さて、パンターの特徴を見てみよう。
まず、同車にはドイツ戦車として初めて避弾傾始(意味は2018年02月21日配信の拙稿「無敵重戦車ティーガーI戦記:第3回」を参照のこと)が導入された。その結果、硬い装甲板をただひたすら分厚くして正面からがっしりと敵弾を受け止めるティーガーIまでの装甲防御とは異なり、粘りのある装甲板で斜めに敵弾を受け、靭性と角度により装甲板表面を滑らすことで貫徹を防ぐという装甲防御の考え方に変わっている。
次が「パンターの牙」こと長砲身70口径7.5cm KwK 42戦車砲である。同砲は本車に搭載するために開発された。とはいえ、ドイツ軍は火砲の開発にかんしてきわめて合理的で、4号戦車初期型用に短砲身24口径7.5 cm KwK 37戦車砲を開発。続いて同戦車後期型用に中砲身43口径または48口径7.5 cm KwK 40戦車砲を開発し、この長砲身70口径7.5cm KwK 42戦車砲へと至っている。
ちなみに「口径」とは砲腔の口径、すなわち7.5 cm戦車砲の場合は7.5 cmを示すが、砲身の長さを示す際にも用いられ、その場合は7.5cm×24口径とか7.5cm×70口径のように、砲腔の口径にかけた数字で砲身の長さが表される。
いずれの7.5cm戦車砲も弾薬に互換性はないが、砲腔口径が同じ7.5cmなので、生産に用いられる工具や冶具にはある程度の互換性が得られるという合理化ができた。
弾薬にかんしても、KwK 42はKwK 40と同じ砲腔口径7.5cmながら使用する弾薬の薬莢が大きく、発射薬が多く充填されていた。そのためKwK 40はもちろんのこと、ティーガーIの56口径8.8 cmKwK 36戦車砲よりも装甲貫徹力が勝っていた。
なお、この7.5cm 戦車砲各種における関係と同じことが、ティーガーIの8.8 cmKwK 36戦車砲とティーガーIIの71口径8.8 cmKwK 43/2戦車砲の関係にもいえる。
エンジンには、戦車用として定評のあるマイバッハ社のHL210~230系が用いられた。ただ、使用されている平歯車と構造上の関係で、ファイナルドライブのトラブルが起こりやすい傾向があり、これがパンターの弱点のひとつとされることもある。だが別の視点では、あえてファイナルドライブを駆動系トラブルの「緩衝材」とすることで、エンジンにまで損傷を波及させないという意図的な発想での設計ともいわれている。
こうして誕生したパンター中戦車は、面白いことにD型が最初の量産型となり、続いてA型、G型、そして試作のみに終わったF型と、常識的なアルファベット順を無視して生産されたのだった。なお、全型合計の総生産数は5995両(異説あり)。