「ブラック企業アナリスト」として、テレビ番組『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)、「週刊SPA!」(扶桑社)などでもお馴染みの新田龍氏。計100社以上の人事/採用戦略に携わり、数多くの企業の裏側を知り尽くした新田氏が、ほかでは書けない「あの企業の裏側」を暴きます。

 日本を代表するシンクタンク・株式会社野村総合研究所(東証一部4307、以下「野村総研」)の中国・北京社上海支社副総経理(副社長に相当)が、2008年1月に上海で取引先の日本人女性営業担当者に強制わいせつ行為を働いたとされる、いわゆる「野村総研強制わいせつ事件」。この事件において、大きな動きがあった。

 本事件の概要としては、野村総研の上海支社副総経理(事件当時)のY氏が、取引候補先の日本人女性社員を誘い出し、酒を盛んに飲ませて酔わせ、帰路に就く女性のタクシーに乗り込んで体を触り、さらに女性が家に着くと、一人暮らしの女性宅に上がり、嫌がる女性に抱きついてキスまで迫った事件。

 この事態を知った野村総研は、「Y氏は恋愛と思ってやった」と主張し、Y氏に対してなんの処分もしないことを決定。さらにY氏を近辺に配置しないでほしいとする被害女性からの要求も拒絶。そしてY氏自身も、被害女性が求める謝罪や、今後被害女性に近づかないとする誓約も拒絶し続けていた。

 しかしY氏の強制わいせつ行為の被害は、ほかにも中国のミスコンテストで優勝した女子大生、JALや中国東方航空の上海基地の客室乗務員、取引先の日本人女性社員など多数に広がっていることがわかった。これを受けて被害女性の友人などが集まって被害者支援を行い、この事実を支援者たちが野村総研に通知した。すると、野村総研は被害を告発されたのは名誉毀損だとして、支援者の一人と被害女性を提訴した。

 民事裁判で野村総研は、被害女性について名誉毀損に該当する事実を何も立証できず、和解もできずに訴えを取り下げるという実質上の全面敗訴だった。さらに、支援者に対する裁判でも、野村総研幹部の強制わいせつ行為、そして野村総研による被害女性たちへの脅迫行為は真実であり、名誉毀損にならないと認定する判決が下っている。

 本事件については、民事裁判係属中も警視庁が野村総研側を捜査し、Y氏を強制わいせつ未遂容疑で送検していた事実が明らかとなった。

Y氏は警察の取り調べに対して、事実を認めて「被害女性に謝罪したいと思っていた」としつつ、「会社(野村総研)が出てきたので、謝罪ができなくさせられていた」と述べているという。

 このように、Y氏自身が犯行を認めていたにもかかわらず、野村総研が隠ぺいのためにY氏の口を封じ、「事実無根」と虚偽の主張をして被害女性まで提訴し、さらに被害女性側に組織的な脅迫行為を行っている事実も明らかとなった。

 さらに野村総研は裁判の中で、警察の捜査を受けた後も「警察の捜査など受けていない」と虚偽の証言をしていた事実が明らかとなっている。この一連の野村総研の対応が一部メディアで報じられて以降、大企業としてあるまじき態度であり、倫理上大きな問題があるとして、同社への批判が高まっている。

●野村総研の行為を受け、警視庁が指導

 さらに野村総研は、警視庁の捜査を受け、裁判で強制わいせつ・脅迫の事実が認定された後も、被害女性に謝罪をするどころか、逆に被害女性や支援者にさまざまな嫌がらせと取れる行為をしていたことが今回、発覚した。

 その内容は、野村総研側の強制わいせつ・脅迫が認定された判決について「野村総研が『概ね』勝訴した」と、虚偽ともいえる内容で報道発表を行い、被害女性側の名誉を毀損している。また、被害女性と交友のある人物が社長を務める会社に対して、それを理由に一方的に取引中止を宣告していた事実も発覚。さらには野村総研の代理人を務める森・濱田松本法律事務所が、被害女性のことを「名誉毀損を疑われた被害女性」と事実無根の誹謗中傷を行うなど、反省するどころか、逆にさまざまな手口での嫌がらせが続いているという。野村総研は一連の行為について、強制わいせつ事件発覚時の社長で現会長の藤沼彰久氏が承知した上で行っていることを、同社代理人の弁護士が認めている。よって、今回の嫌がらせ行為も組織ぐるみである疑いが強い。

 これらの嫌がらせ行為を受け、被害女性側が警視庁に被害相談をしていたところ、3月13日、警視庁は被害女性側に「野村総研の嫌がらせ行為を止めるには、根本的な解決のために、和解可能性について弁護士同士で協議してほしい」という趣旨の指導を行った。これを受けて被害女性の代理人弁護士は東京地検と協議。

