そんなコンセプトで世界から絶賛されている、知っている様で知らない、日本の食・技術・カルチャー・経済を紹介する『世界が絶賛する日本 われわれが知らない進化する真価』(Japan's best編集部:編)絶賛発売中。今回は本書の中でも世界を変える日本の技術を紹介します。
携帯電話のような小型の家電製品から、巨大なビルや橋梁まで、共通して使われている部品があります。
それは、パーツ同士を固定するネジとナット。
これらはいわば万能部品ですが、過酷な状況に置かれれば、さびるなどして傷んだり、固く締められていても緩んでしまうことがあります。
建築技術の進歩によって増えている橋梁や油田の掘削設備といった海洋構造物にも、ネジは使われています。
これらの構造物は、海水(塩水)にさらされるとさびてしまうため、鉄骨には防錆・防食のためにフッ素加工が施されています。
ところが、一般的にネジには、こうした防錆・防食加工がされていないため、多数のネジがいっせいに傷めば、構造物全体が崩れてしまう恐れがありました。
こうしたネジの弱点に着目したのが、大阪の「竹中製作所」で、鉄骨と同様にネジにも防錆・防食のためのフッ素加工をほどこそうと取り組みます。
しかし、凹凸の多いネジはフッ素塗料を均一に塗装することが難しく、塗装したとしても締めるときにはがれてしまいます。
また、塗装にムラがあれば、ネジ本来の機能が損なわれてしまいます。
一時は、「ネジのフッ素加工は無理ではないか」という声もありましたが、京都大学の稲垣博教授に協力を嘆願し、1988年ついに開発は成功。
こうして、海中でも6000時間さびない画期的なネジ「タケコート」が完
写真は北海油田の石油プラットフォーム。写真はイメージです。成したのです。
しかし、完成から4年間の販売は、目もあてられないほどの大苦戦。
そこで最後の大博打の覚悟で売り込んだのが、アメリカの石油大手エクソンモービルでした。
幸い当時の技術部長に認められ、マレーシア沖の石油掘削工事のボルトとして採用。
そしてこれを契機に、国内の企業もタケコートを使用し始め、明石海峡大橋や東京湾横断道路など、次々に大きな地下埋設管、海洋構造物、石油プラントで採用されていきます。
現在は同社の主力製品となり、海洋構造物に使われるネジのうちの約90%のシェアを占めています。
そしてもうひとつ。振動が多い過酷な状況下でも、〝絶対に緩まない〟ネジがあります。
これは、竹中製作所と同じく大阪の「ハードロック工業」が開発した「ハードロックナット」。
いずれも社名が商品名になっているのが大阪らしさでしょうか。
通常、ナットは長い年月を経たり、電車や新幹線などの振動が多いところで使用されると、構造上かならず緩んできてしまうものだというのは想像に難くありません。
ですがハードロックナットは、こうした過酷な状況下でも、高い締結力を維持することができるのです。
その締結力の高さは、世界一厳しい米国航空規格(NAS)の振動試験をクリアしたことが証明しているでしょう。
緩まないナットが誕生したきっかけは、1973年、ハードロック工業の若林克彦社長が訪れた神社でした。
ふと鳥居を見上げた際、打ち込まれたクサビを見つけます。
これを見て、ナットとボルトのジョイント部分を凹凸にして噛ませるダブルナットを思いつきます。
ただし、単に凹凸にしてもクサビの効果は得られないため、凹凸が噛み合う部分を斜めに傾斜させ、凸型ナットだけは穴の中心をずらした(偏心)構造にしたのです。
この凸型ナットをボルトに通し、上から凹型ナットを締めると、穴の中心のずれにより、凹凸部が噛みあうときにお互いをボルトに押しつけ合うかたちになり、強い締結力が生まれます。
偏心した凸型ナットが、クサビの役割を果たすというわけです。
すぐにハードロックナットは完成し、若林社長はまず、京阪神の大手私鉄・阪神電鉄へ試験的に使ってもらえないかと売り込みます。
レールは数分間隔で列車が通るため、いずれ必ず緩み、深夜点検時に締め直していることを若林社長は知っていたのです。

こうして試験的に使ってもらったところ、3カ月経っても緩みは見られず見事採用。この実績をもとに、拡販・受注を得ることにも成功します。
また、安全性の向上だけでなく、締め直しがほとんど必要ないことから、メンテナンスフリー=人件費の削減にも効果があると評判に。この評判がさらに評判を呼び、1990年代にはJR東日本のほぼ全線のレールの継ぎ目に採用されるまでにいたります。
ハードロックナットの勢いは、その後さらに増し、韓国や台湾、イギリス、ドイツなどの鉄道にも採用され、じつは東京スカイツリーにも約40万個使用され、国内外問わず絶大な支持を得ています。