シリーズでお届けしている、AV女優兼作家の紗倉まなさんと、元AV女優で文筆家の神野藍さんの対談。
神野さんのエッセイ集『私をほどく AV女優「渡辺まお」回顧録』(KKベストセラーズ)から、2人の5年越しの縁について語った第1回。
◾️犬がいると社会性が身につくんだな
神野藍(以下、神野)「『犬と厄年』を読んで、犬との生活が、自分と感じてることが同じだなって。私も、デビューしたちょっと後くらいから犬を飼ってて、もう5年ぐらい一緒にいるんですけど、犬がいるから自分が生かされてる感覚がすごく強くて。犬を“飼ってる”っていうのがおこがましいぐらい、犬がいるから自分の生活が回ってるなっていう感覚がすごいあって」
紗倉まな(以下、紗倉)「わかる~」

神野「犬がいるから生活をちゃんとしなきゃいけないし、ちゃんと健康でいなきゃいけない、ちゃんと仕事しないと、みたいな。それこそ落ち込んだ時とかでも、犬を見るだけで『ちゃんと人間やらないと』って思うので。『犬と厄年』の最後の章「生活の灯火」で、あ、同じこと考えてらっしゃるなって思いました」
紗倉「営みの枠を作ってくれてる感じがしますよね」
神野「犬がいるからまともでいられるなって瞬間があります」
紗倉「うんうん。パートナーとはまた違うじゃないですか。ある意味で、いつでも切り捨てていい、って言ったらあれですけど。人間は自分の思いを言葉で伝えることができるフェアな立場だから、いつでもこちらから「さよなら」をすることも、切り捨てることもできる。でもそうではない、自分がいなければこの子が生きていくことはできない、そういう責任を持たせてくれていることにも感謝と喜びを感じるし、何より、本当に本当に本当に可愛いですからね……」

神野「この子を守らないとっていう意識は強くあります。あと、犬がいるから生活が変わるっていうのをすごく感じたなと思って。それこそ私も、ドッグランとか行くの超緊張してましたから(笑)」
紗倉「あ~、ドッグランのことも書きましたね(笑)」
神野「散歩する時とかも、私、犬がいると社会性身につくんだな~って。
紗倉「わかります。巻き込まれますよねー。おばちゃんが自転車をキーッて停めて、『可愛い~!』って言って、そこから怒涛の質問攻めを受けて(笑)」
神野「『何くん~?』とか聞いてきて、嵐のように去っていく(笑)」
紗倉「めっちゃわかります。あと散歩の途中で犬に会って、向こうだけ覚えていてこちらがうろ覚えであると気まずい、みたいなのもありますよね……。年齢も性別も全部聞いたはずなのに全部忘れた~(笑)って。そういうコミュニケーションというか、一つのコミュニティに、ゆるやかにだけど足を踏み入れている感じ……」

神野「入るっていうことが、犬がいるからできたなって。上京してから一人暮らしを続けていて、東京って地域のコミュニティに入らなくても生活が成り立ってたので。犬っていう存在がいるからこそ、溶け込めるようになったなって」
(BT編集部「ペットの中でも、犬を選んだのはどうしてですか?」)
神野「私は、実家で犬を飼ってたからですね。でも実家の犬のイメージは、ペットじゃなくて番犬で。外飼いで、犬種もシェパードだったので。インターホンの役割をしてたんですよ(笑)」
紗倉「えらいなあ」
神野「動物として可愛がってはいるけれど、自分も学校で忙しくて、あんまり接する機会がなくて。今の犬を飼って、『犬と暮らす』っていうことを初めて体験しているかもしれないです」

◾️優先順位は、恋人よりも断然「犬」
紗倉さんは、10代の頃、両親の離婚によって愛犬を手放さざるを得なくなったという“挫折体験”を『犬と厄年』に書いている。
紗倉「私は一人っ子で、両親が共働きで鍵っ子で、学校から帰ってきてずっとひとりで勉強している、という生活でした。ずっと犬との生活に憧れてて、親としても娘を一人にさせている後ろめたさがあったのか、ある日、犬を家に迎え入れてくれて。でも最終的には親が離婚して、住むところもペット不可の物件を母が選んできて、激しい口論になって泣いて泣いて、泣きまくって。仕方がないことだけど、全く仕方なくないじゃないですか。その時の出来事と罪悪感とやるせなさが強く残っていて。懺悔の気持ちでこのエッセイを書いたところもあるくらいに。犬と一緒に過ごしたいけどそういった過去もあったから、一生犬との共生は難しいのかなと思っていたんですけど。30代に入って仕事も生活も安定し始めたこと、実家にいた犬は他の家庭で過ごしていたんですけど、その子が亡くなったっていう報せを聞いたことで、少しずつ意識が変わっていったというか。意識と生活の変化の重ね合わせで、保護犬の譲渡会にたどり着いて。でも審査は落とされると思っていました。行った瞬間大家族しかいなかったので……」

神野「ああいうのって、誰かが絶対に家にいなきゃいけないとか、カップルじゃダメとか、けっこう厳しいじゃないですか。譲渡会の書類って、どんなふうに書いたんですか?」
紗倉「自分のことを包み隠さず書くわけです、年収だったり職業だったり。
神野「あははは(笑)」
紗倉「期待してないわりにはいろいろ補足して(笑)。でも、まあ無理だなぁと思っていたら、すぐに連絡が返ってきて。本当に驚きました。巡り合わせですね。でも、私も猫と暮らすっていう考えはなかったなぁ。好きなんですけどね。
(BT編集部「変な質問かもですが、犬と人だったらどっちが好きですか?」)
紗倉「犬です!」
神野「犬ですね~。犬は裏切らない。犬ほど愛してくれる存在っていないんじゃないかって思います」

紗倉「犬ほど人の気持ちの機微を感じ取れる生き物もいないな」
神野「鏡みたいなんですよね。自分が切羽詰まってると、犬も体調悪くなるんですよ。人間より近いなって思っちゃいます」
紗倉「それすごくわかるなぁ。なんですかね、言葉で交わし合わないからこそ、より本能的に自分のことを察知してる感じもするし。具合が悪い時も気分が沈んでいる時もすぐに察してピタってお尻をくっつけてきてくれて、ありがとうなぁ……! って」

神野「恋愛のうえでも、犬にどう触れ合ってくれるかをめっちゃ見ちゃいますね」
紗倉「それで破談になった話、けっこう知人から聞きます。犬に厳しくて嫌いになりましたとか、犬に対して雑で、とか」
神野「相手が『犬だからいいじゃん』とか言い始めると『お前のほうがどうでもいいよ』みたいな(笑)」

紗倉「そりゃそうだ(笑)だからパートナーに言いたいのは、ごめんなんだけど、この家の中で一番尊くて偉いのはお犬様なんだわ……っていうこと。」
次回は、2人の対照的な「家族」のエピソードをお届けする。

構成・文:BEST T!MES編集部