本サイトの5月23日付記事「海上自衛隊広報室、トンデモ対応の一部始終 問題室員は懲戒処分を検討する手続きへ」で報じた、懲戒手続き請求へと発展した事例のほかにも、海幕広報室員の非常識ぶりが、訴訟沙汰となった案件もある。

 2010年、自衛隊取材を専門とするフリーカメラマンは、この年に実施された「カナダ海軍創立100周年記念観艦式」の取材を行うため、カナダ出発前、海幕広報室に表敬訪問したい旨、申し出た。

だが、この表敬訪問は実現しなかった。

「海幕広報室のB・3等海佐(当時、仮名)より、私が『違法な方法でカナダへのビザを取得したという情報があるところから寄せられたため、海上自衛隊は法令を遵守するところなので、お断りします』という連絡が来ました。私は違法な方法でビザを取得したわけでもないのに。失礼な話です」(フリーカメラマン)

●罪もない国民を犯罪者呼ばわり?

 事実、このフリーカメラマンのカナダ入国は、合法な手続きに則って行われたものだ。何ら違法なものではない。この取得ビザの合法性については、カナダ大使館もその旨を証明している。

 にもかかわらず、このB・3等海佐は、何者かからの「違法な方法でビザを取得した」という伝聞に基づく虚偽の話を真に受け、フリーカメラマンの声には一切耳を傾けることなく、誤解を解きたいというフリーカメラマンの面会要望も拒否したという。

 こうした対応に憤ったフリーカメラマンは、海上自衛隊内の隊員の規律違反などを調べるセクションと思われた海幕監察官【編註:実際には、隊員の規律違反行為を調査、処分するのは海幕補任課服務室】に、この件を連絡した。

●3年後の「詫び状」

 その結果、2012年5月に、海幕広報室長(1等海佐)の名前で、簡易書留の文書が届いた。その内容は次のようなものだ。

「当時の対応について、広報室員に確認したところ、誤った伝聞にもとづき、これを確認することのないまま、あたかも不正行為が存在したかの如き内容の電子メールを送信するとともに、それが事実無根であったことを確認した後も、誠意あるお詫びを申し上げていなかったことが判明致しました。今更ではございますが、まずは謝罪が遅きに失したことをお詫び申し上げますとともに、改めて当時の非礼についてもお詫び申し上げます」

 カナダへの取材時の対応から、海幕広報室長名での「詫び状」が届くまで、実に3年の月日を要している。

この間、フリーカメラマンは、カナダ大使館や外務省などに、事実無根である旨の証明を行ってもらい、そうした努力の末、ようやく海幕広報室からの謝罪を引き出したことになる。

●「詫び状」後も、誹謗中傷の嵐、「2ちゃんねる掲示板」への書き込みも

 しかし、この海幕広報室長名による詫び状で幕引きとはいかなかった。この「詫び状」以降、海幕をはじめとする海自関係者らから、このフリーカメラマンに関する悪意を込めた人物評が、海幕のみならず、全国の海上自衛隊各部隊で語られるようになったからだ。加えて、明らかに海上自衛隊関係者しかわからない、このフリーカメラマンに関する個人情報がサイト「2ちゃんねる掲示板」にまで、書き込まれるようになった。

「事実関係はさておき、海幕広報室長や担当の室員が、このフリーカメラマンを『クレーマー』として扱っているという話は、海幕内での噂として耳にした。海幕広報室には、時折、広報としての資質に欠ける人も配置されているように思えてならない。広報室員でもない自分のところにまで、『取材にきたカメラマンが広報室員の対応に因縁つけてる』とか、そうした話が伝わってくること自体、正常な状態ではないので」(海幕勤務・現役幹部自衛官)

●海幕広報室の心ない対応、ついに司法の場へ

 こうした海幕広報室員の心ない対応もあり、ついにこのフリーカメラマンは、2013年4月15日、国を相手取った訴訟を熊本地裁に提訴。問題は司法の場で裁かれることとなった(熊本地裁 平成25年<行ウ>第6号)。
 ちなみに、この件について、海幕広報室に取材を申し込んだが、女性職員が「担当者に伝えておきます」と一方的に話し、こちらの名前、電話番号も聞かずに、そのまま電話を切った。

●間違いを間違いと認めない海上自衛隊の気質

 自衛隊の広報について伝えられている話がある。

 まず、陸上自衛隊。もし記者会見の場で、トップである幕僚長が誤った発表を行ったならば、スタッフがすかさずメモを渡す。

同じ状況で、航空自衛隊だと、「幕僚長、間違っています。○○が正しいです」と満座の中でも、きちんとスタッフが口頭で間違いを伝える。

 では、海上自衛隊はどうか。間違ったそれについて間違いを指摘されても「幕僚長が言っていることが正しいです」で通す。

 下士官で定年退職したある海上自衛隊OBが語る次の言葉が、こうした海上自衛隊の体質を物語っているのではないか。

「艦を主体とする世界なので、キャプテン(艦長、転じてトップの意味)が黒といえば白でも黒。そうすることで艦内の秩序が保たれる。陸や空自と違い、艦内では、艦長の命令が、第三者から見てたとえ誤りであったとしても、部下は忠実にこれに従うことが求められます。『艦長、これが正しいです』と意見することは認められません。自衛隊にとって都合の悪いことを書く人間は、とにかく許せません」
(文=編集部)

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