小さいこと、昔はコンプレックスでした。小学校、中学校、高校と、…たまに2番がありましたけど、学校でもだいたい1番前。中学1年生のときで138センチだったかな。嫌だったのは、集合写真のとき。別にいじめられていたわけではないんですが、友達から「はよ前に行けよ」と言われて前に座るのが嫌で。
大きくなりたいと思って中学時代は牛乳を1.5リットル、毎日飲んでいました。1リットルじゃ足りないと。毎日夜中下痢に悩まされながら続けました(笑)。でもあまり効果はなかったですね。
結果的に小さかったからこそ、負けず嫌いになれたのかもしれません。大きい人には負けたくなかった。高校時代は体格のいいチームメイトと、トレーニングのたびに張り合っていました。彼が100m走ったらぼくは110m、また彼が120m走ってぼくが130m…。そんな感じで競い合っていくうちに高校日本代表にも選んでもらいました。高校の先生には「お前は小さくてもスピードがある」と言われ、そこから「スピード」も小さい自分の武器として意識するようになりました。
■小さいぼくは狙われる。それを逆手に。
あとは、とにかく頭を使った。めちゃくちゃ考えました。
ぼくは試合で、「小さい田中を潰そう」と狙われることが多いのですが、それを逆手にとろうと。アタック(攻撃)で、相手を限界までひきつけて、タックルを受けながら空いているスペースにパスして、他の選手を抜けさせる。自分が起点になって味方をいかすプレーを意識しています。他に考えたのは、球捌きのときの“出すフリ”作戦です。ボールを触って球出しをするフリをして、止める。そうすると、我慢しきれずに飛び出してきた相手からオフサイドをもらえる。とくに、プレッシャーがきつかった日本代表、スーパーラグビーではよく使いましたね。いまでこそ、日本の9番は結構このプレーをしていますが、ぼくがやり始めたときは、他にやっている選手はいなかった。自分の頭で考えたんです。
ディフェンスでも、考えたプレーがありました。
自分の中で「小さくてもできるんだ」という、手応えをつかんだ試合があります。2007-2008年シーズンのトップリーグプレイオフセミフィナル・東芝戦。ぼくのパスミスが原因で決定的なトライをとられてしまいます。「もう負けた」と思いました。
ラグビー王国、ニュージーランドもじつは小さい選手は多いです。たとえばスーパーラグビー・ハイランダーズで同じ9番の座を争ったアーロン・スミス。彼は身長170センチあるかないか。同様にスーパーラグビー・サンウルブズにいるジェイソン・エメリーも小さい選手ですが、センターとフルバックをこなし、決してパワー負けしません。彼らは「小さいから」という言い訳をしない。そのかわりに、とにかく一所懸命トレーニングします。
人より背が小さくたって、関係ない。サイズがないのであれば、そのサイズでできることをやるだけ。ぼくの場合はかわりに、スピードをつけたり、考えてプレーするようにした。いまなにかコンプレックスを抱えている方も、そこに悩んでしまうよりは、じゃあ自分には何ができるか?とプラス思考で向き合ってみてはどうでしょうか。そうすれば、もっといい自分が見つかるはずです。