明日11月2日(土)~3日(日)の2日間、早稲田大学で学園祭「早稲田祭2013」が開催される。


 毎年約16万人以上を集客し、運営総予算は約2500万円にも上り、1つのお祭りとして見ても日本有数の規模を誇る早稲田祭は、他大学の学園祭とは異なり、大学からの資金援助もなく、学生が主催・運営し、その運営資金もすべて学生で構成される運営スタッフが調達している点に特徴がある。

また、政治家や文化人のほか、今年度のタレント・芹那やアイドルグループ・乃木坂46などの人気タレントを含む数多くの著名人が各種イベントに登場することでも知られている。

 そんな「早稲田祭2013」運営スタッフ代表の山下健志氏(商学部3年)に、

「早稲田祭運営の舞台裏」
「500人以上で構成する運営スタッフの、企業並みの組織運営とは?」
「学生の手で、どのように多額の資金集めを行うのか?」
「企画から早稲田祭当日に至る、約8カ月に及ぶ準備」
「大学や企業、警察、地元周辺との折衝の難しさ」

などについて聞いた。

--まず、早稲田祭というのはどのような位置付けで開催されるものなのかお聞きしたいのですが、大学側は運営に関わっていないのでしょうか?

山下健志(以下、山下) 早稲田祭は過去に、運営主体である学生らによる資金の不正流用や外部組織の介入などが発覚し、1997年から2001年まで中止されました。02年に再開して以降は大学からの資金提供は一切受けず、学生が完全に主催・自主運営する形態を取っています。他の多くの大学祭は、主催は大学で、運営主体である学生は大学から運営資金を提供してもらうかたちがほとんどですので、その点が私たちとの大きな違いです。

--つまり大学側は、あくまで場所を貸すだけということでしょうか?

山下 はい。場所を借りる際も、「あそこのエレベーターを使わせてください」「この教室を使います」「あの駐輪場を何時から何時まで借ります」「その門を何時に開けてもいいですか?」などと、すべて1件1件大学から許可をもらっています。

--運営スタッフの具体的な仕事について教えてください。

山下 早稲田祭に参加する一般団体の場所づくりを手伝ったり、警備計画を立てたり、来場者の対応部署や広報・会計の部署があるのは他の大学と同じですが、特徴的なのは、地域チームがあることです。早稲田祭は地域から苦情が出たら中止となるので、普段から地域との関係を構築するために、地域イベントのお手伝いなどをして関係を構築することで、その開催を維持できているという現状があります。毎月、商店会の会合に運営スタッフが出席して活動内容を報告し、大学外部と連携する取り組みを行う際などは、必ず事前に商店会に話を通します。

--運営スタッフは全部で何人いらっしゃるのですか?

山下 現在は560人で、すべて自主的に集まってくれた学生ばかりです。

組織はまず8つの部署に分かれていて、1部署がさらにそれぞれおよそ4分割されており、各組織に責任者が置かれています。いわば小さな企業のような構造になっています。

--開催期間は2日間とはいえ、約16万人もの来場者を集める大規模なものですが、準備期間はどれくらいですか?

山下 まず、1月に行われる選挙で運営スタッフ全体の代表と8つの部署の責任者が決まります。投票権は運営スタッフのみが持っていますが、外部の票が入ってしまうと、学生による健全な自主運営という観点から好ましくない組織が運営に介入する事態を招きかねないという理由で、投票権は内部のみに限定しています。実際の選挙は、細則もつくってきちんとやります。

--実際に準備がスタートするのはいつですか?

山下 3月から、まずその年の早稲田祭で何をやるのかという企画を立て始め、前年度の問題点などを整理し、PDCA(Plan-Do-Check-Act Cycle)で改善点を挙げつつ、新しいこともやっていきます。

●運営総予算約2500万円を学生で集める

--先ほど、大学からの資金援助は受けず、全額運営スタッフで集めるといわれましたが、1回の早稲田祭運営にかかる予算はどのくらいなのでしょう?

山下 約2500万円です。

--そのような多額の資金を、どのように集めているんですか?

