ドライバーを除いては、ほとんどの人が意識をすることがないであろう「道路標識」。だが日本全国には、知られざる奇妙珍妙な道路標識があった! マニアでなくともニヤニヤせずにはいられない、奥深い世界をご堪能あれ。

 先日、筆者の家の軒先にツバメが巣を作り始め、いつの間にか卵まで産まれていた。かわいいけど、玄関をフンだらけにされるのはちょっと困る。というわけで対策をネットで検索していたら、えっと思うような規定があることを知った。

 実は卵ごと鳥の巣を壊してしまうと、鳥獣保護法違反で1年以下の懲役または100万円以下の罰金が課されるのだという。うっかり壊しちゃいました、ではすまないのである。ヒナたちは立派に成長して先日無事に巣立っていったが、世の中には知らない決まりごとがたくさんあるものだと思い知った次第であった。

 知らないことが山ほどあるのは、交通ルールも一緒だ。たとえば、「自転車は2台横に並んで走ってはいけない」という規定を、ご存知の方はどれくらいいるだろうか。友達と走っている時などついついやってしまいがちだが、これは立派に道交法違反で、2万円以下の罰金を課されることになっている。

 もっとも、違反となるのは車道で2台が並走したケースであり、歩道での自転車の並走は禁止されていない(もちろん自転車走行が可能な歩道に限る)。もちろん安全を考えれば、歩道であっても並走すべきではないだろうが。

 さて、この「自転車並進禁止」の規定には例外がある。

車道でも、追い越しなどでごく一時的に並走する場合は、違反とはならない。もうひとつ、「自転車並進可」の標識があるところは、例外として並走が可能であると規定されているのだ。

 だが、そんな場所を見たことがあるという方は、たぶんまずほとんどおられまい。それもそのはず、この「自転車並進可」が設置されている道は、全国でたった2ヶ所しか知られていない。

 以前、自転車関連の標識にはレア物が多いと書いたが、その中でもチャンピオン級の貴重品なのだ。

◆幻の「自転車並進可」を求めて、滋賀県へ

「自転車並進可」の標識は、青地の正方形の中に自転車に乗った人の正面図が並んでいるデザインだ。自転車関連の道路標識は数多いが、ほとんど自転車を横から見た絵柄であり、正面図はこれだけである。前からのシルエットだけで自転車を表現するのはなかなか大変だったろうな、と余計な心配をしてしまう。

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写真を拡大 「自転車並進可」標識

 先日、そのウルトラレアな一品を見学する機会があった。琵琶湖東南岸の街、滋賀県野洲市にそれはある。

 駅からレンタサイクルをこいで、国道477号を目指す。この477号、もう少し西へ行くと、狭い道幅、強烈な急坂、荒れ果てた路面と三拍子揃った、京都市内とは思えぬ「酷道」区間があることで、一部では大変に有名な道だ。

一方でこうしたレア標識まであるわけだから、道路ファン的には非常に訪れ甲斐のある国道である。

 走ることしばし、目的の地へ到達する。目標の物件は、琵琶湖へ注ぐ家棟川沿いのサイクリングロードにある。ついにレア標識界のレジェンド、「自転車並進可」とご対面である。

全国で2カ所だけ。幻の道路標識を求めて滋賀県・琵琶湖へ向かった
写真を拡大 伝説にめぐり逢えたこの感動。
全国で2カ所だけ。幻の道路標識を求めて滋賀県・琵琶湖へ向かった
写真を拡大 けっこう年季が入っている。◆国道を挟んだ反対側にも

 標識が設置された「やなむねサイクリングロード」は、国道477号と交差して走る自転車及び歩行者専用道路で、国道を挟んだ反対側にも「自転車並進可」標識が設置されている。この他にも、サイクリングロード上の数ヶ所にこの標識が立てられているようだ。

全国で2カ所だけ。幻の道路標識を求めて滋賀県・琵琶湖へ向かった
写真を拡大 国道反対側の「自転車並進可」標識。

 一緒に立てられている標識には、「バイコロジー自転車道整備事業」の文字がある。バイコロジーとは聞き慣れない言葉だが、ウィキペディアによれば「バイク」(自転車)と「エコロジー」の合成語として、1971年に提唱された概念だという。無公害の自転車交通を推進することで、環境問題の解決を図ろうという考え方だ。この思想に沿って、多数の自転車が行き交える道を作るべく、この標識が設置されたのだろう。

◆「並進」する自転車を待つ

 しかしその後、技術の進歩によって自動車公害は解決に向かい、バイコロジーなる言葉も死語になってしまった。この自転車道もすっかりさびれており、路面も荒れて草も生え放題という哀しい状況に陥っている。30分近くここで観察したが、並進どころか一台の自転車も通ることはなかった。これではせっかくの標識が浮かばれないということで、同行者と共に自転車を2台並べて記念撮影をしてきた。

全国で2カ所だけ。幻の道路標識を求めて滋賀県・琵琶湖へ向かった
写真を拡大 せっかくなので並進させてみた。

 このように、「並進可」標識はせっかく制定されたものの、事実上ほとんど機能していない。

 個人的には、「自転車で並進してはならない」というルール自体がほとんど知られていない以上、「自転車並進可」ではなく「自転車並進不可」の標識を作って、特に危険な場所などに立てる方が実際的ではないかと思える。

 ということで、滋賀県のこの標識は、いつなくなっても不思議ではない状況にある。「自転車並進可」の標識はあと1ヶ所、愛媛県新居浜市にあるというが、今後他に新設される可能性も低いだろう。貴重なこの標識を見に行くなら、今のうちということになりそうだ。

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