テニスなどラケットを使ったスポーツをする人によく発生する、肘付近の筋肉の炎症による痛みを「上腕骨外側上顆炎」または「上腕骨内側上顆炎」、俗称「テニス肘」と呼ぶ。
体全体の使い方が適正でなく、力まかせにラケットを振ってボールを打っていると、手の関節やその近辺の筋肉に大きな負担がかかる。これが続くことによって、筋肉や腱の変性や骨膜の炎症などが発生し、痛みが消えなくなってしまう症状だ。
安静にしていれば特に痛みはないものの、物をつかんで持ち上げたり、タオルを絞ったりすると、肘のあたりから前腕にかけて激痛が走ってしまう。
ビジネスパーソンといえども、パソコンや資料がぎっしりのアタッシェケースを持つ、書類や備品を運ぶ、会議室にプレゼングッズを搬入する、といった“力仕事”はつきもの。家に帰れば子供の抱っこやゴミ出し、重い鍋を使った調理といった作業も待ち受けている。
病院や整骨院で相談しても、通常、返ってくる答えは
・安静にしていること
・湿布を張ること
・サポーターなどを使用して肘に負担をかけないこと
くらいで、即効性のある治療方法はなかなかアドバイスしてもらえない。
ひどい時はステロイド剤を注射することもあるが、効く人と効かない人の違いが顕著なので、特効薬と呼ぶこともできないようだ。マッサージや電気治療が有効ともいわれているが、症状や診断する医師によって意見が分かれるので、こちらも確実な治療法とはいえそうにない。
決定的な治療法がわからないまま痛みが長期間続く、いつ治るかわからない、慢性化してしまうかもしれない、というストレスは大きな心の負担にもなってしまうのだ。
テニス肘の原因は、手首にかかる不自然な力が原因。
かつてテニス肘はタイピストや調理師など、手首を酷使する職業の人にも見られる病気だったが、パソコンが普及してからは普通のビジネスパーソンにも増えてきているようだ。パソコンを長期間使い続けた結果、手首に負担が蓄積して発症、というケースが近年、かなり多くなっているようなのだ。むしろ「腱鞘炎」と言われたほうがピンとくるかもしれない。
ビジネスパーソンのテニス肘の増加の割合や原因に正確な数字はないものの、専門家に聞いてみると、
「ビジネスパーソンがテニス肘で通ってくるケースは、ここのところぐんと増えています」(整体師)
「『テニス肘です』と病名を言うと『え? テニスなんかやっていません』と驚くビジネスパーソンは、ここ10年で倍以上になったような気がしますね」(整形外科医)
と、明らかに増えている様子。
マウスを動かす、キーボードを打つ、という動作は、それだけで見ると、さほど腱や筋肉を酷使する運動には思えない。
●テニス肘を防ぐには?
パソコンを長時間使わないのが一番のテニス肘対策である。そうはいっても、現代においてパソコン抜きで仕事をすることはもはや不可能といっていいだろう。
ところが、パソコンの使い方を少し工夫するだけで、テニス肘をある程度、予防することができるようだ。
テニス肘は、手首や指の不自然な使い方が原因となることが多い。
対策として、パソコン店などに売られている、手首をマウスやキーボードより高い位置に置く「手首クッション」「リストレスト」といった商品を使うのもひとつの手段と考えられる。わざわざそのような商品を購入しなくても、折り畳んだタオルの上に手首の下に置くことで近い効果が得られると言う医師もいる。
パソコンを使う時、マウスとキーボードの両方を使う右手の負担が大きいため、右手にテニス肘が発症するケースが多い。そのため、マウスによるストレスを右手に集中させないように、左手でマウスを使う時間をつくることも有効のようだ。しかし、いきなり左手でマウスを使ってみると、その使い心地の悪さにイラッときてしまう。
やたらキーボードを強く打つ習慣が手首の腱や筋肉に負担となることも、心に留めておいてほしい。バチバチ、ガシャガシャと力一杯キーボードを打つくせは考えもの。打鍵音が周囲にとっての雑音になるだけではなく、自身をテニス肘に導くことにもなりかねないので注意をしたいところだ。
何よりも重要なのは、パソコンを使い過ぎないこと、そして適度な休養と仕事の合間のストレッチだが、「それができれば苦労しないよ」と訴える多くのビジネスパーソンの声が聞こえてきそうだ。
(文=玉置美景/ライター)