適切な政治利用だと認識されにくいのかもしれません。



——世耕理事長による大学の政治利用は他にもあるのですか。



藤巻 あります。教職員組合に、〈近大に和歌山出身の職員が多いのは、選挙の時に手伝うことが暗黙の了解になっている〉〈和歌山出身の職員は、選挙の時には一週間ほど有休を取り、世耕の選挙事務所を手伝う〉という匿名の通報が来ているんです。



我々組合は、大学の経営側に実態調査を求めてきましたが、『把握していません』の一点張りです。





■藤巻氏が大学から受けた“嫌がらせ”とは

——近畿大学の教職員で世耕さんに忖度して不法行為のようなことをしている事例はありますでしょうか。



藤巻 不法行為とまで言えるかどうかわかりませんが、嫌がらせのようなマネはあります。大学の広報室は、私宛にきた取材依頼を勝手に断っている可能性があります。今回取材をお受けできたのは、篁さんが私に直接連絡してくれたからです。



 私以外に同じ目に遭った教員は他にもいるらしいです。もう退職されましたが、原子力研究所に在籍していた教員が、2011年に福島第一原発で事故が起きてから原発について批判的なことを言っていたそうです。それを世耕さんが嫌がるかもしれないと思って取材を勝手に断った……、なんて話を聞きました。



——それは言論統制じゃないですか。



藤巻 おっしゃる通りです。でも、こういうことが平然と行われています。近畿大学では教員がメディアの取材を受けて記事やTV番組に出ると大学や学部の公式サイトで紹介をするんですけど、私のは一切取り上げてくれません。



 広報室に聞くと、「理由は述べません」なんて返事がきました。



——ちょっとあり得ない回答なんですけど…… 



藤巻 でも、本当なんです。私は学部の広報委員でもあるので、学部の公式サイトにログインして、自分の裁量で教員や学生の活動を紹介できる立場なんですが、いきなりログインパスワードを変えられてアクセスできなくなりました。



 流石に頭に来て、「これは言論統制じゃないのか」と言ったんです。そうしたらなんて返ってきたと思いますか。







——ちょっと想像つかないですね。



藤巻 「藤巻先生が大学の外で、自由に発言するのは止めていません。ただ、大学の公式サイトは大学の資産なので、掲載する基準は私たちが決めます」ですよ。



——何を言っているのかわかりません……



藤巻 ですよね。だから「では、その基準を示してください」と要求したら、大学の顧問弁護士が出てきて、「基準はありますが、文字化することができません」です。びっくりするようなことが次々と起きています。



 オンライン署名の記者会見の時も、おかしなことを言ってきましたね。最初大学でやるつもりでしたので「場所を借りたい」と申請したんです。中々返事がないので、確認したら「貸せません」と一言だけ。理由を聞いても「言えません」ですよ。



 しかも会見後に、「大学が会見会場を貸してくれなかった理由を教えてください」と聞いたら、顧問弁護士が「機密情報になるので、教えたとしても口外禁止です」とか言ってきました。



——どうしてそんなことをいってきたのでしょう。



藤巻 わかりません。弁護士が言うには「業務上知り得た情報」に当たるらしいのですが、そもそもオンライン署名の記者会見は、大学の業務ではありませんよね。とにかく、何らかの理由を付けて、世耕さんが嫌がることをする人を排除したいのでしょう。



——他にも何か驚くような出来事はありますでしょうか。



藤巻 近畿大学では「建学の精神」を学生に教える授業があるのですが、教材用の動画に世耕さんが出てきて建学精神を説明します。副学長が世耕さんにお願いしたらしいんです。



 ちなみに建学の精神って、「実学教育」と「人格の陶冶」です。 この精神を具体的に実践するために「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人の育成」を教育理念に掲げているんですけど、それを裏金議員の世耕さんが説くんですよ。笑い話もいいところです。



 流石に副学長も、裏金報道を知って「頭を抱えた」と言っていました。裏金問題が発覚する前にお願いしてたから、それは同情しますね(笑)。





■創立100周年記念募金をしている場合ではない

——もし世耕さんが理事長を辞任したら大学は変わると思いますか。



藤巻 正直言いまして、そんなに変わらないと思います。今、世耕弘成さんの弟が経営戦略本部長の役職に就いていますし、近大は代々世耕家が牛耳ってきた大学です。何かしらの形で世耕弘成さんの影響は残るでしょう。経産大臣時代に一時的に理事長職を離れていましたが、影響力はずっとありましたから。







 でも、自分の政治資金の精査もまともにできない、責任を取らずに、口だけはご立派なことを言う人をいつまでも理事長にしておくのは近畿大学の恥です。



 もし彼が理事長を辞めたら、影響力が残ったとしても、それなりのインパクトがあると思います。



——世耕さんに何かメッセージがあればお聞かせいただけますでしょうか。



藤巻 あなた(世耕弘成)は、全教職員向けのメッセージでこう言いましたよね。



「私が会議に出ると誰も発言しない。しかし遠慮せずにどんどん発言してほしい」



 だったら私たち組合員の会議や団体交渉に出席してください。言いたいことは山ほどありますので、是非参加して我々の声に耳を傾けてください。



 公益通報が機能していないことや、不当労働行為・労基法違反がこれだけおきている。世耕さんが全部承知しているのかはわかりません。しかし、あなたは理事長なんですから経営側が起こした問題を把握して、解決する義務があるんです。



 現在、近畿大学創立100周年記念募金を行っていますけど、理事長が裏金問題を抱えている中で、目標額の100億円が集まるとお考えなのですか。教職員やOBに募金のお願いをする前に、自分が起こした裏金問題の全容解明をしてください。



 お金の管理ができない人を、理事長にしておくなんて通常ではあり得ません。早く自らの出処進退をわきまえてください。



——本日はお忙しいところありがとうございました。



今回の記事配信にあたり、公平性の観点から、世耕弘成議員の事務所に2月15日取材依頼のメールを送信している。残念ながら期日まで返答がなかったため、教職員組合一方の取材から構成している。もし「公平じゃない。世耕議員にも話を聞け」というご意見をお持ちの方は、是非とも世耕弘成衆議院議員に「BESTTiMES」の取材を受けるようお伝えいただけると幸いである。



取材・文:篁五郎

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