「瘦せること」が生きる価値になる女性がいます。

時に、どうしても「瘦せるために」危険な行為に及ぶ女性も世の中には多くいることも確かです。

しかし、その行為がどこまで身に危険なものなのか、もしくはどこまでだったら大丈夫なのか、を知っておくことは決して不必要な情報ではないでしょう。

今回は、『瘦せ姫 生きづらさの果てに』著者・エフ=宝泉薫氏に不完全拒食マニュアの「排出型2」を指南してもらいます。

 

不完全拒食マニュアル 排出型 2

「誰かチューブ吐きのやり方を教えてください」

 

「過食嘔吐と添い遂げる決意があるなら、チューブおすすめする。でも生半可(なまはんか)な気持ちでこっちに来ると、死ぬより苦しい地獄があるから気をつけて!」

 これはインターネットの巨大掲示板・2ちゃんねるにある「チューブ吐き」についてのスレッドで見つけた瘦せ姫の言葉です。大げさに感じる人もいるでしょうが、歯止めがかからず、抜け出そうとしたときに抜け出せないという意味で、この方法はたしかに群を抜いています。

 たとえば、自身のSNSで「誰かチューブ吐きのやり方を教えてください」と懇願した高校生がいました。彼女は制限型の拒食から指吐きや腹筋吐きに移行したものの、思うように吐けないという「スランプ」に悩んでいたようです。そして、その直後から過食嘔吐が一気にエスカレート。40キロ前後だった体重が数ヶ月で20キロ台半ばまで減り、そこでSNSの更新が止まりました。

 この瘦せ姫は平均あたりの身長でしたが、チューブ吐きにより、170センチ近くの身長で体重が20キロ台になった瘦せ姫もいます。指吐きはもとより、腹筋吐きと比べても、激瘦せ効果は高いように思われるのです。

 その最たる理由は「完吐き」がしやすいことでしょう。

チューブ内に詰まりやすい食材もあるものの、たいていのものは排出できるといいます。ただ、それに次いで、心身への負担が軽いという理由も大きいのではと感じます。

 細長く、それなりに硬いチューブを自分で胃の中にまで挿入するのは、かなり難しく、体質や精神的要因でマスターできない人もいますが、慣れると苦痛はほとんどなくなるといいます。さらに、吐きダコもできませんし、歯も溶けにくく、唾液腺の腫れでエラが張ることも少ないようです。また、吐く際の音も静かで、吐いたものが飛び散る心配もありません。

 こうしたメリットの数々はどこか、完全犯罪を想わせます。器具を使って、科学的原理にのっとり、自分の手を汚さない感じで、食欲を一時的に満たし、かつ瘦せられる——。そのあたりが人間、特に瘦せ姫が希求する、何かを支配できているような高揚や安堵(あんど)をもたらすのではないでしょうか。

 つまり、心身への負担の軽さが「全能感」にもつながることで、チューブ吐きはさらにエスカレートしやすいのではと推測するのです。なかには「やり方を知りたくてしかたなかった頃の自分を思うと、教えてあげたくもなるけど、知ってしまった今はやっぱり教えてはいけない気がしてしまう」と言う人もいて、魔術にも似たものを感じます。

 なお、前述した2ちゃんねるのスレッドには、この吐き方の説明がリスクも含め、かなりの長文で書かれていました。

 チューブの太さや長さ、しなやかさ、滑りやすさに始まり(経済的に余裕があるなら、医療用カテーテルが理想だそうです)、切り口の「面取り」などの加工や手入れの仕方、胃への挿入方法、食べ物の排出方法(補助的手段として、漏ろ う斗と を使ったサイフォン方式や注射器を使った吸入方式もあるとか)、挿入や排出後の胃や口内のケアにいたるまで……。

さらに、詰まりやすい食材や体質に合わない場合の見極めについても紹介されていて、ここで詳しく引用したいほどです。

 しかし、それは控えることにします。理由としては、胃穿孔(いせんこう)や食道ガンなどの危険につながりかねないということもありますが、それより何より、チューブ吐きは瘦せ姫のなかでもごく一部の特別な人にしかできないという印象が強いからです。