そして東京地検がY氏側に謝罪するよう促した結果、Y氏は弁護士を通じて犯行を謝罪し、賠償金を支払うとして和解を申し入れてきた。被害女性は、検察に促されるまで謝罪しなかったY氏の態度に誠意が感じられないとして和解を拒んでいたが、警視庁の指導でもあり、今後野村総研の脅迫や嫌がらせがなくなるようにするための和解だという趣旨の指導であったため、やむなく応じたという。ちなみに、性犯罪は親告罪と呼ばれ、被害者からの告訴が維持できなければ立件はできないため、この和解により今後、この事件についてY氏が罪を問われることはなくなった。

●被害者への謝罪も一切の交渉も拒絶

 被害女性の弁護士は、Y氏からの謝罪と和解の成立を受け、警視庁の指導に基づいて次は野村総研に対して通知をした。その内容は「野村総研は幹部の強制わいせつ行為に加えて、隠ぺいのための組織的な脅迫行為も裁判所で事実認定されている以上、被害女性代理人として謝罪を求める意向である。これに誠意を持って解決のために対応されるか否かを警視庁の指導に基づいて確認するので、誠実な回答を求める」という趣旨の文である。

 これを受けた野村総研は謝罪を拒否。さらに一切の交渉も拒絶し、和解の余地などないとする書面を被害女性側に送付したことが明らかとなった。

 さらに野村総研は、幹部の性犯罪および組織的脅迫を事実無根として、名誉毀損の被害を警視庁丸の内署に届け出ていた事実も発覚した。

 このように、大手上場企業が性犯罪加害者側として、警察の指導も拒絶して、挙げ句に虚偽の内容で名誉毀損を主張する行為は、どのように評価されるものなのだろうか。東京都内の弁護士は次のように述べている。

「警察の指導には法的な強制力はありませんが、しかし社会的な責任の大きい大企業としては、誠実に従うべきものです。

ましてや、そもそも被害者側を脅迫している事実が裁判で認定された法人が、警察の指導の上でも謝罪を拒絶し、さらに自社の性犯罪や脅迫行為被害者側への嫌がらせを続けた挙げ句に、『事実無根』だとする虚偽の内容で警察に被害を届け出ていたという行為は、稀に見るほどの悪質なケースであり、とてもではありませんが、倫理上も許さるべき行為ではないと思います」

●求められる大企業としての倫理

 Y氏の海外での性犯罪容疑の捜査を担当した警視庁池袋署の刑事は、被害女性が民事裁判で実質的な全面勝訴をした際には共に涙を流し、海外案件についても非常に困難な中で捜査を続け、真実を明らかにしてくれたという。このように警察も被害女性側に同情するほど、野村総研の対応は不誠実なものとなっている。被害女性側に嫌がらせを続ける野村総研と同社代理人弁護士には、批判が集まるのも当然といえる。

 本民事裁判で野村総研に対して裁判資料を提供しているセブン&アイ・ホールディングス、野村ホールディングスに対しても、刑事で性犯罪容疑として事件化されている事実や、警視庁の指導を野村総研が拒絶している事実を伝え、このような行為を防止するために上場企業として責任ある措置を何か取っているのかどうかとの趣旨の質問をしたが、両社から期限までに回答を得ることはできなかった。

 そして当の野村総研には、これまでにも「犯罪可能性を認識していなかったのか」との質問をしたが、それに対して「当社社員がそのような犯罪にかかわったという事実はない」と発表している。

 本件について警視庁に取材を申し込んだところ、警視庁広報課3係は1週間にわたる調査をした上で「警視庁としては、お答えするする立場にありません」との回答であった。なお、取材の結果、すでに野村総研側の脅迫行為に関する告訴状が警視庁に提出されているという。

 日本最大のシンクタンクである野村総研の実態が露呈した本事件。野村総研と被害女性側の和解は成立しておらず、組織的脅迫が民事裁判でも事実認定されている野村総研は、今後その責任を問われる事態となっている。

 本事件については警視庁や法曹界への取材などを続け、今後の動きに注視して続報を掲載する予定である。
(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)

野村総研、わいせつ裁判敗訴後も、被害女性へ嫌がらせ行為継続、警視庁は指導へ
新田 龍(にった・りょう):株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト。
早稲田大学卒業後、「ブラック企業ランキング」ワースト企業2社で事業企画、人事戦略、採用コンサルティング、キャリア支援に従事。
現在はブラック企業や労働問題に関するコメンテーター、講演、執筆を展開。首都圏各大学でもキャリア正課講座を担当。
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