写真:つのだよしお/アフロ

 2月2日に放送された「NHKスペシャル 食の起源 第4集 酒」(NHK総合)はなかなかそそられる内容だった。冒頭から「なぜ人類はこんな危ういものを飲まずにいられなくなったのでしょうか」というナレーションが流れ、メインパーソナリティのTOKIOの面々が「気になるよね」「たしかに」などと反応。

ふむふむと思いながら見ていると、今度は「毒だと思って飲んでないよね」「良薬ですから」「そういうイメージが強いですけど」「僕らのなかでは」といったコメントが飛び出した。

 このやりとりには、いやいや、君らのなかでそんなはずはないだろうと思わずツッコミを入れてしまったものだ。なにせ、TOKIOは2年前、酒によってメンバーをひとり失い、音楽活動を休止し、解散の危機まで囁かれたのである。言わずと知れた、山口達也の強制ワイセツ事件のことだ。

 18年2月、山口は司会を務める「Rの法則」(NHKEテレ)に出演していた未成年タレント2名を自宅に呼び、酩酊状態でひとりにキスをするなどしたとして書類送検された。これが4月に発覚して、会見を開いた山口は謹慎を発表。その後、起訴猶予となったものの、5月にジャニーズ事務所の契約を解除され、事実上の引退となった。

 このとき浮き彫りにされたのが、山口の飲酒癖である。事件の前には肝臓を休ませるために1ヶ月入院していたが、退院したその日に焼酎を1本空け、その流れで未成年タレントを呼んでいたことがわかった。本人は「アルコール依存症」を否定したものの、山口以外の4人による会見では、松岡昌宏が「正直僕らはアルコール依存症だと思っていました」と激白。事件について土下座して謝った山口に対し、こう諭したことも明かした。

「正直あなたは病気です。

自分の置かれている立場と今後のことにちゃんと向き合ってくれ。決してお酒は悪くない、悪いのは自分だ。その甘さと考えを改めてもらえない限り俺たちは何もできない。話すのはきっとそれからだ」 

 とまあ、そんないきさつがまだ記憶に新しいだけに、番組冒頭のやりとりが気になってしまったのだ。ちなみに「良薬ですから」と言ったのは松岡だが、それは山口への言葉と矛盾はしていない。彼は「決してお酒は悪くない」として、事件についてはあくまで山口の「病気」と関連づけたのである。

 ただ、酒と病気とがつながりやすいことも世の常だ。この番組では、4人の酒に対する強弱(アセトアルデヒド分解遺伝子の有無)についても調査され、松岡と城島茂、国分太一は強いタイプと判明した。長瀬智也のみ、やや弱いタイプだったが、ここでも気になるのは山口のことである。

 専門家からは「アルコール依存症になりやすいのは、じつは強いほうのタイプなんです」という発言も出たものの、誰も山口の話はしない。ある意味、酒による心身への影響を考えるうえで格好の対象が彼らの身近にいる(いた)のに、そこが完全にスルーされるという、いささか食い足りない展開となったわけだ。

 もちろん、諸事情からタブー化されているのもわからないではないが、だったらせめて山口が在籍していた頃に制作されていれば、などとも思ったものである。

 そんな番組と対照的だったのが、昨年12月27日に放送された「あさイチ」(NHK総合)だ。ゲストは草彅剛。そう、09年に泥酔して公園で全裸になって騒ぎ、公然ワイセツ容疑で逮捕された人だ。

 警察官の「服を着ろ」に対し「ハダカだったら何が悪い」と反発したりしたというが、本人はそのときの記憶がなく、反省を示したことから、起訴猶予となった。ただ、1ヶ月の謹慎を余儀なくされ、数年にわたって断酒を敢行。しかも、その余波は今なお消えていない。SMAP解散後、新しい地図として行動をともにする稲垣吾郎と香取慎吾がサントリーのCMに起用された際、商品がノンアルコール飲料だったにもかかわらず、彼の姿はそこになかった。

 そんな草彅が「あさイチ」で「酒」をネタにしたのだ。VTRで登場した仲のいいユースケ・サンタマリアが「今度、俺がボトルキープしてる店があるから、そこでゆっくり飲もう」と発言。じつはこれ、ボケだったようで「だいたい、ユースケさん、お酒飲まないですからね」と、ツッコミを入れていた。

 さらに、事件後、高倉健から手紙をもらって、その主演映画に出演した話を披露。緊張のあまり頭が真っ白になり、そのおかげで素の芝居が自然にできたことへの喜びを語ったうえで「お芝居もハダカになって」と、事件をだぶらせる冗談まで口にした。

 その途端、ちょっとあわてて、

「まぁ、僕『ハダカになって』って。生放送でした。あー、やばいやばい」(笑)

 と、自分で混ぜっ返していたものの、かなりふっきれているのだなということが伝わってきたものだ。

 実際、みそぎは済んでいるわけだし、解散のゴタゴタがあったおかげで、事件が「ひとつ前の騒動」になったというのも作用しているのだろう。

 そして何より、こちらは自己完結的な事件だったことが大きい。騒いでいるのを通報した住民はちょっと怖かっただろうが、ハダカになる際に服をきちんと畳んでいたことなど、今では微笑ましい話として語られているほどだ。ある意味、喜劇的なのである。

 その点、山口の事件は悲劇的というか、未成年へのセクハラやパワハラという要素も含んでいて、最近の風潮ではより厳しい目を向けられがちだ。

 昨年夏には女性誌で、被害者への謝罪の念と「テレビでは私の名前すら出せない」ことについての4人への申し訳なさを語っていた。個人的には、あの事件は引退するほどのものではなく、復帰をしても構わないと思うが、本人いわく「最後の取材、最後の告白」ということだった。

 なんにせよ「食の起源」がナレーションで言っていたように、酒が「危ういもの」であることは否めない。芸能人に限らず、人類は酒による悲劇や喜劇をこれからも繰り返していくのだろう。

編集部おすすめ