 というのも、摂食障害についてのサイトで、医師がこんな分析をしています。

「チューブを使用することで、胃の中のものを出し切る感覚が強く得られるようです。(略)チューブを使用するということは、それだけ〝排出衝動〟や〝やせ衝動〟が強いということです。〝排出衝動〟〝やせ衝動〟は〝過食衝動〟と同様、意志でどうにかなるものではありません。〝排出衝動〟〝やせ衝動〟は、摂食障害・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤乱用の病態の中核とも言える部分です。つまり、チューブを使って吐くことは、摂食障害がより重症であるということを現しています」

 すなわち、チューブ吐きに興味を持ち、挑戦し、会得できてしまう時点で、その人は「より重症」だというわけです。さきほどの「全能感」についてもそうですが、現実に不満や抑圧を抱えていればいるほど、人は何かを思い切り徹底的にコントロールして満足を得ようとします。そういう瘦せ姫なら、自らインターネットなどで情報を取得し、チューブ吐きを始めることでしょう。

 ただ、自分が「より重症」なことに気づかないまま、チューブ吐きに出会ってしまう人もいるかもしれません。

その人がもし、この本に先に出会ってリスクを知ったとしても、なかなか思いとどまれるものでもないと感じます。それでも、何らかの自覚、いや「覚悟」を持って臨むことで、その後の人生に何かプラスになればとは願っています。

 とまあ、チューブ吐きの魔力について見てきましたが、ほかの吐き方でも、リスクがともなうことはすでにいくつか触れたとおりです。そこに付け加えるとすれば、低カリウム血症というものがあります。極度の栄養不足によって起きるので、拒食症全般で警戒が必要ですが、とくに腹筋吐きのような激しい嘔吐をしているケースが危険だとされています。

 初期症状としては、手足のだるさや不整脈、ひどくなれば心不全を起こして死にいたることもあります。これは筋肉や心臓の働きに重要なカリウムが、嘔吐によってさらに失われるため。予防には、カリウムを多く含むバナナやアボカド、カボチャ、あるいはスポーツドリンクなどで補給しておくことが有効です。嘔吐する瘦せ姫は、吐かずに食べることを「吸収」と呼んだりしますが、この栄養素についてはなるべく吸収することが望ましいでしょう。

 また、発症してしまった場合、早く気づくことが大切です。ある瘦せ姫は「体全部が心臓になったみたいな」苦痛に襲われたあと、救急搬送されました。間一髪のタイミングで一命はとりとめたものの、小説『鏡の中の孤独』(スティーブン・レベンクロン)には、嘔吐中に低カリウム血症を起こし、心臓発作で亡くなる少女が出てきます(註1)。

 著者はカレン・カーペンター(『瘦せ姫 生きづらさの果てに』本書145頁など参照)の治療にもあたった高名な心理カウンセラー。死にいたるまでの描写にも、ある程度の信憑性は確保されていることでしょう。その最初の兆候は「上唇がしびれ」「太ももの筋肉がけいれんし」「指先がビリビリしてきた」というものです。

 ただ、少女は異常を察しながらも「高カロリーのピーナッツバター」を排出するため、嘔吐を続けます。この感覚、理解できるという人も少なくはないでしょう。太るくらいなら死んだほうがマシ、というのが、瘦せ姫の矜持(きょうじ)なのですから。

 それでもやはり、嘔吐中に死亡することは避けたいという人には、可能な範囲で安全かつ健康的な方法の選択をおすすめします。

(註1)『鏡の中の孤独』スティーブン・レベンクロン(集英社文庫)

※「不完全拒食マニュアル」のその他のやり方や詳細は、『瘦せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ刊)をどうぞご覧ください。明日もBEST TIMESコラムをお楽しみに!

どうしても瘦せたい人が知るべき禁断の不完全拒食マニュアルとは...の画像はこちら >>
 

 【著者プロフィール】 

エフ=宝泉薫(えふ=ほうせん・いずみ) 

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』などに執筆する。また健康雑誌『FYTTE』で女性のダイエット、摂食障害に関する企画、取材に取り組み、1995年に『ドキュメント摂食障害—明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版。2007年からSNSでの執筆も開始し、現在、ブログ『痩せ姫の光と影』(http://ameblo.jp/fuji507/)などを更新中。

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