全国で先駆けて「殺処分ゼロ」を達成した神奈川県動物愛護センター(神奈川県動物保護センター)。その旧センター最後の3年間を撮り続けた写真家の犬丸美絵さんの話を中心に、前回は「保護犬」の実態について記事を公開しました。

今回はより具体的に「保護犬との暮らし」つまり、彼らを家族に迎え入れたいと考えている人に読んでほしい保護犬を迎える手順や意識、そして、ちょっと未来のことについて語ります。
そこに彼らと我々の「運命の出会い」はあるのだろうか…。
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■保護犬を迎えたいと思ったら…

 犬丸さんがおすすめする保護犬を迎えるまでの手順は次の通りだ。

01_自分のライフスタイルに合った犬を選ぶ

「“飼いたい犬と飼える犬は違う”ということを念頭に置き、無理せず飼うことができる、自分の性格や生活に合った犬を選びましょう。
 アウトドア派なら一緒に駆け回れるアクティブな犬種や若い犬がいいでしょうし、のんびりと暮らしたい方にはシニア犬が向いています。
 反対に、都会で暮らしてドッグカフェなどに行きたいと考えている方が、野犬のDNAを持つ子を迎えれば、お互いにストレスが増えることになります。
 決して外見だけで選ばずに、犬と一緒にどんな生活をしたいのか、お互いに楽しく過ごせるのはどんなタイプの犬なのか。よく考えて選んでほしいと思います」
 

02_自分に合う保護団体を探す

「保護犬を迎えるには、行政の動物愛護センターから直接引き取る方法と保護団体などを経由して犬を譲渡してもらう方法があります。保護団体それぞれに譲渡条件がありますので、ご自身にあったところをぜひお選びください。

 よく『保護団体にメールしても返事がない』とか『審査が厳しくて保護犬をもらえない』等の話を聞きます。保護団体の方々は想像を絶するほど忙しく、ご自身の生活を犠牲にして頑張ってらっしゃる人もたくさんいます。犬たちを大切にしているからこその連絡の遅さだと想いやって、気長に待ってあげていただければと思います。


 また、譲渡の審査基準も団体によってそれぞれです。条件が厳しすぎて断られ、心が折れてペットショップに走る方が多々いらっしゃるのも事実です。『欲しいときに欲しい犬がいないから』という声もたまに聞きますが、犬は命です。犬を商品として考えるその人間の気持ちが、殺される命を生み出していること忘れてはいけません。犬は待つものです。いろいろな条件の団体さんがいらっしゃるので、諦めず、焦らず、時間をかけて探していただけると保護犬たちは喜ぶと思います。

 譲渡後の関わり方にも団体によっていろいろあります。アフターケアをしっかりとしてくださる団体を見つけることも大切です。とにかくあせらずに見極める力を持ちましょう」
 

保護柴たちの未来を考える(後編)─そこに運命の出会いはあるのか─
03_譲渡会などで実際に犬に会う

「保護犬に限った話ではありませんが、今後、一緒に暮らす命です。譲渡会や事前お見合い等、実際に会ってから選ぶことが何よりも大切です。犬の性格やご自身との相性、生い立ちや今の生活環境について等、実際に見て触れて共に時間を過ごし、団体の方と言葉を交わしてください。百聞は一見に如かずです! 犬は“個”対“個”。

団体の方といるときの性格で一生生きていくわけではありません。ぜひ実際に会って、ご自身との相性を感じてほしいです」
 

04_家族となる「犬」について学ぶ

「犬について、何も知らないで飼い始めてしまう人がかなりいます。『こんなに大きくなるとは思わなかった』など、ありえない理由で放棄する人もいるくらいなのです。
 ご自身の求める犬のサイズや性格や体力、長所や短所、犬を飼うにはどのくらいお金と時間とかかるのか、もし自分に何かあって飼えなくなった時に託せる人がいるのか等々、事前に必ず勉強してからお迎えを決断してください」
 

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■その子の老後まで考えてほしい

 犬の寿命も近年のびてきている。これは保護犬に限ったことではないが、「犬が老いて病気になったり、寝たきりになっても、最後まで責任をもって飼えるのか」をよく考えて欲しいと犬丸さんは言う。

「犬を1頭飼うと一生で最低でも『軽自動車1台分くらいのお金がかかる』と言われています。飼い方によってはそれ以上かかるでしょう。
 年齢を重ねてくると大変さも増すことが多いです。年老いて認知症になり昼夜逆転して夜中鳴き続けることもあります。不慮の事故で半身不随になることもあります。私が昔飼っていた柴系の雑種は、11歳の時に椅子から落ちて首から下が動かなくなりました。柴らしく頑固な気質だったのでその現実をなかなか受け入れられず、2週間、昼も夜も泣き叫びました。

幸運にもいいお医者様にめぐり合えて、体も徐々に回復し、その後一年半生きてくれましたが、ほとんどの病院では安楽死を薦められて、つらい思いをしました。なにがあっても最後まで責任を持てるのか、よく考えてから家族に迎えて欲しいと思います」

 いっときの気分でなく、動物を飼うことの責任の重さを、必ず考えて欲しい。
 

■「飼う」以外の選択肢もある

 いろいろ考えた結果、「保護犬はなんとかしてあげたいけど、自分には飼えそうにない」となったら、それはそれで正しい答えだ。「飼わない」という動物愛護もある。

「動物たちのためにできることはいろいろあります。保護団体に募金するとか、ボランティア団体さんのお手伝いをするとか。犬たちを取り巻く現状を勉強して、保護犬を減らすために、いち愛犬家にできることを伝えていくことだけでもいいと思います」

 これから犬を迎える方が保護犬を迎えたり、良心的なブリーダーさんから迎えること、軽はずみに動物を飼わなくなることで、売上が伸びなくなったペットショップや悪徳ブリーダーはいずれ自然淘汰されていくはず。いち愛犬家の小さな変化の一歩が、いつか世間の流れを変える大きな一歩になると思うと犬丸さんは言う。

「保護犬たちは、今を受け入れ、順応し、前を向いて生きているとてもいい子たちで、何度も言いますが、かわいそうなだけの存在ではありません。“かわいそう”という人間の眼鏡をはずして向き合ってほしいと思います」

 保護犬を飼うのがちょっとしたブームになっているが、生きものを飼うというのはそんなに簡単なことではない。保護犬であろうと、ショップやブリーダーから迎える犬であろうと、「この犬と暮らしたい」と心から思える犬にめぐり逢えたら迎える、というのがベストではないだろうか。

 犬を無理なく飼える状況の人が、犬を探すときの選択肢のひとつに「保護犬」を加える。

ぜひそんな自然なスタンスで、運命の出会いを果たして欲しい。 

保護柴たちの未来を考える(後編)─そこに運命の出会いはあるのか─

 

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