約3000年という長きに渡り続けられてきた、古代エジプトのミイラ作り。時代により作成法に多少の違いはあるものの、人々はどんな考えに支えられ、そうした埋葬儀式を続けてきたのか。
その理由や目的を探りたい。(『教養としてのミイラ図鑑―世界一奇妙な「永遠の命」』(KKベストセラーズ)より)死者の国があると信じた古代エジプト人
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クフ王の墓として知られるギザの大ピラミッド。国王(ファラオ)は、巨大な墓を建て、死者の国でも王であり続けようとしたのだろう。

■ミイラはなぜ作られたのか? その目的とは!?

 古代エジプトにおいて、ミイラ作りがなぜかくも盛んに行われていたのか。それを知る手がかりが、『死者の書』と呼ばれるものの存在だ。そこからは、古代エジプト人たちの興味深い死生観が見えてくる。

 

■『死者の書』が教えてくれる古代エジプト人の死生観

 ミイラ作りは古代エジプトにおいて、紀元前1500年頃から同1000年頃にかけてピークを迎えるが、そうした埋葬習慣がなぜ行われたかを知る手がかりとして重要なのが、『死者の書』と呼ばれるものだ。

 しかし書とは言ってもこの時代に現在のような紙はない。

 当時の死生観や風習を記しるすには、もっぱらパピルス紙が使われた。

 これはナイル湖畔の湿地に生育していた植物で、細長い茎の部分を編み合わせて作られている。それを叩いて平面的な巻き紙にしたものだ。

 そしてそこに書かれているのは、200以上の呪文である。

呪文の内容は、死者の祈りや訴えと、来世での困難な旅を助けてくれるよう願ったもの。

 そこから当時のエジプト人たちが考えていた死生観が見えてくるし、なぜそんなにも熱心にミイラ作りを行っていたかも理解できてくる。そしてさらに、なぜ古代エジプト人たちは埋葬の際に『死者の書』を記すようになったのか。それを知る手がかりがオシリス神話である。

 オシリス神話は、古代エジプト神話の中で最も知られ、国王たちが自らの神話化のためにも、しばしば利用してきたものだ。

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地球上様々な場所に残るミイラだが、ミイラ作りが盛んな場所に共通するのは砂漠があるような乾燥気候地帯だ。

■ミイラ作りのもととなったオシリス神話とは何か

 オシリス神話にも様々なバリエーションはあるが、ギリシャのプルタルコスが伝える所を要約すると次のようなものだ。

 オシリス王は弟のセトと、イシスとネフティスという2人の妹を持つ。

 名君としてエジプトを統治していたが、嫉妬した弟のセトはオシリスを箱に閉じ込め殺し、河に投げ込む。箱は地中海に流れ出て、シリア海岸のビブロスに流れ着く。イシスはそれをつきとめ、箱を取り戻し、復活したオシリスとの間にホルスという子供を産む。

 しかしセトは再度オシリスを殺し、今度はその遺体を切り刻みバラバラにすると、エジプト中にまき散らしてしまう。

 するとイシスは再び国中を歩き、オシリスの遺体を一片ずつ見つけて行く。

 そのたびに見つけた場所に墓である神殿を建て、ついにかつて地上の王であったオシリスが、今度は死者の国の王となったというものだ。

 ここで重要なのは、オシリスが死者の国で復活して、永遠の王として生きるということ。こうした神話にもとづき、古代エジプト人は来世を信じ、時間や労力、財産も惜しみなく使い来世のために備えたのだ。

 

■カーを引き止めるため肉体のミイラが必要だった

 さらに『死者の書』では、当時のエジプト人たちが人間の持つ霊魂というものを、3種類あると考えていたこともわかる。

 ひとつ目は、《カー》と呼ばれるもの。これは極めて人間的で個人的なものだ。人間作りの神クヌムが、ひとりずつ人間を作る際に生み出す霊魂である。

 2つ目は《バー》と呼ぶもので、肉体とカーが一体となった時に現れ、日本人が一般的に考える霊魂に近いと思われる。

 そして3つ目が《アクー》であり、これは神と人間との間を仲介する超自然力を持つ。肉体は地上に属するが、アクーは天に属している。

 そしてこの3つの霊魂を持つ人間が死ぬと、天に属するアクーは朱と鷺きとなって飛び去ってしまう。

バーは黒いコウノトリ(第18王朝以後は、しばしば人間の頭をした鳥)となって、これも飛び去ってしまう。さらにカーも肉体と共に消えてしまう。しかし古代エジプト人たちは、熱烈に生命の不滅を念願し、信じていた。そこで個々人の生命力である霊魂のカーを、なんとか肉体に引き止めておこうとした。そうすれば、カーと関係が深いバーもあまり遠くへは飛んでいかないと考えた。それがミイラ作りの目的となったのだ。

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古代エジプト人たちはスカラベ(フンコロガシ)を、糞の玉から魔力を持って生まれてくると考え、死後の重要なお守りとした。
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