いわゆる機関銃は、小銃弾を連射するので威力がある。だがその反面、兵士が一人で気軽に取り扱うには反動が強いうえ大きく重すぎた。そこで第一次大戦では機関銃の軽量化が図られたが、これは、いわば使用する弾薬から見たボトムダウンといえる。
一方、威力は弱いが反動も弱い拳銃弾なら、大きく重い銃でなくとも容易に連射が可能だ。しかも、いくら弱威力とはいっても近接戦闘であればさほど問題にはならない。かような理由で第一次大戦中、ドイツは拳銃弾を連射する銃を短機関銃(マシーネンピストーレ)として実戦配備。塹壕戦での近接戦闘兵器の位置付けで重用した。これが使用する弾薬から見たボトムアップであり、誕生したのがMP18短機関銃だった。
こうした第一次大戦時の戦訓により、ドイツ軍は短機関銃の有用性を熟知していた。そこで同大戦敗戦後の再軍備化に際して新しい短機関銃の開発を進め、誕生したのが、ワルサーP38と同じ拳銃弾の9mmパラベラム弾を使用する本銃MP38である。
1938年に制式化された本銃は、従来の短機関銃とは異なり木材をまったく使わず、鋼材とわずかなプラスチックだけで造られた世界初の短機関銃だった。鋼材削り出しのレシーバーとアルミ合金製のグリップ・フレームを備えていたが、省力化と資源節約のため、レシーバーをプレス加工に、グリップ・フレームの素材を鋼材にそれぞれ変更した部分改修型のMP40へとやがて生産が移行。そのためMP38/40とも呼ばれる。
戦時中、連合軍の情報機関が、本銃の設計はドイツ屈指の優秀な銃器設計技師であるヒューゴ・シュマイザーが担当したという誤情報を味方に伝えたため、本銃は連合軍側から“シュマイザー・サブマシンガン”と称されることも多い。だが実際にはエルマ・ヴェルケ社が開発した。また、G.I.たちは本銃の独特の連射音から“バープガン(バープとはゲップの意)”の通称でも呼んだ。
生産総数は約1100000挺(異説あり)。信頼性が高く性能も優れていたため、鹵獲した連合軍将兵は本銃を鹵獲すると好んで愛用した。特にイギリス軍は同じ9mmパラベラム弾を使用する短機関銃ステンガンを配備していたため、鹵獲銃ながら弾薬の供給には不自由しなかった。戦後には、ドイツが占領していたヨーロッパの各地にまとまった数で残置されていた本銃が、ヨーロッパ、アフリカ、南米の小国へと転売輸出され、軍用や警察用として装備されている。
【要目】
使用弾薬:9mmパラベラム弾
全長:630mm/832mm(折り畳み式ストック展張時)
銃身長:248mm
重量:約4kg
ライフリング:6条右回り
装弾数:弾倉32発(ただし給弾不良防止のため戦場での装弾数は28~30発程度に抑えられた)
作動方式:オープンボルト・ストレートブローバック
発射速度:毎分約500発