本が売れなくなる、と言われて久しい。一方で、本は人生に欠かせないものだ、なんて言われたりもする。
では実際に「本」の価値ってどこにあるのだろうか。「本がスキ」特集、第3弾は元マイクロソフト社長で、現在は書評サイト「HONZ」などを運営するインスパイア取締役ファウンダーの成毛眞氏に聞いた。(前後編の前編)本読みのプロ成毛氏「最近は本をあまり読んでいない」
なぜ頭のいい人は本を読むのか。成毛眞氏に聞く。の画像はこちら >>
 

――読書家として知られる成毛さんですが、最近はどんな本を読んでらっしゃいますか?

 最近はあまり読んでないですね(笑)。

――えっ!

 はははは(笑)。しいて言えば警察小説かなあ。

――小説ですか!?

 映画をどっぷり観るとか、音楽にハマるとか、自分の中の流行ってあるじゃないですか。本を読むということも同じなんです。だから今年はそんなに読んでないかもしれない。そもそも、月に何冊読まなきゃいけないっていう意識もないし、勉強のために読んでるわけじゃない。ノンフィクションでも、歴史小説でも、面白いから読んでるわけですから。

――読書は娯楽ということですね。

 宇宙の本も、AIの本も、僕は面白いと思っているから読んでいる。

これはためになるとか、勉強になるとかで本を読んだことなんて人生で一回もないと思う。経営学の本、例えばマイケル・E・ポーターの『国の競争優位』とかって堅い本だから、いかにも学問って感じですけど、読んでいた当時の動機は面白かったからなんですよね。実際、読んですぐに役に立つことなんてないですよ。 

 エマニュエル・トッドを読んだって、僕の人生にとって何の関係もない(笑)。だから、こういう本はインテリの娯楽ですよね。ほとんどの読者はインテリじゃないんで、読んでも面白く感じないからオススメしません。インテリっていっても学歴のことを言っているんじゃなくて、こういうジャンルが好きな人ってことですけどね。

「人が読まない本」を読むことが重要

――では、インテリでなければ本を読むことはあまり意味がない?

 そもそも人生において重要なことは、庶民とか、大衆っていうと上から目線ですけど、平均じゃないことです。多くの人がやってないことをやればなんでもいんですよ。スポーツだったら野球とサッカーよりも、もっとマイナーなもののほうがいい。巨人の試合よりも、ツールド・フランスの話が出来るほうがいいんですよ。いかに平均から逸脱するかが重要だと思います。

だからベストセラーなんて、絶対に読んじゃいけない。人が読まない本を読む、やらないことをやるっていうのは、これからの時代に特に重要になってくると思います。

――大衆に埋没しているのは危険なんですね。

 例えば、仕事。大衆的な仕事はロボットやAIに取って代わられていきます。よく、AIが発達すると無くなる仕事リストとかが話題になっていますけど、もうそういうレベルの話ではありません。ビジネスでAIを使うことを考えたら、人的ボリュームの多い仕事を狙うのがいちばん儲かるんです。具体的には、いま日本でタクシー運転手が50万人くらいいる。これをぜんぶAIに代えたら儲かるでしょう? 伝統職人みたいな、日本に数人しかいないようなものはAIに代えてもペイしないんで、やらないだけです。ということは、これからの時代、ボリュームゾーンにいる大衆がいちばん危ないんですよ。同じような仕事で群れているところほど、AIとロボットに取って代わられる。そこから脱出するためのひとつの方法が、本を読むことなんです。

――これからの時代を生き抜くためにも、読書が重要になってくるんですか?

 本を読んで、知識が増えると、いままで話をしなかった人たちとも会話が出来るようになる。話す人が増えるってことは、人生の選択肢が増えるんです。いまで言うハッシュタグを自分につけているようなものです。あるジャンルに特化して、専門家になるというのもアリですけど、それなら本物のトップレベルにならないといけないから、ちょっとハードルが高いですよね。本を読んで、多様なジャンルの知識を満遍なく増やすほうが楽は楽ですよね。

――付き合う人たちが変わると、人生も変わっていく。

 頭のいい人たちと話が出来ますからね。頭がいい人たちは、みんな驚くほど本を読んでいる。これは本を読んだから頭が良くなったわけじゃなくて、もともと頭がいいから本を読んでいるんですよ。そして、そういう人たちはだいたい社会的地位が高くて、収入も高い。これは現在の日本が、頭のいい人が稼げるような社会構造になっているからです。

――頭がいい人たちの仲間入りをするためのチケットが本を読むことなんですね。

 やっぱり才能というか、個性っていうのはひとそれぞれだから、出来ないことは出来ないんですよ。いま30歳で、これからサッカー選手のトップを目指しますっていっても難しいじゃないですか。でも、本を読むくらいなら誰でもできるし、なんとかなる可能性がある。本を読んでも頭は良くならないけど、頭がいい人たちの仲間に入るためには本を読むしかないんです。娯楽として読書しているだけで、人生が変わるかもしれない。だから「本を読め」ということです。

後編:「一流の人は『本を最後まで読まない』。その理由に続く

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