昭和から平成にかけて大きく進化を遂げたものといえば、通信環境ではないだろうか。戦後間もなくは自宅に固定電話がある家庭は少なかったが、いまでは1人1台、携帯電話やスマートフォンを持っているほどだ。
携帯電話も、バブル期に象徴されるショルダーフォンからトランシーバー型となり、平成になるころには手のひらに収まる小型タイプが登場。いまではアンテナが内蔵され、さらにコンパクトになっている。
こうした進化の歴史のなかで、廃れてしまったものもある。それは「ポケットベル」だ。サービスが開始されたのは、1968年と意外と古い。最初は音が鳴るだけのシンプルなものだったが、数字が表示されるようになると、「ベル文字」ともいわれる語呂合わせのメッセージを送信することも可能になった。
たとえば、「おはよう」なら「084(0840)」と数字を打ち込む。これが当時の女子高生らに流行し、休み時間になると公衆電話に列をなして、他校の友だちにメッセージを送ったものだ。
語呂合わせを表にした書籍なども多く発行された。こうしたものを参考にしても、自分の伝えたいことを数字のみで表すには限界があり、試行錯誤が重ねられた。そのため、オリジナリティがあふれすぎると謎の暗号と化し、解読するのが大変だったものである。
「81105110(バイトファイト)」など、難読ベル文字もあったが、そのなかでもポケベル世代の筆者が解読できなかったのが「084 065」だ。前半は「おはよう」であることは理解できたのだが、後半がまったくわからない。おそらく送信者の名前なのだろうが、現在のようにどこの誰から送られてきたかもわからないので、確認する術もなかった。
しばらくこの謎が解けなかったのだが、ある日、久しぶりに他校の友だちに会ったときに、彼女が送ってきたことが判明。ポケベルを購入し、試しに番号を知っている友人にメッセージを送ったのだという。
この「065」は「のりこ」と読むそうだ。0はノー、6は六(りく)から、5は「こ」と読む。しかし、彼女の名前はのりことは程遠い。なぜこのような署名をつけたのかといえば、自分の名前を数字にあてはめることが難しく、好きなタレントに由来したとのことだった。
文字変換ができるようになるまで、当時はこの解読作業に追われることも珍しくなかった。一見すると無駄な時間を過ごしたように思えるが、こうした語呂合わせのバリエーションが増えたことにより、歴史年号を覚えることにも役立っている。
いまではこのような苦労をしなくても、文字で手軽にメッセージを送ることが可能。
4月9日発売の『一個人』5月号では、「平成史と年号のフシギ」という特集を展開。「平成 流行クロニクル」という企画では、携帯・スマホの歴史も振り返っている。かつて流行した懐かしい端末を見ながら、当時の思い出を振り返ってはいかがだろうか。