PM(プロパティマネジメント)から不動産キャリアをスタートし、仲介業も大家業もこなす全宅ツイ・DJあかい氏が、家探しの「その前に」について語ります。
「どこに住むのか?」
 もし、この重要な要素が「好き嫌い」や「イメージ」を根拠に決められていたら、本稿をご一読いただき、あらためて御検討いただいた方が良いかもしれません。
■街を選ぶ時の魅力やポイント『東京・国立編』

 住居を決める際の「街選び」は、都内や都心に実家を持たざる者たちにとって、後々にまで影響を及ぼす可能性のある重要な問題です。ましてや結婚を機に…となれば「新しい実家」をつくる─つまり、「子供たちの故郷」を決めることになるわけですから、ますます一筋縄ではいきません。

 だからこそ、これからお家を探される方は、「どの街に暮らすか?」を早い時期に決めると以後の展開がスムーズになります。点在する地域の物件を複数見るとなれば、移動だけでも大変ですし、相場も環境も通勤時間もバラバラで、頭の中がきっとこんがらがってしまうと思います。

 では、街を選ぶポイントはどうでしょう。
 歴史? イメージ? 地形? 交通利便性? 
 いろいろあるでしょうが、今回は街を選ぶ時の考え方やポイントを、文教都市「国立」を例にとって解説していきたいと思います。
 

【1)歴史・物語】

 人はなぜ聖地巡礼するのでしょうか。メッカ、エルサレム、伊勢神宮、鷲宮神社、大洗。それはそこに物語があるからです。物語は人を動かす力となります。

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一橋大学(公式サイトより)

 国立は、今の西武グループの祖である堤康次郎が関東大震災で被災した東京商科大学(現・一橋大学)を誘致し、国分寺と立川の間に駅を作って鉄道省に寄付(「国立」の名は国分寺と立川から一字ずつ取ったことに由来)、ドイツの大学都市ゲッティンゲンに倣った計画的な街づくりを行ったのが、始まりです。同じく堤が開発した大泉学園は兄弟分に当たります。



 このように、街の始まりや由来、物語がはっきりしていると、子供にも説明しやすく、なにより街への愛着を持ちやすいと思います。
 新しく作られた街とはいえ、九十年以上の歴史を持つという点も戦後のニュータウンとは一線を画する特色で、何世代にもわたって受け継がれて守られてきたことが伝わります。

【2)景観】

 国立の魅力と言えば大学通りの桜並木・銀杏並木でしょう。春は大学通りの歩道橋に花見客が押し寄せます。戦前は滑走路として使われていたことからもわかるように、国立駅南口のロータリーからまっすぐ南へと伸びていて、車で行っても散歩をしても気持ちのいい道です。

文教都市・国立を例に学ぶ「住む街の選び方」
「国立マンション」こと「クリオレミントンヴィレッジ国立」

 大学通り沿いのマンションの高さを銀杏並木と揃えるようにと、住民らが訴訟を起こした(国立マンション訴訟)も、景観を守ろうとする住民の意識の高さを感じます。
 三角屋根で有名な「旧国立駅舎」も中央線の高架化に伴って一時撤去されましたが、総事業費十億円をかけて2020年に復元駅舎が竣工する予定です。

「国立駅舎は、国立市の象徴であり国立市民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する国立市民の総意に基く」などと、憲章に明記されているわけではないのですが、それに近い敬意と愛情をもって遇されているのがよくわかります。

文教都市・国立を例に学ぶ「住む街の選び方」
国立駅舎の復元イメージ

 国立の景観はそれだけ住民から大事にされているのです。実際にドラマや映画の舞台として使われることも多く、その魅力は全国に伝わっています。
 漫画『姫ちゃんのリボン』(作中では「風立市」)、映画「おおかみこどもの雨と雪」、ドラマ「謎解きはディナーのあとで」などにも登場していますが、自分の街が作品の舞台になるのは、住民にとってはやはり誇らしく、嬉しいことだと思います。