山下 一般的に他の大学の学園祭では参加団体補助金というのがあり、学園祭に出る団体に大学から補助金が下ります。一方、早稲田祭には「参加団体分担金」という真逆の概念があり、早稲田祭に参加する団体にお金を払ってもらっています。

 この分担金でまずは約1000万円を確保して、企業協賛による渉外収入やOB・OGなど校友の方、地域の方などから集めさせていただく支援金で1000万円、そして運営スタッフが1人当たり9000円の負担で約500万円で、合計2500万円となります。

--協賛企業には大企業も名を連ねていますが、企業協賛金というのは、運営スタッフが企業を回って資金協力をお願いしていくのですか?

山下 そういう場合もありますし、新規開拓もやります。

--企業側にとって、資金を提供するメリットはなんでしょうか?

山下 私たちは早稲田祭当日に各門付近のインフォメーションにて、カラーのパンフレットを5万5000部無料配布するのですが、そこに企業様の名前や広告を掲載させていただくため、そこに一定の効果を見いだしていただいていると考えております。

--パンフレットを有料化すれば、運営費の収入源になると思うのですが、なぜ無料配布しているのでしょうか?

山下 旧早稲田祭では、もともと有料だったパンフレットを無料化する過程で資金流用事件が起こり、それが理由の1つとなって1997年に一旦開催中止となったという過去があります。なのでパンフレットを自主的に集めた予算の中で無料配布するというのは、私たちのプライドでもあります。ちなみに5万5000部というのはものすごい量で、その費用は総予算の約5分の1くらいを占めますが、それを無料配布するというのは、「学生による自主運営」の象徴でもあるのです。

--早稲田祭当日の柱としては、校舎の各教室やスペースを割り振られた参加団体によるイベントと、大隈講堂前などに設置された大きなステージ上でのイベントという、大きく2つがあると思いますが、例えば後者はどのように運営されているのですか?

山下 例えば早稲田大学放送研究会に放送のオペレーションを委託するなどして、ノウハウを持った様々な団体と協力しながらやっています。また、演目は参加する各団体がそれぞれ考えた企画をやっています。

●警察や地元商店会とも連携

--「早稲田祭2013」当日は、約500名の運営スタッフが総出で対応に当たるのでしょうか?

山下 はい。各人が担当の持ち場を持って対応しますが、例えば将棋倒しが起きて死傷者が出たら早稲田祭は即中止となるので、他の団体に手伝っていただきつつ、警備にものすごい人数を投入しています。また、警備という観点では、警察とも連携しますし、「早稲田祭2013」当日に公道を通行止めするため、やらなければならない仕事は多岐にわたります。

--山下さんは、そのような大規模なイベントの運営スタッフ代表であり、大人数のスタッフを束ねる立場でもありますが、どのようなご苦労がありますか?

山下 私たちは社会人と違い報酬がないので、それを「やりがい」で担保しなければなりません。例えば、合コンは「楽しい時間」というリターンが明確ですよね。運営スタッフもやりたいことをやるという点では同じですが、泥臭い仕事や雑用も多い。「飲み会や合宿が楽しい」というだけでは人は残らず組織が持たないため、運営スタッフにいかに仕事にやりがいを持ってもらうかということを、常に意識しています。

 ですので、運営スタッフにはいつも「少しずつ改善を重ねて、どんどん新しくしよう」「とことんこだわってプライドを持ち、そこに達成感とやりがいを感じよう」と言っています。

--大勢の学生が、自ら手を挙げてあえて大変な運営スタッフに参加してくる理由は、やはり「やりがい」ですか?

山下 ええ。早稲田祭は規模が大きいこともありますし、歴史を考えても面白い側面がたくさんありますので、早稲田祭の運営スタッフは本当に恵まれた環境にあるといえると思います。

--今年の早稲田祭の目玉はなんですか?

山下 今年度の「早稲田祭2013」は、「本気であれ。早稲田らしくあれ。」というテーマを掲げていて、それぞれの活動に情熱を注ぎ、本気で取り組んでいる参加団体の熱気、そしてその活動の多様性が目玉ですね。そんな早稲田ならではの光景をぜひ見ていただければと思います。また今年度は、従来は「団体かサークル」単位でのイベント参加だったところに、個人枠をつくったりしました。今年度はサークルありきの学園祭を脱しようと思っています。そこで、例えばジャンルに関係なく、個人がそれぞれの技や芸を披露できる場を設けたりしています。

--あとは天気に恵まれればいいですね。

山下 早稲田の学生の熱気で、早稲田祭2日間は絶対に晴れにしたいと思います(笑)。
(構成=編集部)

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