そうした中、専修学校運営で国内最大手、東京モード学園が運営するコンピューター専門学校「HAL新宿」に通う生徒間でのいじめが発覚した。ところが、東京モード学園は、きちんとした調査もせずにいじめの事実を認めず責任逃れに終始するといった、時代に逆行する対応を取り続けていることがわかった。
HALでいじめの被害を受けたAさん(21)によると、同じクラスで6歳年上のBさん(27)により、およそ2年もの間、「チビ人間」「童貞」「ショタ(少年を対象に愛情を持つ者、いわゆるショタコンの好みの対象となる者)」などのあだ名で呼ばれ続けていた。このほか、Bさんにより授業前に眼鏡や靴を隠される、火のついたタバコをくわえさせられた写真をLINE上で広められたりするなど、幼稚な悪戯が続いたという。
27歳にもなる大人が年の離れた人間にやることかと閉口せざるを得ないが、HALに通うAさんの同級生たちも、年が離れているせいか、止めたりBさんの行為を非難することはなかったという。学生にとって年齢の差が1歳でもあれば上下関係は一方的になるのは当然で、明白ないじめだ。Aさんは我慢を続けたが、昨年11月に耐えられなくなって不登校となり、相談を受けたAさんの父親を通じていじめが明るみになった。
AさんはHALに奨学金で通っているため、いじめが理由で不登校となれば、借金だけが残るという結果となる。Aさんの父親が学校側に具体的ないじめ行為を挙げて調査と対応を求めたが、学校側は早々に「いじめとは断定できない」との「調査結果」を出してきた。
学校側は、「授業前にメガネを取る」「マウスをパソコンの後ろに隠す」「ノートへの落書き」「『チビ人間』『ショタ』というあだ名で呼ぶ」「靴を取り上げる」などの行為があったことを認めた。しかし、「ほかの学生にも同様の行為を行っていた」などを理由として「『いじめ』とは断定できない」といった見解を示している。
ところが、この調査は加害者であるBさんとその友人数人に聞き取りを行っただけ、だということが後に明らかになった。Aさんの父親は次のように憤る。
「こちらが具体的な事実関係の調査をお願いしているのに、それへの事実確認もほとんどされず、加害者側の学生が主張する『コミュニケーションだった』という主張に丸乗りして『いじめとは断定できない』と責任回避をしているようなもの。しかも学校はいじめの事実を認めないばかりか、息子が就学できなくなった理由について、単位の問題だと言っています」
今回の問題で対応に出てきたのは、HAL新宿の学校統括者で、GEなどの企業出身の永来真一氏という人物である。Aさんの父親によると、永来氏は当初から、「私はいじめの専門家ではない」といじめ問題に関する認識を述べることもなく、いじめ防止法の附帯決議に専修学校が含まれていることも知らなかったという。
しかし、永来氏は素人を自認しているのにもかかわらず、学校の見解として前出のあだ名がセクハラなどに当たるかについて、「関係性による」との見解を述べている。関係性によっては問題ないというわけだ。その上で、年の離れたAさんとBさんは「仲が良い関係にあった」として、セクハラやいじめではないとの認識を示しているというのだ。
また、学生のいじめ対策は万全だったとも述べているが、その内実は外部カウンセラー1名が週に1度だけ学校に顔を出し、数千人に上る東京モード学園全体の学生からのカウンセリングを受け付ける、というもの。それも電話対応などはなく、学内に備え付けられている箱に申込用紙を入れた学生に対してのみ、カウンセラーが連絡するという。現在、公立高校はもちろん、私立大学などでもスクールカウンセラーの常駐は当たり前となりつつある。HALの対策は万全とはいえず、アリバイ的と言われても仕方ないだろう。
東京モード学園はこの問題について、具体的な対策を取ることもせずに「調査も十分行った」「これ以上の対応はしかねる」と主張し、現在もAさんは復学できずにいる。同学園創立者としてテレビなどのメディアで頻繁にスパルタ教育などの精神論を説いている谷まさる氏は、東京モード学園について「今考えられる最高の教育環境を整えている」と胸を張っている。コクーンタワー(東京・新宿)などの建物は立派かもしれないが、学生のカウンセリング体制は一般的な学校以下であり、いじめ対応は責任回避を最優先するお粗末極まりないもの。「最高の教育環境」とは程遠いといえるのではないか。
(文=村上力)