最近、地下アイドルが増えている。聞き慣れない人もいるだろうから簡単に説明しておこう。
地下アイドルのほとんどは売れているタレントがいない小さな事務所に所属しているか、事務所には所属していないフリーの女の子である。
ただ、中には大きな事務所に所属している場合でも地下アイドルをしている女の子はいる。スターダストプロモーションに所属しているももいろクローバーZが地下アイドルだったのは有名な話だ。
またライブ活動を一切せず、舞台やグラビア、撮影会を中心に活動する人のことを地下タレントと呼ぶ。地下アイドルと地下タレントの違いはライブ活動をしているか否かだが、最近はそれをごちゃ混ぜにする傾向もある。
そのため、この記事では地下アイドルも地下タレントも一括りに地下アイドルと呼ばせてもらう。
好き好んで地下アイドルをしている人もいるが、それは本当に稀。ほとんどの人は出たくてもメディアに出られないため、仕方なく地下で活動している人ばかりだ。そして中にはそんな自分の状況を打破するために〈ヌード〉や〈セミヌード〉になることを選択する地下アイドルもいる。
そんな裸になった地下アイドルを取材してみた。彼女たちはなぜ裸になったのか。
今回インタビューをしたのはグラビアアイドルとして活躍している、28歳の青木結さん(仮名)。
女性の体のフォルムが好きだからという理由でグラビアアイドルとしての活動をスタート。現在は撮影会などでグラドルとして活躍するのと同時に、楽器演奏者としてライブのサポートをしているとのこと。
小柄で可愛らしい見た目の彼女だが、色っぽいオーラと舌足らずなしゃべり方がエロさを際立たせている。そこまで地上に露出しているわけではないが、熱狂的なファンに支えられ、芸能関連の仕事だけでなんとか生活ができているそうだ。
「芸能界に入ったきっかけはスカウトでした。原宿を歩いているといっぱいいるじゃないですか?いくつかの芸能事務所から声をかけられて、その中でまともそうなところに入りました。その時は音大に通っていたんですけど、色々挫折を味わっていた時で。ちょうどいい機会だから、グラビアに専念するために大学を中退して芸能一本に絞ったんです」
最初はグラビアを中心に活躍していたが、次第にアイドルや芝居、バンドなど様々なことに挑戦した。
「活動をしていくうちに、なにがしたいの? なにがやりたいの? ってマネージャーをはじめ色んな人に聞かれるんですよ。
そんな時に、事務所から恋愛映画の主演オーディションの話が舞い込んだ。
ミニシアターでの上映だが、全国公開が約束されている。また、宣伝のために雑誌などに掲載もされるという。
うまくいけば、地下アイドルから脱却できるチャンスを掴めるかもしれないと思った。
ヌードになる瞬間「主演になったら脱ぎありだけど受ける? ってマネージャーに言われて。その時は、仕事もそんなにうまくいってなかった時期だったし、受けることにしたんです。私は女優をやるんだったら脱いでもいいって昔から決めてたから。生半可な気持ちでこの業界にいるわけではないから、女優をするなら脱いでもいい。映画の必要なシーンだとしたらやってもいいなって思ってて。
芝居の経験はほとんどなかった彼女が、いきなり恋愛映画の主演。しかもヌード。合格後、悩んだりはしなかったのだろうか。
「受かっちゃったし、やるかって感じ。脱ぐってことよりも映画の主演だから、そのことの方がプレッシャーでしたね。いいのかな、私でって。でも選んだのは監督だし、制作側だから私は自分のできる限りをやればいいやって」
その考えは撮影中も、ヌードになる瞬間も変わることはなかった。
「脱ぐことに対する極度のプレッシャーは感じてませんでした。事前に説明を受けてたし、そういう流れなんだなって。むしろスタッフの人の方が気を遣ってくれてました。監督とかカメラマン以外は全員女性スタッフにしてくれるとか。撮影にカットがかかる度にガウンをかけてくれたりして(笑)自分が思ってるよりも、脱ぐことは重大なことなんだなって感じました。