【3)道路】

 宅地の価値は【前面道路の種別・幅員・舗装状況、道路接面の長さ】で決まるというのがわたしの持論です。

国立の場合は【大学通り、富士見通り、旭通り、学園通り】といった広い通りを除けば、基本的には市道は幅員5.45m、一方通行に統一されています。
 また、土地の区画も堤康次郎時代の整然とした宅地割も相まって(当時は70-100坪の区画割だったので、一部細分化はしていますが)道も区画も広くゆったりとした住宅街となっています。

 道路の整備も行き届いており、他市と走り比べると驚きます。地味に聞こえるかもしれませんが、こういった部分に安心を感じる方は多いのではないでしょうか。
 また、駅前ロータリーと一方通行によって、車の場合は家までのルートがほぼ固定されてしまう、つまり正解が一つしかないというのも、明確な解答を求める大学教授や教員に好まれる所以かもしれません。
 

【4)交通利便性】

 「国立」から中央線で「新宿」まで33分。「国分寺」で中央特快に乗り換えればもう少し早く着きます。この時間を「遠い・長い」と感じるか「意外と近い・短い」と感じるかも人によってだいぶ違うはずです。
 ちなみに、中央高速の国立インターも割と近いため、休日の車でのお出かけもスムーズです。都心から帰ってくるときは「右に見える競馬場~左はビール工場」(©荒井由実「中央フリーウェイ」)と歌いながら帰りましょう(笑)。
 

【5)環境】

 戦後、米軍立川基地の影響で国立にもホテルや旅館の建設が進んだため、閑静な住宅街を守ろうと住民たちが文教地区指定を求める運動を起こし、学園都市エリア全域が文教地区に指定されました。

 そのため、駅周辺にパチンコ店もホテルも風俗店もない、安心して子育てできる街になっています。

学生もいますが、割合みんなお行儀が良く「賑やかすぎる」という印象はありません(国立の学生の特徴としては「すた丼」を頻繁に食べるくらいでしょうか)。
 ファミリーには心地よい環境である反面、単身社会人男性には刺激の足りない街とも言えるでしょう。

 明確な街づくりをしていくことでミスマッチを防ぐ、これも大事なことです。遊びに行くなら立川まで出ればいいのです。
 遊びと住む場所の分離(よその女を家庭に持ちこまない・笑)、大事なことですね。
 

【6)理念・求める住民像】

 さて、国立の魅力を語っていくことで、国立の住民に共有されている理念やありかたがなんとなく見えてきたのではないでしょうか。
 元々が大学都市として成立し、予定調和の街の青写真があり、それが妨げられるようなことがあれば(国立マンションや駅舎の撤去)、住民たちの力で取り戻すという主体的な近代的市民の姿です。
 整然とした街には整然とした人が住みます。ゴミ屋敷があっても近隣住民の通報で自浄作用が働いていきます。文教地区指定によっていかがわしいものは排除し、正しい環境で正しい子育てをしていく、そういう人物像が浮かび上がってはこないでしょうか。

 わたしには「目指せ一橋大学!」というような、子供の教育に力を入れるファミリーの姿が見える街が国立なのです。

 どうですか?
 「街選び」の候補地に「国立」が入ってきた方はいらっしゃいませんか。

 


 というわけで、今回は「国立」を例にとってお話をしましたが、皆様が「街選び」をするときもこのように、要素ごとに深堀していくことをお薦めします。
 家族それぞれ(だいたい奥様の意見で決まると思いますが…)の優先順位を考慮していって、最後に、既にそこに住んでいる人たちのパーソナリティを把握する。そして「うまくやっていけそうか」「アナフィラキシーショックを起こさないか」などを考えて、結論が出せれば一番いいですよね。

 伝統主義者が新興住宅地に住んだり、一代記の人物が地区協定の厳しい高級住宅地に住むようなミスマッチが起こると想像以上に大変です。
 「街に住む」ということは、その街に住む人たちの価値観を共有するという一面を併せ持つため、そこが相反するようだといちいち摩擦が起こってお互いすり減ってしまうかもしれません。
 
 お読みいただきありがとうございました。
 本記事が、これから家探し(街選び)する人の一助となれば、これ以上の喜びはありません。
 


◆DJあかい/ブローカー部所属
「クソ物件オブザイヤー」エントリー作品のPM経験を持つ、仲介業も大家業もブログ業もこなす不動産マルチメディアクリエイター。
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