戦国時代の武将や兵たちは、長い刀と短い刀、どっちを好んだのか。『歴史人』3月号で、その実態について解説している。
「戦国武将たちの間では、刀の価値を語るとき、どこにその力点を置くかという根本論はあるにせよ実用議論も行われていた。そのなかでも、よく論じられていたのは佩刀(はいとう)とする打刀について『長い』『短い』どちらが戦いの場において有利かというものだった。
武田家には、武田信玄が武器の得失を重臣たちに語らせた『武具要説』が残されている。これによると、それぞれの武将ごとに違った言い分があって面白い。その中でも刀の長さなど関係ないといっているのは小幡虎盛。『刀の長短は余り関係なく、勝負を左右するものではない』と論じている。
一方、武田家古参の猛将・原虎胤は『長い刀は指し主の腕次第で利のあるものであり、小さい刀で冑の真っ向を打ったところで相手が死ぬほどに割れるものではない』と、腕があるのであれば長いほうが有利と考えていたように見受けられる。同様に横田高松も『長い刀で戦うと次第に切っ先が下がる。しかし、腕があるならば長い刀が良い』と虎胤の考えに賛同している。
また、後世に軍師としてその名を馳せた山本勘助も『卜伝は本気のときは、三尺の刀を用いた。長い刀の扱えない場所では短いもの仕留めた』と塚原卜伝を引き合いに出して論じ、長いほうが有利と論じている」(文・山河宗太、監修・鈴木眞哉)
武勇の誉れ名高い武田家では、実戦を想定した議論がなされていたようである。
「大坂の陣で活躍したことで知られる後藤又兵衛。『長沢聞書』によると、又兵衛は『徒歩武者の刀は長いほうが良い』といっている。おそらく徒歩武者は槍を持たないから、少しでも長尺の武器を手にしたほうが有利である』といっていたとされる。
こうしてみると、長いほうが有利という意見ばかりだが、少数派ではあるが刀は短いほうが良いと論じる武将もいる。『細川幽斎覚書』によると、細川幽斎は『日常なら長めの刀も抜けるが、具足の上に絡んで差した場合には抜き難いから陣刀は刃渡り2尺2寸~3寸くらいが良い』と短いほうを推している。いかにも戦場での経験が豊かな武将らしい意見といえる」(同)
実際に武将たちは長短どちらを使っていたのか。
「兵卒レベルでは、刀は長いほうが有利と考える武将が多かったようだ。一方武将たち本人は、実際には本陣で指揮をしているために戦わないか、持槍があったため短い刀を持つ者が多かった。ただし、上杉謙信のように自ら馬上で戦う武将は槍に対抗するため長い刀を持つケースもあったというのが現実ではないだろうか」(同)
やはり戦うことを念頭に刀を選んでいたようだ。
〈『歴史人』2018年3月号「日本刀大図鑑」より〉