無事に映画は完成。劇場公開後、全国流通もした。レンタルビデオ屋で映画を見かけることもできるようになり、色んなところで彼女の姿を見かけるようになった。
世に出る喜びの裏側「自分が出てる作品が世に出るってなかなかないから、普通に嬉しかったです。あの時は雑誌に載ったりとかも全然できないタイミングだったから。流通して人目に触れる仕事をした意味では、あー、ちゃんと芸能の仕事できてるって思いました。だからその時は脱いだことに対して、むしろ良かったなぁって」
実際に私も映画を見たが、脱いだだけでなくセックスシーンもあり、ファンにとってはなかなかの衝撃作だったといえるだろう。映画出演後、ファンの反応はどうだったのだろうか。
「あー複雑そうでしたね。脱いじゃったのかぁ、って気持ちと主演おめでとうって気持ちがごちゃ混ぜになってるみたいでした。でも自分が決めた道だからってその時は説明してましたけど。実際に映画を見てくれたファンの方と撮影会やライブ会場で会った時は、なんとなく気を遣ってくれているのがわかってちょっと面白かったですね(笑)あとツイッターで映画見ましたって言ってフォローしてくれる人や、映画を見てから私のイベントに足を運んでくれる方も若干数ですがいましたよ」
映画主演後は、仕事のオファーも増えるようになる。
「脱ぎ仕事のオファーはすごく増えましたね。ヌード写真集出しませんかとか、フライデーの袋とじとか。でも、全部断りました。脱ぎ仕事だけになっちゃうのは絶対にいやだったから。ヌードはお芝居以外でやるって選択肢はありませんでしたし。あと映像の仕事が増えたかな。主演映画の監督の作品には何度も出たし、監督の友達の作品にも出させてもらったりしました。だからこの時は壇蜜さんのように、脱ぎもできる女優に私はなって行くって思ってたんですが…やっていくうちにお芝居が自分のやりたいことじゃないんじゃないかって思ったんです」
映画主演の後、映像や舞台などで芝居の仕事が増えたが、日に日に違和感を覚えていく。
「こんな仕事をしていてなんなんですけど、私って自己顕示欲がないんですよ。お芝居を通して人に何かを伝えるみたいな欲がなくて、頑張れないんです。グラビアとか楽器演奏なら頑張れることも、お芝居だと頑張れない。たぶん言葉が苦手なんです。
脱ぎのできる女優という軸がブレたその時、ヌードの意味がまるで違うものとなった。
「脱ぎ」は足かせとなるのか「グラビアやCMオーディションを受けても脱いでるのねって思われて書類が通らなかったりするんですよ。だから今は脱がないで済むなら脱がない方が良かったなぁ~と。脱がないで仕事があって、脱がないでも注目を浴びれることができるんだったらそれに超したことはないですから。自分のタレントの価値を考えるのなら、脱がなかった方が価値を高められた可能性が高いと思います。でもあの時は女優としての道もあったし、私がグラビアと楽器演奏で芸能活動していくなんて想像してなかったですもん。だから今同じ状況に戻っても、また同じことをすると思います。だから、後悔はしてません。」
その後も「後悔はしていない」と自分に言い聞かせるようにつぶやく彼女。しばしの沈黙が流れた後、私は彼女に今の夢を聞いてみた。
「グラビアと楽器演奏者、2足のわらじで頑張る。先駆者がいないからどんな風に活躍できるのかわからないけど、両方頑張りたい。そして、芝居はもうしない。心を鬼にして、オファーがあっても断る。そう決めてから、本当に心が軽くなって幸せになったんです。映画主演をしたおかげで、お芝居が自分にとって不必要なものだって知ることができました。この経験がなかったら今の私はいないと思います。今は、ありきたりだけど、自分にしかできないことをやっていければいいなって思ってます」
彼女はそう笑顔で今後の展望を語った。
脱ぎありの映画に出演したことは現在の彼女にとって足かせになる場面は多々あるようだが、それも自分が決めたことだからと前向きに生きている。彼女に熱狂的なファンが多い理由がわかった気がした。