美容業界でブリーチの神様と呼ばれ2017年惜しくも病によってこの世をさった美容師・jooji。
そんな志半ばでこの世を去ったjoojiの想いを一冊の本にまとめた『jooji bleach on color』通称“jooji本”は2018年に数量限定で出版され、いまや入手困難な幻のブリーチ本となっている。

 2020年、ブリーチ技術が美容師の普遍的技術となりつつある時代に、命を削り、美容人生の全てをブリーチオンカラーへの情熱に注ぎ込んだ「jooji」の想いや技術を伝えるべく、“jooji本”を再編集し、再び全国の美容関係者に届けたいと【『jooji Breach on Color』復刊プロジェクト】が始動。
 今回はjoojiの理論を残したいという強い意志のもと、本プロジェクトの発起人であり、joojiの妹・松岡慶子さんに話を訊いた。
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joojiが残した作品たち

 ブリーチオンカラーの専門家として10年もの歳月を費やして蓄積された独自のブリーチ理論をもち、生前、jooji 氏は自らが培った技術やブリーチにかける情熱を次世代に伝えるためにセミナーなど様々な活動に力を注いでいた。

 どんな色でも自在に表現できる技術力の高さから「塩基性カラーの魔術師」と称された jooji 氏は、10年にも及ぶ歳月をブリーチオンカラーの専門家として活動し、数千人の髪にブリーチや、オンカラーを施術するなかで蓄積された膨大なデータを基に、独自のブリーチオンカラー理論を確立。

 卓越した技術力と緻密に計算されたブリーチ理論を駆使して表現される jooji 氏のカラー作品は、サイモン・エリス(元ヴィダルサスーン総責任者、現シュワルツコフ インターナショナルクリエイティブディレクター)をして「ヨーロッパの大きなヘアショーのレベル」とまで言わせしめるほど、 単にヘアカラーの領海を飛び越え、アート作品としても十分に通用するほど感度の高いものだった。

 また、サイモンは jooji氏 の死に対し「日本の美容を進化させるチャンスだったのに」とその死を悼んだという。

  2017年8月に死してもいまなお『ブリーチの神様』(中村太輔氏)や『ブリーチ界の天才児』、『ブリーチの魔術師』など彼を称賛する声はやむことがない。

 ブリーチを難しくとらえすぎ、失敗を繰り返し続けた過去の自分への戒めとして、jooji 氏は常にシンプルに、わかりやすく、誰もが使いこなせるように、ブリーチやブリーチオンカラーの独自の理論を精査し、体系づけた。

 私たちは、jooji 氏が美容人生そのものをかけて追求し、そして体系化したブリーチオンカラー理論と、その理論により生み出された作品を一冊の本としてコンパイル。ブリーチ専門家としての使命を自らに課し、「継承、伝達、育成」をテーマに、死の直前まで「次世代へと繋がるカラーの研究や確立」を目指したjooji 氏の思いを、より多くの美容関係者へ伝えていきたいと考え、編まれた伝説の一冊がここに復刊する。【『jooji Breach on Color』復刊プロジェクト】が始動。

 

■ブリーチの神・joojiの実妹が語る“すごさ”の本質
美容人生の全てをブリーチオンカラーへの情熱に注ぎ込んだ美容師「jooji」の想い~世界中で一番嫌いだった兄の、今では世界中で一番のファンです~
復刊プロジェクト発起人・松岡慶子さん。

──松岡さんにとって jooji さんはどのような存在でしたか?

「美容師であることをとことん追求した人。美容師であることを心の底から楽しみ、謳歌した人。その反面、兄としては理解しがたさや受け入れがたさがあって、あまり話しをすることもなかったですし、正直、世界中で一番嫌いでした(笑)」

 

──何年くらい口をきかない関係だったのですか?

「10年近く、まともに口を聞いていなかったし、お互い連絡先も知らない関係でしたね。ただ、大阪にいた頃は、髪を切ってもらっていましたね。兄以外の人にカットされると気に入らないことが多かったので」

 

―お兄さんの作品を見られたきっかけは?

「兄が癌で、余命宣告をされてから、安否確認のために兄のインスタを見だしたんですが、正直、すごくびっくりしました。兄の作り出すスタイルがすごく可愛くて、それと、カラーやブリーチについて書いていることが、興味深いというか面白くて」

■世界中で一番嫌っていた人間を世界中で一番のファンにさせる
美容人生の全てをブリーチオンカラーへの情熱に注ぎ込んだ美容師「jooji」の想い~世界中で一番嫌いだった兄の、今では世界中で一番のファンです~

──すごいいろんな人に力を与えてましたよね。

「もともと、美容に関してはまじめで、人一倍、練習はしていたと思います。まだ兄がjoojiを名乗る前に、兄が経営する美容院を手伝っていたこともあるんですが、夜遅くまで練習をしていたし、コンテストにも積極的に応募していて入賞や優勝をすることも多かったですが、そのときは、まだ、純粋に美容が好き、というよりも、人に認められたいという気持ちの方が強かったのかな。兄の作る作品に心が動くということはなかったですね。だからこそ、インスタを見たときは、とんでもなく衝撃を受けました。私が知らない間に、こんな凄い作品を作る人になってた、というか、兄の美容に対する思いが純粋すぎて、心が痛かったです。残された時間があまりにも短すぎて」

 

──2018年に数量限定で発行された jooji さんの想いを一冊の本にまとめた『jooji bleach on color』は完売。

入手困難な幻のブリーチ本になりました。Joojiさんの想いは後進の方々をはじめ、さまざまな方に届いたのでは?

「実際に作ってるときは必死で、この本がどう受け止められるか考えている余裕はなかったですね。実際、何回かやめたいって思いました(笑)。私は美容師ではないし、一人で抱えるにはあまりにも重い。でも、どうしても残したかったです。こんなに努力して、こんなに美容を愛した人間がいたってことを。身内が誉めるのもあれなんですが、色の表現が万華鏡のようにステキで、見るたびにこんな色も入ってるのかという驚きに出会える。色表現って、美容師さんごとに癖ってあるじゃないですか。こういう出し方は得意だけど、これはイマイチって。でも兄にはイマイチがない、どれも究極に可愛いんです。どういう色の表現をしても残念な部分がまったくなく、それを支えている理論が面白かったんです。ちゃんと物語になってるんですよ。

どうしてこうなってるのかっていう理由づけもできてるから応用も効くし、普通に読んでて面白い考え方だと思える。本を作るのにあたって、何冊かカラー本を読んだんですが、どれも結論しか書いてないから面白くないんです。何故そうなるのか、理由が説明されていないから、美容師ではない私が読むと、つまらなくって。でも兄の理論は違っていて、すごくわかりやすいし、突き詰めていったらすごくシンプルな形に集約させている。物事の本質って根源的にはシンプルなものやと思うんで、これもすごく本質的なことを言っているんだろなと思って。理論だけでなく、作品もすごかった。作品と理論、どちらかが大したことなかったら作ろうとは思わなかったと思う。兄妹の目という贔屓めで、ちょっと残念やけど作ったろか、という思いではたぶん途中でくじけていたと思います。何回かやめようと思ったとき、兄の作品を見ると、胸がキュンキュンするし、わくわくしてくる。そのキュンキュンとワクワクに後押しされるように、本をまた作り出す。作り進めるうちに、とんでもないくらいjoojiの大ファンになっている自分に気づいて。だからこの本は世界中で一番嫌っていた人間を世界中で一番のファンにさせる、とてつもない力をもった本だと思っています。」

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