ブラックマヨネーズ吉田敬がその“黒さ”を筆にのせ、猛毒を吐く新刊エッセイ『黒いマヨネーズ』が話題だ。鋭い社会への提言あり。
どうしようもない人間への愛あり。激しい自己嫌悪あり。とかく世知辛い世を生きる現代人は共感しきりの内容なのだ。インタビューを前後編でお届けする。電車に飛び込みそうになるぐらい病んでいたときに思い出したおばあちゃんの優しさ。<後編>■おばあちゃんからもらった優しさ

――この本の中で3つ選べと言われたら、奥様のニンテンドースイッチの話、お父さんのギャンブルの話、あと冒頭のおばあさんの話と、全部“家族”にまつわるもの。とくにおばあさんのところの一節で「僕の中にあるわずかであるがきっと枯れることのない優しい部分はおばあちゃんがくれた」という一文にぐっときました。冒頭にこのお話を持ってきた理由はなんだったんでしょう。

吉田 確か連載での第一話だったんです。最初はやっぱり自己紹介的なところからはじめようと。僕のルーツの話をすると、中1までばあちゃんとこにいました。だから「それ書いとかんとはじまらへんな俺」っていう部分だと思いますね。

――それぐらいおばあさんの存在は大きかった。

吉田 25、6ぐらいの時に、もー病んでたんですよ。売れへんし。周りは売れてくし。その時にふと「あ、ばあちゃんの墓参り俺行ってないな」と思って、行ったらポーンって軽くなった。そして「ああ、俺ってばあちゃんに愛されてたな」っていうの思い出したんです。当時、駅とかで電車待ってても、飛び込みそうになったりするぐらい。とにかく病んでたんですよ。でも墓参りに行って救われた。あの時にばあちゃんの墓参り行ってなかったら僕ヤバかったなと思います。

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――そんな過去があったのですね。本では一番最初にこのおばあさんのいい話がくるので、その後いくら吉田さんが黒いことを言っても共感しかないというか…

吉田 気持ちの順番として書いたらそうなったって感じですかね。

■「性的なことか?」

――本の最後の「クレジットカード」の回を読んでも思ったのですが、吉田さんの人間に対する優しいまなざしを感じました。人間ってどうしようもないけど、結局みんないい人なんじゃないかなって。

吉田 やっぱそれもばあちゃんですよね。子供の時のこんな思い出があるんです。その日ばあちゃんの横で寝てたんですけど、夜中パッと目が覚めた。そしたらばあちゃんが僕のマウントとって、まあ何て言うか、襲うかのような状態でいて。子供ながらに「性的なことか?」「欲求を、俺に?」とか一瞬思ったんです(笑)。そしたら、ばあちゃんの後ろの電球がめっちゃくちゃ揺れてたんですよ。地震だったんです。僕の上に乗って、落ちてきても僕に当たらへんようにしてくれたんです。

――ああ!安心しました(笑)。ただ吉田さんを守ってたんですね。

身をていして。

吉田 僕は寝てて、僕に優しいことしたとしても、僕が気付けへん可能性のほうが高い時に、ちゃんとこうやって上に乗って守ってるやんって。最初性的な想像をしてしまった自分がいたんですけど、やっぱそこ守ってくれてたっていう。そういう人の優しさをばあちゃんから学んでるんで。

■ビジネスマンよ大いに愚痴れ!

――他に「愚痴ることの大切さ」という回も刺さりました。今のビジネスマンって、本でもそうですし、ツイッターでもそうですし、各方面から「意識高く持とうぜ」みたいなアッパーなメッセージに囲まれている。で、その文脈の中で愚痴るのはダサいよみたいな風潮もあるんですけど。でもやっぱり飲み会で愚痴りたくなる時もある。だからすごく救われたんです。吉田さんは普段どういう風に愚痴られてますか? 

吉田 後輩、あと嫁には愚痴りますね。昔は僕と夜遅くまで酒付き合ってくれたんですけど、子どもが幼稚園とか行き出して弁当の用意とかもあるんで、今はもう早よ寝よるんですよ。早よ寝るから愚痴る相手もいないんです。

でも僕がリビングで飲んでる時に、たまに喉乾いて嫁が冷蔵庫までお茶飲みに来るんです。そしたらその瞬間にガーッと喋る。

――奥さまは寝れなくなりそうです(笑)。

吉田「それはアカンねえ」「それは番組がアカンねえ」「それは小杉さんがアカンねえ」とか言うてスーッって戻って行く(笑)。それで「ああ、ちょっとスッとしたな」っていうのがあるんでね。まあ嫁は寝ぼけてて聞いてないと思いますけどね。でも助かってます。

――今一番の愚痴り先は奥さんということでしょうか。

吉田 そうですね。まあ愚痴るのはアカンのや、っていうのは僕ちょっと納得いかないんで。愚痴って「ああ、なんか楽になったな」って絶対にあるじゃないですか。ただ、逆に愚痴ってもいいんだよ、ってやるとそれはそれで僕じゃないんで、屁をのせてしまうんですけど(笑)。

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 ■『黒いマヨネーズ』の味わい方

――読者の方に『黒いマヨネーズ』をどう読んでほしいですか。盛りだくさんなので、いっぺんに読まないほうが楽しめる気もします。

吉田 そうなんですよ。一度ツイッターで読者から「面白かったんで大阪~東京で一気に読み終わりました」という感想をもらったことがあって。向こうは良かれと思って言ってくれてるんですけど、「伝わってるかな?」っていう気持ちもありますね。

――そんな3時間ぐらいで読めるような本じゃないぞと。

吉田 はい。「もうちょっと味すんねんけどな~」みたいなね。懐石料理やないですけど。急いで食おう思たら30分で食えるけど、ちょっとこの山芋のやつとか、結構凝った味付けしてんねんけどなぁみたいな。

――なるほど。最後になにか具体的な読み方のヒントを教えてくれませんか。

吉田 僕は読んだあと、これ章って言うんですか? 題って言うんですか? 1テーマ(回)読み終わったあと、こうなりますけどね――(吉田、目をつぶり険しい表情になる。眉間にしわがよる。なにか修行僧の表情にも見える)

――(笑)。

吉田 いったん閉じて、頭の中で味わうというか。一旦その話、味わって飲みこんで、また次の話に行ってほしいなというのはありますけどね。

――斬新です。今回はありがとうございました!

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