ブルーピリオド(1) ©︎山口つばさ/講談社ブルーピリオド
山口つばさ 著
講談社刊
既刊2巻
■あらすじ
成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎(やぐち やとら)は、ある日、一枚の絵に心奪われる。その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。美術のノウハウうんちく満載、美大を目指して青春を燃やすスポ根受験物語、八虎と仲間たちは「好きなこと」を支えに未来を目指す!(Amazon.co.jpより)
■掲載誌
月刊アフタヌーン(2017年8月号~連載中)
■公式ホームページ
【http://afternoon.moae.jp/lineup/832】
■ 美術から遠そうな人を主人公にしたかった。
――まずは美大受験×スポ根という設定がどうやって生まれたかをお伺いできますか。
山口 高校と大学が美術系だったこともあって、ずっと美術のマンガを描きたいとは思っていたんです。業界のこととか、お金のこととか、簡単なノウハウとか。ですけど、美術に明るい主人公より、なんにもできないところから読者と一緒に追っていく話にしたくて美大受験から始めた感じです。
――たしかに美術のことなんて何も知らない八虎ですが、それ以外のことは大抵出来てしまう器用さがありますよね。
山口 いかにも美術から遠そうな人を主人公にしたいというのがあって、見た目はヤンキーっぽく(笑)。
――たしかに八虎は一度のきっかけでパッと絵に目覚めるわけではなく、オールした朝の渋谷を青いと感じ、先輩が描いた絵を見てハッとして……その後も感情や偶然が重なり合って心が動きだします。ちなみに、八虎が初めて心を動かした瞬間を朝の渋谷にしたのは?

山口 松本大洋先生が『青い春』のあとがきで夜明け前の街の色は青いみたいなことをおっしゃっていて、めっちゃカッコいいなと思ってずっと印象に残っていたんです。(どれだけ情熱を燃やそうと 血潮を滾らせようと青春とはやはり青いのだと僕は思います。それはたぶん 夜明け前 街の姿がおぼろげにあらわれる時の青色なのだと思います/松本大洋『青い春』より)
――おぉ! そうだったんですね。八虎は初めて間近で油絵をみて、絵の中のモチーフの視線が動いたように感じます。ああいった表現はどこから生まれたんですか?
山口 モネの絵って、画集でみると「キレイだな」くらいの感じなんですけれど、実際にみると絵がちょっと揺らいで見えたり、VRみたいにその場に居るような臨場感があるんですよね。その経験をめっちゃ過剰に表現した感じです。
――そういえば、山口さんがお描きになる決めゴマも、iPhoneのLive Photosみたいにちょっとだけ動いているように感じることがあります。
山口 いやいやいや。もし、通常の描き方と違う点があるとすれば、普通のトーンは点々が均等ですが、私は一度墨でバッと塗った紙をスキャンしてトーンとして使っているんですね。マーブルっぽいというか、水彩っぽい感じになるんですが、もしかしたらそれかなあ。
山口 ですね。2巻ではほぼ泣いてる(笑)。最初は斜に構えたヤツだったんで、それとは対照的に子供っぽさとか、感情的な部分を出すために泣きのシーンを多くしています。
――八虎を美術部に入るよう仕向けた女装男子のユカちゃんも印象的なキャラクターです。

山口 八虎が好きなものを好きといえないキャラクターなので、反対のキャラクターを出したかったというのがあります。
――入学式に女装で現れたユカちゃんですが、特別扱いされたがっている訳ではなく、言いたいことはズバッと言い、周囲もそんなユカちゃんのことを受け入れていて。見ていて気持ちいいキャラクターですよね。
山口 狙いとしては変人キャラだけど、徐々にそうじゃない感じにもっていきたいと思っていて。次に発売の3巻ではその辺りが出てくるのでお楽しみに。
――天才タイプの世田介も印象に残りました。初めて描いた胸像のデッサンが死ぬほど上手くて、八虎に「無音の絶叫が俺の中に響いた」と言わしめる。ああいう天才って実際にいるものなんですか?
山口 デッサンがめちゃくちゃ上手い人ってたまにいるんですよ。あの絵を描いてくれたのは私の友達なんですが、高1のときのもので、デッサンも2枚目か3枚目という。凄いですよね。
――ひゃー! 大学は美術系の学校だったという話ですが、その頃描いていた絵とマンガはどういうところが違いますか?
山口 別物というか、そもそも伝えられる情報量が違うじゃないですか。それで、自分が言いたいことは絵画よりマンガという媒体の方があっているなと思ってマンガにいった、というのはあります。アートは社会への問題提起的なニュアンスが強いですが、マンガは読んで追体験するとか、もっと身近で愚痴っぽい話とかも伝えられるかなというのもありました。
――確かに“熱さ”を追体験している気がします!
(後編に続きます)

■著者プロフィール
山口つばさ東京都出身。四季賞2014年夏のコンテスト佳作。現在、「アフタヌーン」にて『ブルーピリオド』連載中。その他の単行本に『彼女と彼女の猫』(原作:新海誠)