


トークはゲスト二人と坂田さんとの関係から始まりました。早川さんが運営するマゴソスクールは、スラム街の孤児や浮浪児たちを助け、未来への希望を作る場所。「ミギーちゃんは旅の途中でそこに立ち寄ってくれたんです」と早川さん。
吉田さんは坂田さんの著書『旅がなければ死んでいた』の前身となる坂田さんの世界一周ブログ『世界を旅するラブレター』を読み、ご自身が編集長を務める同人誌『オカルトスポットマガジン 怪処』に「こんなすごい旅をしている人がいるんだと、ツバつける意味でご依頼して記事を書いてもらいました」と話します。
ということでまずは坂田さんのキテレツ旅話。ペルーのサンフランシスコ村で、シャーマンの導きによって「アヤワスカ」を体験する儀式に参加したエピソードが語られます。アヤワスカはLSDの100倍ぶっ飛ぶと言われている幻覚植物。と書くとやばそうですが、合法(の、はず)なのでセーフ。
吉田さんによれば「アヤワスカの儀式はオカルティックなカルチャー、霊性文化の最右翼」だそうで、「もっとライトなオカルトなんていくらでもあるし、普通にスピリチュアルカウンセリングとか行けばいいのに、坂田さんはいきなりそっちにいっちゃった」と驚いたそう。
しかしすでに体験済みの坂田さんは「アヤワスカは科学的に合成されたものではなく、植物の名前です。これを叩いて繊維状にして、チャクルーナという緑の葉を一緒に煮て出来ます」と淡々と解説。
続いて映し出したスライドは、透明のペットボトルに入れられたドロドロの茶色い液体。
「私が行った場所は儀式用の建物の中に一人一つずつ洗面器が用意されていました。まずみんな最初に一杯ずつアヤワスカを飲んで、気持ち悪くなって吐く。そのための洗面器。吐いてからが本番です」

飲んでからの状況は人によって違うと坂田さん。「エクソシストみたいにウエーってなってる人、シャーマンを食い殺すかのような動きをする人、号泣してる人、ずっと吐いてる人、立ったり座ったりを繰り返す人もいて、ものすごい空間でした。そういう大変な人のところにシャーマンが行って、それぞれの状態にあわせたイカロという歌を歌うと、収まるんです」
前後不覚どころじゃない状況に陥るわけですが、坂田さんはなぜそれを冷静に観察できているのかといえば、「全然効かなかったんですよ」とのこと。が、そのために以降、飲まされる量がどんどん増えてしまったという坂田さん。
吉田さんによれば、それは「精神的に一回死ぬ体験。そこから戻ってくる、再生するイニシエーションのようなもの」だそうで、坂田さんも「生まれ変わるような感覚がありました。言葉で形容しづらいんだけど、次の日に起きたら、生きてて良かったと思えるようになりました」と話しました。

続いては、吉田さんが取材したオカルト体験談。なのですが、ちょっといろいろな事情によりお蔵入りとなってしまったとのこと。取材したのは「悪魔憑き」。そのような現象があった場合、悪魔が実在するという考え方もあるし、精神的な病と捉えることもできる、オカルトか近代科学かは視点の違いである、と言える、と吉田さんは解説。素材がお蔵入りとなってしまった取材先では「悪魔の存在についての文化的土壌があったため、悪魔憑きを伝統的な悪魔祓いの儀式で対処できましたが、日本では医者に連れて行った方が効果的だと思います」とのことでした。


とはいうものの日本が完全に近代医学的、近代科学的なもの一辺倒というわけでもなく、「青森や沖縄では狐憑きを祓う神様やユタといった方々が今もいます」と吉田さん。「文化の土壌としてそうしたものが残っており、同じ文化を有する人たちにとって精神的な治療として機能しています」
すると早川さんが、「太鼓の音やシャンシャンという鳴り物とかって、アフリカの村でも同じ。
吉田さんはこれに「文化の土壌が違うはずなのに、イカロも青森の霊能者も、節回しが確かに似ています」と回答。「このリズムで意識を変性させての蘇り、本当の意味のリフレッシュが行われます。そういう治療を人類はずっと行ってきました。こうした儀式が、治療として機能しているのは確かです」と、儀式の有効性を語ったところで一旦休憩となりました。


