それを経験していない人には信じられないことだろうけど、いわゆる「バブル」のとき私はこれが永遠に続くと思っていた――。新刊『バブルを抱きしめて』を上梓した島村洋子さんが、平成になじめなかった同世代達にエールを送る!■笑いの対象だった昭和

――時代を画すと言えば、この書名にも入っていますけど「バブル」はどうなんでしょう。

島村 バブルって平成でパーッと花開いたはずなのに、昭和がよかったというとき、バブルは完全に自分たちの時代のものだというイメージもってますよね。

 昭和63年の終わりから翌年にかけて、テレビで連日昭和天皇のご病状がテロップで流れていたりして、浮かれてはいけないという自粛ムードが世間を覆ってたじゃないですか。

 でも、あの頃の日本ってずっと景気よかったんですよね。

――それでいよいよ次の時代が、と思ったら新しい元号が「へーせー」だったと。

島村 メイジみたいに濁音があるとか、ショーワみたいに小さい字が入っているとか、そういうのが欲しかったですね。いまさら言ってもしかたないけど。

――まあ、その平成が来年の4月で終わるわけで、これから平成がどういう時代だったのかって総括されていくんでしょうが、どうなんでしょうね。後世の人間から見て平成は。

島村 昭和っていまの若い人からすると笑いの対象ですよね。平野ノラの携帯とかね。なんだあのデッカイ携帯電話はって……。なに言ってんだ、デカイのは電話じゃなくて電池なんだよ、と私は言いたいわけですけども。

――そういえば「大きいことはいいことだ」という言葉が流行しましたね。昭和43年頃かな。冷蔵庫にしろ、クルマにしろ、なんでも大きいほうがいいとされていた時期がありました。

島村 政治家にせよ、実業家にせよ、あるいは犯罪者にせよ、なにか人間のスケールも大きかったでしょ。とてつもない金持ちとかいて。いま投資だとか仮想通貨なんかで儲けてる人とか、あるいはゾゾタウンの社長がいくらすごいと言っても、なんかいちいちスマートでしょ。

――仮想通貨の流出騒ぎで記者会見に出てきたコインチェックの社長なんか子供に毛が生えたみたいな坊っちゃん顔でしょ。それが何百億という金を個人でもってるんですよ。昭和じゃ考えられないですよ。

島村 昭和の金持ちはなんかもっとエグかったでしょう。不動産屋の社長みたいな、見るからにインチキ臭い山師みたいなのが謎の美女とか連れててね。札束で人の横面張るみたいなね。

仮想通貨や電子マネーではそういうことができない。つまらない時代といえばつまらないですね。

■「わざわざ感」

――島村さんの本を読んでいてひとつ面白いなと思ったのが「わざわざ感」という言葉なんですよ。若い人たちが便利なことやモノをあえて避けてわざわざ面倒な方を選ぶという。超高性能なデジタルカメラがあるのにわざわざフィルムのカメラを使うとか、音楽もデジタルじゃなくてあえてレコードで聴くとか、最近ではカセットテープが復活してるらしいですし、個室ではなく、あえて長屋だとかシェアハウスに住むとか。昭和にもレトロブームはありましたけど、趣きがちょっと違ってますよね。

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島村 それこそベタな解釈をすれば、便利になりすぎた世の中に対する反動なんでしょうね。本にも書きましたけど、例えばデートで待ち合わせをするとなったら、それこそ場所と時間を間違えることは絶対にあってはならないこと。死活問題でしょ。

 だから私は待ち合わせとなったら「紀伊國屋書店梅田店新潮文庫三島由紀夫前」と決めてましたから。これなら多少待たされたとしても棚にある本読んで過ごせますから。

 けど、これがあんまり売れてない作家のコーナーだとダメなんです。

狭すぎて。だから星新一でもよかったんですけど、私は三島由紀夫。

 でも、いまの待ち合わせってものすごくアバウトでしょ。「渋谷にだいたい3時くらい」で会えるんだから。スマホのおかげで。すれ違うこととかほとんどありえない。途中で事故に遭ったとか、急用ができたとか、なんかのトラブルで会えなかったらどうしようというドキドキ感はゼロでしょ。

 そのための駅の改札口の伝言板なんだけど、平成生まれに話しても知らないですからね。

「わざわざ感」を大事にするようになった今どきの若者
「平成になじめなかった女」島村洋子さん
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