後半はケニア在住31年の早川さんの話から。「私が家族ぐるみで交流のあるドゥルマ民族の一家もシャーマンの一族です。ケニアではシャーマンのことをムガンガというんですが、その家族は長老も奥さんも、お父さんもお母さんもムガンガ。生まれてくる子どもたちも小さい頃からいろんなものが見えたり聞こえたりするんです」
一族揃ってムガンガの彼らにとって、世界はどのようなものなのでしょうか。「ドゥルマ民族の人たちは普段、畑を耕して自給自足型の暮らしをしています。それは海や大地、自然とともにある。
また、大勢いるムガンガにはそれぞれ異なる役割があるそうです。「誰かが原因不明の病気になったとしますよね。するとある精霊がムガンガの誰かのところに降りてきて、どの薬草を使ったいいのか教えてくれる。あるいは心の病を負った人がいたら、別のムガンガが対応したり」
こうした時にもしばしば、独特なリズムと踊りを用いた儀式が繰り広げられます。「精霊に合わせたリズムがあるんです。時には四日四晩ノンストップで、普段は腰が痛いとか言ってるおじいちゃんたちが踊り続けたり」
なかなかにすごい光景が想像されますが、さらにそうした時には肉眼でオーブが見える、とも早川さんは話します。「ドゥルマ民族の間では、人が死んで精霊になったものとされています。彼らは子どもが大好きで、子どもが遊んでいるところを撮影すると写真でもたくさん確認できるんですよ」
早川さんが出した写真には、確かにオーブがたくさん写っているのが確認できます。これを見て「アフリカでも日本でも、オーブを介して霊的なものと子どもたちがつながる見方があるような気がします」と吉田さん。「日本ではオーブが出るところは座敷わらしが出るとされています」とのこと。
なお、ケニアのドゥルマ民族の村は、早川さんが宿泊可能なツアーを企画しています。

続いて、目に見えないものは果たして「ある」のか「ない」のか、という考え方についてトークは展開。坂田さんは世界一周に出るまで「科学で証明できるものや数値で表せるものだけを信じていきてきたんですけど、今思えばそれっておこがましいと思うんです」と話します。「目に見えないものっていっぱいあるじゃないですか。愛とか」と、吉田さんも思わず「愛も信じてなかったんですか!」と突っ込んでしまう発言も。

その吉田さんは怪談・オカルト研究家ではありながらも、「僕も心霊とかを物質としてあるとは思ってはいません」と発言。「霊を科学的に証明しようとするタイプの人もいますけど、自分はそうではないんです。それは物質ではなく、愛と一緒で関係性から出てくるもの。僕は心霊体験や怪談体験を1000人以上から聞いていますけど、全員が嘘をついているとは思えません。関係性から生じる体験としてはある、という話だと考えています」
この発言を受けて「話をたくさん聞いてみる、自ら体験してみる、というのはいいことですよね」と早川さん。「ミギーちゃんも世界を旅して、目の前にある世界だけが全てじゃないことを体感したんですよね」
「そうです、それを知りたかったんですよね」と対応する坂田さん。
坂田さんの価値観を大きく変化させたものとして紹介されたのが「バーニングマン」。アメリカのネバダ州で毎年8月末に開催される、荒野に街を作って参加者が様々な表現を繰り広げる、坂田さんの言葉を借りれば「壮大な社会実験」です。
「バーニングマンでは8日間、お金を使ってはいけないというルールがあるんです。その代わり、ギフトが行われる。ギフトは物でもいいですし、芸やパフォーマンスでもいいんです。こういう世界になったらいいよねというのをみんなで考える」
バーニングマンがスタートしたのは1986年。早川さんはその時代を「目に見えないものなんか完全否定していた、お金以上に価値のあるものなんてなかった時代でしたけど、そうやって世界が変わって行く何かが始まって行く空気もありましたね」と思い返します。
こうして価値観を覆す出来事だらけの旅を経て、坂田さんは帰国。旅の経験を綴った著書『旅がなければ死んでいた』の初版印税、および同書のレビュー数に応じて、マゴソスクールの子どもたちに給食代を寄付する「1レビュー20食プロジェクト」を実施しています。
坂田さんはこの試みについて、「旅をしていると友だちができるじゃないですか。友だちが困っていたら何かしようと思うのと同じです」と謙遜しますが、早川さんは「旅は普通、通り過ぎて終わりだけど、ミギーちゃんの場合はその先のステップを踏んでくれる。それがすごく嬉しい」と喜びを隠しません。
その早川さんは、このイベント後の便でケニアに帰国。「日本から見たらケニアって異次元みたいなことでしょ。ミギーちゃんのすごい旅も、吉田さんが聞いて発表するオカルト世界の話も、こちらの世界に伝えるという意味でシャーマンみたいなもの」と三人の共通点を見出しつつ、「私は明日にはケニアに到着してますし、今どきはマサイ族もSNSで『ライオン狩りなう』とかやってますから、実はケニアもオカルト世界も、みんな同じ時の中にいて繋がっています。皆さんも繋がっていきましょう」と語り、イベントは締めくくられました。
